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~プロローグ~ 動き出す闇の一族

再戦の約束。一方的過ぎるけど

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「鬼神族一の勇者剛角っ、ただいま参上じゃあっ!」

 新手の鎧は跳躍し、一同の前に着地したのだが。

『………………えっ???』

 一瞬、誰もが目を疑った。

 彼はよりによって人間側の、香川やカノンの傍に立っていたからである。

 もう1体の鎧がたまらず怒鳴った。

「剛角のどアホっ! そっちは敵じゃ!」

「うおおっ、ほんとじゃ、間違えたぁっ!?」

 剛角と呼ばれた鎧は、慌てて立ち位置を移動させた。それから腕組みし、しきりに首を傾げている。

「……お、おかしいのお、なーんで間違えたんじゃろうのお……???」

「知るか、この単細胞っ! ていうか姫さん、殲滅呪詛はあかんじゃろ!」

 斧を持った鎧は、そう言いつつ燃え上がる仲間に駆け寄った。

「しめた剛角、まだ術が浅い! 今なら戻せるぞ!」

「ほんとか紫蓮、助けを呼ぼう! 医者はどこだ!?」

 金棒を持つ鎧は、慌ててぐるぐる駆け回っている。

 誠達は呆然とその様を眺めていたが、不意に鶴が呟いた。

「なんか気が抜けたわね。ここらで退却しましょうか」

「せ、せやな、トドメさすと呪いもらうんやろ?」

「そーだぜ、敵の作戦も阻止したしな」

「同感だ、ひとまずおいとまさせて貰おう」

 隊員も口々に同意したため、誠達はそそくさと退却を始めた。亀に飛び乗ると、そのまま陸を後にするのだ。

「ごめんね、また今度戦いましょう」

 鶴が胸の前で手を合わせると、燃え上がる鎧を光が包んだ。鎧から立ち昇る禍々しい炎は、少し勢いを弱めたようである。

 コマは不満げに口を尖らせた。

「ねえ鶴、なんで治してあげたのさ」

「……知らないけど、なんとなくそんな気になったのよ」

 鶴は腕組みし、自分を納得させるようにそう言った。

「逆恨みで呪われても知らないよ。あの手の相手は執念深いんだから」

「その時はまたコテンパンにするわ。それにあれだけ焼かれたんだもの、当分は戦えないわよ」

 鶴の言葉に、画面で難波が肩を竦めた。

「……当分って事は、そのうち復活するんやな。うちはパス、次は最初っから鳴っちがやりや」

「いや、俺だってヒメ子がいなきゃ、あんな相手近づけないし」

 だがそこで後ろから大声が響いた。

 あの剛角と呼ばれた鎧が、こちらに向かって怒鳴っているのだ。

「こら待ててめえらっ、わしとの決着はどうするんじゃあっ!」

 相手は飛び上がって怒っているが、流石に自力では海を渡れないようだ。

 しばし地団駄を踏む鎧だったが、やがて右手を掲げると、こちらに何かをぶん投げたのだ。

「何だ……?」

 誠はモニターに目を凝らした。

 弧を描き、きらきら輝く『何か』は、ぐんぐんこちらに近付いて来る。

 誠は無意識に機体を操作し、片手でそれを受け止めていた。

「受けたな、ちゃんと覚えてろよ! 次こそは必ず……」

 声は波音に掻き消され、次第に聞こえなくなってしまった。

「あいつ、何を寄越したんだ?」

 誠はそっと機体の手を開いた。現れたのは、直径5センチぐらいのたまである。宝石のように透き通っており、全体がぼんやりと青紫に光っていた。

「罠でもない、発信機でも無さそうだけど……」

 誠が不思議がっていると、コマが肩に飛び乗ってきた。

「あーあ、厄介な物を受け取ったね。あれって約定珠やくじょうだまだよ」

「約定珠?」

「鬼が魔力を固めた結晶さ。必ず再戦するから、次会う時まで持っておけ……要するに果たし状だね」

「うっ、無視しとけば良かったな……」

 誠はそう言いつつも、内心かなり複雑だった。

 以前から少しずつ胸に積み重なってきた疑問は、もう放置出来ないレベルに膨れ上がっていたのだ。

 餓霊とは、魔界から湧き出た悪霊ども……かつて女神はそう言った。地の底に封じられていた邪悪な魂が溢れ出し、大地のエネルギーを利用して実体化したものだと。

 だったらあの鎧達は何なのだ?

 彼らは明らかに餓霊とは異なる存在である。

 はっきりした意思や感情を持ち、挙句の果てにこんな果たし状まで投げつけてきた。

 自分たちが何と戦っているのか、何をどうすればこの戦いが終わるのか……知らない事が多過ぎるのだ。
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