姉様の身代わりになります。砂の国へ嫁ぐ日、私は復讐を決意した…なのに溺愛されてます。

婚礼の儀

「ん～～、何よ～…
まだ眠い～～もうちょい寝かせて～」

『ケイト様、いけません。支度なさいませ。』

アンリに起こされ、目を擦りながら開けると、3人の侍女達に囲まれていた。

寝ぼけたまま、薔薇の浮かんだ風呂に入れられ、身体を洗われた。

日頃、身体や顔の手入れに無頓着なメイファだったが、オイルやフルーティーで爽やかなフレグランスをつけてもらった。

すごく贅沢で、気持ちよかった。

メイファは、なんだか夢見心地な気分でいる間にウエディング姿になっていた。


トントンッ！ガチャッ！

『あぁ…なんて美しさだ…ケイト…』

ギムレットは、相変わらず返事を待たずに入ってきた。

メイファが、キッと目線をやると、

『いやいや、失礼…ケイトのウエディングが楽しみで待ちきれなかったんだ…』

『ほんとに綺麗だ…』

そういって、マリアベールに隠れたメイファの頬にそっと手をやった。

『では、私は先に大聖堂で待っています。』

ギムレットは、さっさと立ち去った。婚礼の儀の合間にも職務があるそうだ。


残されたメイファの顔は真っ赤だった。

『あらあら…そんなに赤くなられて…』

アンリがニヤニヤしながら言った。

「何よっっフンッ！」

メイファは、顔が赤くなり気持ちが上気するのを誤魔化そうと不機嫌な態度をとった。

・－・－・－・－・－・－・－・－・－

大聖堂での婚礼の儀は、粛々と執り行われた。

『死が二人を分かつまで、愛を誓い、伴に歩んでいこう…』

ギムレットの囁きは甘美であった。

なんと返事をしてよいか分からぬまま、メイファは
「はい」とだけ応えた。

ギムレットは、ベールのかかったメイファの顔にそっと手を添え、額にキスをした。
静寂が2人を包み込み、鳥のさえずりが婚礼を祝福しているようであった。

・－・－・－・－・－・－・－・－・－

夜の晩餐会は、華やかであった。
絢爛豪華な会場に、異国の料理が並び、各国の要人が招待されていた。
楽しげな音楽がながれ、ダンスを楽しむ人達もいた。

メイファもギムレットも、次々と招待客に挨拶をしたりで引っ張りだこである。
料理に手を伸ばす暇はなく、挨拶の度にメイファもシャンパンに口をつけていった。


メイファは、シャンパンのアルコールに酔ってしまい、少し疲れたので、アンリに断って、ベランダへでた。

「はぁ～～、外の空気は、気持ちいいわ～～！！！走り回りたい！！」

ほろ酔いのメイファは、誰も居ないのを見計らって、砂漠に向かって叫んだ。

「ケイトねぇーさまぁーーあいたーーい！」

今夜もホームシックで涙がこぼれ落ちそうだった。



『オイオイッ！それ言っちゃバレるんじゃないのか？』

「え？そこにいるのは誰ですの？」

ギクッとして、振り返ると、そこに立っていたのはギムレットだった。

「殿下…盗み聞きとは、相変わらず失礼ですわね。」

『ハハハ…姉のフリして嫁ぐのとどちらが失礼なのかな？』

グイッと近ずいてくる。

『姉の名を語るなら、もっと上手くやるべきでないのかな？メイファちゃん』

「何をおっしゃってるの？私はケイトです。貴方のお望み通り、祖国の支援と引き換えに嫁いでまいりましたのよ」

急に自分の名前を呼ばれたことで、焦ってしまったが、ケイトとして振る舞うことに専念した。

『確かに…私はエーゲ海の宝石と称される姉妹の噂を聞き、婚姻を申し出た。ケイトは病弱だが聡明な美女だと聞いていたが、やって来たのは、お転婆娘だった…貴方は替え玉だな、妹のメイファだろ？』

更に距離を縮めてくるギムレットから目を離せない。ベランダの柵まで追い込まれてしまった。

「…違うもん…私…ケイトだもん…訳の分からいこと言わないでください…」

メイファは、涙をこらえ、震える声で言い張った。


ハハハ…微笑みながらギムレットは笑った。

『分かった分かった…私が悪かった…そんなに怯えないでおくれ』

震えるメイファを、ギムレットは頭をポンポンと撫で、優しく包み込んだ。