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第二章

31. 花の情報

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 レオポルドは風魔法で空を飛んでいた。
 長距離移動なら恐らくレオポルドがこの国で一番早い。
 馬車なら十日かかるところを、空を飛んでいけば数日で着く。しかし風魔法で日中ずっと空を飛び続けるのは、風属性の魔力が溢れるほどあるレオポルドにしかできない。
 さすがにぶっ続けで飛び続けるのは、レオポルドでも疲労困憊になるが、一刻も早く王城に戻りたかった。グリーゼルのことも心配だし、バートランドの無実も証明したい。
 飛び続けた後は宿を取り、泥のように眠り、起きたらまた飛び続ける。
 そうして隣国から情報と花を買い付け、花を守りながら帰るところだった。

 プチッ……。
 突然花を入れていた袋の紐が切れた。
 斜めになって落ちていく花をすぐに風魔法で回収する。

「くそ……こんなことしてる場合じゃないのに……」

 レオポルドは焦っていた。
 すでに数日風魔法で飛びっぱなしで、疲労の蓄積が著しいのも要因かもしれない。
 しかしそれだけではないぞわりとした胸騒ぎがずっとしていて、帰路を急いでいた。
 しかも花を守りながら飛ばないといけないので、行きよりもスピードが落ちていたし、神経も削られる。

 気を取り直して飛び続けること数時間、やっと王都が見えてきた時だった。
 フラフラと高度が落ちてくる。もう限界が近かった。落ちればただでは済まない高度。一度地面まで降りることにした。くっと悔しそうに呻いたがハァハァ息も切れているし、もう飛べそうにない。仕方がないのでトールキンにフーワをかけた。

「トールキン、今王都の外れにいる。すまないが迎えに来てくれないか?」

「如何なさいました!? まさか負傷を!?」

「いやただ飛び続けて魔力が切れそうなだけだ」

「そうでしたか。今すぐお迎えに上がります」

「頼む」

 そう言ってフーワを切ると、少しでも進もうとヨロヨロと街中を歩き始める。
 人通りが多いところまで来ると、気のよさそうな青年が近づいてきて話しかけてきた。

「兄さん、大丈夫か? 顔真っ青だぜ?」

 正直話す気力もなかったが、心配してくれてるのを無碍にはできない。

「大丈夫だよ。ちょっと魔力切れを起こしちゃってね」

「どんな無茶をしたら魔力切れなんて起こすんだ?」

 さっさと会話を終わりにしたいのに、まだ話しかけてくるのを鬱陶しく思いながら、答える。

「これを運んでるんだ」

 チラッと袋の中身を見せる。
 隣国でも珍しい花だ。王都にいるような男が知る筈もない。興味を失ってさっさと行ってほしかった。しかし予想外の返答が来る。

「んー、……アコーニタムか?」

 えっ!と振り向いて、初めて青年の顔をまじまじと見る。

「意外か? まぁ、珍しい花だからな。俺は隣国の出身なんだ。故郷で商品として扱ってたことがある」

「この花について調べてるんだ。知っていることがあったら、教えてくれ」

 ヨロっと青年の方に向き直り、今までのおざなりな態度とは打って変わって詰め寄るように近づく。

「……おいおい、そんなフラフラでまだ仕事かよ? 分かったから、そこ座って話そうぜ。少しは休めよ」

 促されるまま、近くの木箱に腰掛け話を聞く。正直もうヘトヘトだったから、ありがたい申し出だった。その上アコーニタムの話も聞けるなら願ったりだ。

「その花は今は薄い青紫になってるだろ? 隣国では白いんだよ。青くも紫になることもない。多分この国の魔力が関係してると思うんだよ」

 色のことは聞いていたが、魔力が関係しているなんて初耳だった。

「この国の魔力が……?」

「ああ、隣国でも魔力が濃いところに持っていくと、うっすら色が青みがかるんだ」

「確かに買った時は白かったのに、日に日に色が濃くなってきた」

「そうだろ? つまりこの花は魔力を貯めるんだ。でも取り出すには制約がある」

「制約?」

「ああ、木魔法でしか取り出せないのさ」

 初めて聞く情報だ。
 木魔法が使えれば、毒を噴き出すことも可能だろうか。

「この花自体が毒を産み出すことはあるのかい?」

「ん? いやー、聞いたことないな。木魔法でどうこうすることはできるが、この花自体が何かするところは見たことない」

「そうか。……ありがとう。有益な情報だった」

 もう大分休んでしまった……と立ち上がり、行こうとするの呼び止められる。

「待て待て。あんた焦りすぎだぜ」

「急いでるんだ。情報には感謝してる」

「分かった分かった。俺はシスって情報屋だ。そこの酒場によく居るから、また情報が聞きたくなったら呼んでくれ。今度は有料だがな」

 シスはあー、くそ、金になんなかったぜ……と悪態を吐きながら行ってしまう。
 そこにトールキンからフーワがかかる。

「坊っちゃま! 王都の外れのどの辺でしょうか?」

 久しぶりの坊っちゃま呼びにガクッと力が抜けそうになりながら、場所を教えて合流した。
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