異世界での俺はただの無能でした。

らろぱ

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異世界

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「良い天気だなぁ」
外に出ると快晴が広がり、涼しく出掛けるには最適の日だった。
今日は久しぶりに会社で有給をとり、娘と妻の3人で遊園地に行くことにした。
いつもは忙しく、娘の面倒も見れなかったため、今日という日をとても楽しみにしていた。

「遊園地♪遊園地♪」
娘が車の中で歌っている。

「よし!飛ばすぞー!」

「速度はちゃんと守ってよー」
妻のツッコミが入ると家族全員で笑った。

遊園地に着き、メリーゴーランドや観覧車などで遊んでいると、娘は「あるけない」と目をこすり、「おんぶするよ」と娘をおんぶすると、背中でもう眠ってしまった。

「だいぶ疲れたんだろうな」

「遊園地に来るなんて久しぶりだもんね」
妻は娘の頭を撫でた。

「ありがとうな、家事から娘の事まで…」

すると妻は「あなたは仕事に集中すればいいの!あなたのお陰で私たちが生活費出来てるんだから」と微笑んだ。

車に戻ると携帯の着信音がなった。
名前を見るとそれは父からだった。
「もしもし」

「すぐに私の元に来い!」
一喝され飛ぶように自宅に帰り、妻と娘を降ろした。

「また実家から?」
妻の問いかけに「あぁ」と不機嫌そうな顔をし返事をすると寝ていたはずの娘が目を覚ました。

「お父さんどこかにいくの?」

「じいじの所だよ」
娘は目をこすりながら話していた。

「お父さんじいじの所に行ったら悲しい顔して帰ってくるからいや」
娘に心配をかけていたことに初めて気づかされ、自分の無力さに苛立ちと情けなさが湧いた。

「帰ってくる時にケーキ買ってきてあげるから
楽しみにしててね」

「やった!」
娘の健気な喜びが少しだけ心に余裕を持たせてくれた。

「あなた…気をつけてね」
妻の笑いながらも心の奥底では心配してくれているのが妻の目から感じ取れた。

「…じゃあ行ってくるよ」

すると娘は「ばいばい」と手を振った。
なので手を振り返し、実家に向かった。

俺の実家は一般的な家庭とは少し違っている。
父と兄はどちらも医者、姉は弁護士、いわゆるエリート一家だ。
しかし、俺はサラリーマンだ。
格差が目に見えてわかる。
なので父からは「落ちこぼれ」兄からは「恥ずかしい」と蔑まれた。
そんな中、姉と母は俺を擁護してくれる。
そのお陰で何とか俺は立ち直る事が出来たのだが、母は俺が高校に上がる頃に亡くなってしまった。

それから父と兄の仕打ちは酷くなっていき、姉も擁護するのを躊躇うようになってしまった。

そのせいでメンタルは崩壊し、幼い頃の持病が再発してしまうほど重症だった。

なんとか大学生まで我慢していたが、もう限界で自殺することも視野に入った。

そんな時に助けてくれたのが今の妻だった。
彼女は幼なじみで高校で別々になり、大学で再会した。
久しぶりに会った妻には中学生の頃の面影がないほど辛そうな目をしていたと言われた。
そんな俺に真摯に向き合ってくれた彼女に俺は一途になり大学を卒業する時に彼女と結婚し、娘も生まれ幸せな暮らしをしていた。

