上 下
12 / 14

グリーンプラント①

しおりを挟む
『今日は砂漠を抜けてグリーンプラントへ視察へいく。』

ギムレットはテキパキと視察の準備を整えている。

メイファは、まだ正常な呼吸と心拍数に戻れずにいた。
それはバナナを詰めてしまったせいなのか、それとも…ギムレットペロリ事件(注1)のせいなのか…本人には分からない。

※(注1)ギムレットペロリ事件とは…
今から2時間前、朝食の時、メイファの口元についたバナナ片を、ギムレットがペロリと舐めとった事件である。(少なくともメイファにとっては大事件)


飄々とした態度で話しかけてくるギムレットに対して、メイファは戸惑いをかくせないでいる。

(さっき朝食で、あんなハレンチな事をしておいて…何事もなかったようだわ…。ホントに失礼な男だわ。)

『ラクダに乗っていく。ケイトは、私の後ろに乗るといい。』

3頭のラクダに分散して跨り、出発することになった。アンリも同行してくれている。

パナギア王国からの道中もラクダだったがやはりまだ慣れていない。しかし、メイファは、このラクダからの眺めは好きだった。高さがあり、遠くまで見渡せる。

歩き出したラクダの上はバランスが取りずらく、ギムレットの背中にしがみつかなくてはならなかった。

『ハハハ、さすがのお転婆ちゃんもラクダの上ではしおらしいな…』

他の従者には聞こえない声で面白がっている。

ギムレットの腰に手を回してラクダに乗りながら、メイファはギムレットの背中の大きさを実感していた。

メイファにはもう分かっていた。
自分がこの男に惹かれていることを…。
仕事に忠実で、視野広く活動し、国民を思う気持ちは尊敬に値する。
パナギア王国の父は、政治を行うには愚鈍であったため周辺国の情勢に右往左往するしか無かった。だが、この男は違う。

婚姻に関しても、正体を知った上で責め立てる事もせず、私の嘘を暴くことなく、寧ろケイトと呼んで変わらずに接してくれているのだ。

(だけど、失礼なのは間違いないわね。人の頭をくしゃくしゃにしたり、勝手に頬に触れたり…私のく、口元をな、舐めたり…)

「ほんっと許せないっ!」

考えていた事が思わず口に出てしまった。

『何が許せないんだい?』
前に乗っているギムレットが振り向いて言った。

ギムレットが急に振り向いたことに驚いて、メイファは手を離し体を起こした。その拍子にグラリとバランスを崩した。

ギムレットは、メイファの手をグイッと掴み、自分の腰に回させる。
手を優しくポンポンっと叩き、『しっかり掴まっとけ…』とぶっきらぼうに言った。

ギムレットは、最近、2人きりの時に砕けた物言いをする…その度にメイファは胸の鼓動をバレないようにしなくてはいけなかった。

宮殿から南へどれくらい進んだだろうか。しばらくすると砂漠の景色の中にオアシスが見えてきた。中心には透明のドーム型の建築物が建っている。

『ケイト。あそこが、今日の目的地グリーンプラントだ。私の夢が詰まっているところだよ。』

メイファには、ギムレットの目がキラキラ輝いて見えた。
しおりを挟む

処理中です...