その時から実家とは心の中で縁を切ったつもりだったが、たまに呼び出される。

今の働いている会社の社長と父は仲が良く、父の機嫌を損ねて、クビにされると妻と娘に迷惑がかかるので
何とか呼び出しに応じている。

今日は何の用だろうか。
実家に近づく程鼓動が早くなっていくの感じる。
辛い。
この二文字以上に今の状況を説明できる言葉は無かった。

なんとか実家に着くことが出来た。
これからまた嫌みを言われるのだろうか。
足どりが段々重くなっていく。

チャイムを鳴らすと、使用人が出てきた。
「ケイです」

「ケイ様、少々お待ちください」

扉が開き中に入った。

「旦那様、ケイ様です」

父は溜め息をついた。
「役立たずの息子が、もっと早くこれんのか?」

そこにはテーブルに着く父と姉と兄がいた。

「すみません、運転が下手くそなもので…」

「能もなく、運転も下手とは呆れたものだなぁ
本当にお前は一家の血が流れているのか?」

兄が嫌みったらしくそう言うと、内心怒りが湧いた。
昔は姉が擁護してくれのに、今では姉は黙っている。

「今日は何の御用ですか?」

「最近お前の業績が悪いと会社から連絡があってな、しかも体調不良で休むだとか、お前はいつまで私を困らせるつもりだ!」

父に一喝され、あの頃のトラウマが蘇った。
逃げ出したい、その一心だけだった。
後ろのドアを開けて帰ろうとした。

しかし父は話を続けた。

「お前も母親と同じ弱者だな
精神的に辛いとかですぐに逃げ出しやがって
甘くないんだよ!社会ってものは!」

父は机を叩いた。
母のことを話題に出されたことで俺の沸点を悠々越えた。

「ふざけるな、母さんは弱者なんかじゃない」

父を睨み付けると不気味な笑みを浮かべた。

「お前もあいつと同じ目をするな
あいつは精神的に病んでいた、お前を擁護しているうちにな。弱者が弱者を庇っても生まれるのは傷だけなんだよ」

「…は?」
誰のせいで俺も母さんも辛い思いをしなければならなくなったのか。
目からは悲しみではなく怒りの涙が流れた。
そして理性がなくなり、拳を握りしめ父に近づいた。

「父さん、母さんの話はもうやめて」
姉の注意も受け付けず、父は俺が殴り飛ばすまで、ずっと母の事を悪く言っていた。

何が起きたのかわからなかった。
気づいた時には俺は父を殴り飛ばし、兄は愕然とし姉は泣いていた。

「親に手を出すとは!二度と私に近づくな!
お前とは縁を切る!会社にも二度と行くなよ」

最後まで口を閉じなかった父に呆れ、俺は家を出た。
去部屋を出るときに「ケイ…!」と姉の声が聞こえたが、気にもとめなかった。

なにも考えずに車を走らせた。
正気に戻った頃には妻と娘の事が頭に浮かんだ。
不安要素が増えるたび、胸が締め付けられるように痛くなった。

「痛い…」
 胸の痛みが深刻になったので、車を止めた。

「これは…やばいな」
車から降りて、救急車を呼ぼうとしたが、足が地面についた瞬間に足の力が抜け、倒れこんだ。

「最後は誰もいない山奥か…
最後くらい家族に囲まれて幸せに逝きたかったな」

全身から力が抜け、「もうダメか」と思うと涙が溢れた。



「おい!あんた大丈夫か?」
肩を叩かれ、男の人声がした。
目を開けると十分すぎる日差しを感じた。

「あれ?俺…生きてるのか?」
確かにあの時死んだはずなのに、生きていたとは。
人間の可能性に感動した。

「とりあえず立てるか?」
男の人の支えによって立つことは出来た。

「すみません、ありがとうございます」
男の人はヘンテコな服装をしていた。
まるで昔の人のような、獣の皮で作られた衣類に鎧のような物を着けていた。

山奥の田舎には常識を覆す程の伝統があったりするので、変な目で見るのは失礼に値する考えた。

「すごい服装ですね、かっこいいです」
と言うと男は「え?これが普通なんだけどな?というかあんた鎧も着けなくて大丈夫なのか?ここら辺には魔物がいるのに…」

魔物とは農作物を荒らす動物の事を意味しているのだろうか。
「あぁそれなら大丈夫ですよ、そういえば山をおりたいんですけど道とかわかりますか?」

そう訪ねたが男は首をかしげた。

「山…?」

男の回答に違和感を感じ、回りを見渡した。
しかし、回りには草が生えているただの草原だった。

「あれ?ここにあった車知りません?」

俺は車を降りた直後に倒れたから、すぐ近くに車があっても良いはずなのだが、どこにも見当たらなかった。

「車?これの事か?」

と男は馬のような動物を縄で繋いだ馬車を指を差した。
少しずつ不安が高まり、それは恐怖と化していた。

「とりあえず、近くの町に案内して貰えませんか?」

そう言うと男は「俺も用事があるからいいぞ」と馬車に乗り込んだ。

今の日本でもこういう暮らしをしている人がいたことに驚きを隠せなかったが、なんとか我慢して普通に振る舞おうと努力した。

走り続けたが、本当に草原しかなかった。

荷台の窓から景色を見たが、見たことのないものだった。

そして、町の入り口らしきところを通った先にはたくさんの家があったがこれも日本というよりは昔の西洋のような町並みだった。

「着いたよ」男に言われ荷台から降りると、男と同じような服装をしている人や鎧を着けている人も見かけた。

「すみません、ありがとうございました」
礼をすると、男は「困ったことがあったら相談してくれよ」と優しい一言で締めくくり、男は歩きだした。

「…家に帰れるかな?」
その事だけが今一番深刻な問題である。


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