新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第二章その1 ~九州が大変よ!?~ いよいよ助けに行きます編

望月カノンの恋わずらい2

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「線も千切れたし、頭にも乗せられないし。困ったわねえ」

 鶴は椅子ごとカノンを起こしながら考えている。

 カノンは乱れ髪のまま、荒い呼吸で項垂れていたが、そこで鶴がぽんと手を打った。

「そうだわ、今度はラジオにしましょう。これならもっちゃんの心根こころねを、勝手気ままに受信できるわ」

「ちょ、ちょっと!!!???」

 カノンが焦るのをよそに、映写機はたちまちラジオの姿に変わる。ラジオはしばらくガーガー言っていたが、やがて声を発し始めた。

「こんにちは、パーソナリティーの望月カノンです。私の悩み事は、ずばり……」

 そこで急激にカノンが叫んだ。

「ああああああああああっ!!! わーっ! きゃーっ! うわあああっ!!!」

「もっちゃんがうるさくて聞き取れないわ」

 鶴は耳に手をかざしていたが、諦めて腕組みをした。

「どうしてこんなにいけずなのかしら。そういう年頃かしらね」

 鶴の感心をよそに、とうとう神使達がカノンの口をテープで塞いでしまう。

 カノンは涙目で難波に視線を送っているが、難波もどうする事も出来ない。

 ラジオは残酷にも、カノンの内心を読み上げ始めた。

「私の悩み事は、まずはズバリ、恋煩いです。好きな男の子がいて、現在絶賛片思い中です。あとは……」

「まあ、そんな事だったの! それなら早く言ってくれればいいのに」

 鶴は何でもない事のように言って、神器のラジオのスイッチを切った。

 神器は映写機の形に戻ったため、鶴はそれを懐にしまった。

「けど姫様、お相手を聞くのを忘れてやすぜ」

 神使の猿の言葉に、鶴は得意げに首を振った。

「ウキちゃん、それはデリカシーが足りないわ。本人の口から聞いた方が、何倍もハートフルだもの」

 鶴が機嫌よくカノンの縄とテープを取ると、龍がテーブルを持ってきて、カノンの前にでん、と据えた。

 鶴はテーブルの向かいに腰掛け、カノンに優しく語りかける。

「さ、カツ丼よ。白状すれば楽になるわ」

 食堂の人気メニューである海カツ丼……オキアミを練ってジャガイモチップの衣を付け、香ばしく揚げたカツの丼を机に置き、鶴は取調べを開始する。

 コマ達神使の分も用意したので、彼らは喜んでそれを平らげていく。

「それで、好きになったのはいつ頃?」

「……ず、ずっと前です……すごく昔……」

 カノンは椅子に溶け込みそうに小さくなって俯いている。

 首筋も耳も真っ赤になって、今にも湯気が出そうであった。

「まあ、一途ねえ。私にも気付かせないなんて、忍びの素質があるわ」

 鶴は頷いて湯飲みからお茶を飲んだ。

「で、あなたはその人とねんごろになりたいと」

「……そ、それは」

 カノンが口ごもるが、鶴が映写機を取り出したので慌てて言った。

「なな、なりたいです、ねんごろに!」

「素直ね。で、ズバリその人は誰なの? さあ吐いて」

 そこで難波が見かねて止めに入った。

「つ、鶴っち、それは伏せといた方がええで。世のお悩み番組とかもそうやん?」

 難波が出した図を見ると、匿名のAさん、B子、C子といった人物が図示されている。

「ほ、ほらな、こうやって図に描くのも面白そうやん?」

「確かにそうね、やってみましょう」

 鶴があっさり納得したので、カノンが何度も難波に頭を下げている。

 鶴はカノンから事情を聞きだし、ホワイトボードに図示し始めた。

「なるほど、あなたは昔からM君をずっと好きで、影ながら支えてきた。でも最近になってH子さんが現れた。H子さんは日本を守る立派なお役目をしていて、あなたもH子さんのお世話になっているから邪魔したくないと。でもここがこしゃくなところね。M君は昔から、年上のY菜さんを一途に思っていて、Y菜さんも彼をメチャラブだと」

「は、はい……」

「そして最近、M君とY菜さんがくっつきそうになっていて、もっちゃんことKノンちゃんは気が気ではない、と」

「いや、カノっちは伏せ字にせんでもええやろ」

「お、概ね……その通りです……」

 カノンは茹でダコのような色合いになり、頭から蒸気が盛んに出ていた。

「へえ、意外だな。カノンにそんな可愛いとこがあったなんて」

 誠は素直に感心するが、カノンに睨まれて慌てて黙った。

 鶴は燃える瞳で拳を握り締めた。

「とにかく事情は分かったわ。ここは恋の大戦おおいくさよ、私も協力するから一緒に頑張りましょう!」

 カノンはたまらず飛び上がった。

「い、いいい、いいから、私自分でやれるからっ!!!」

「遠慮しないでもっちゃん、こういう時は、年上のアドバイスも聞くべきよ」

「とととっ、歳はそんな変わんないでしょっ!」

 鶴は戦国時代の人間なので、500年以上は生きているのだが、カノンは余程混乱しているらしい。

 だがそこで神使のキツネが、更にとんでもない提案をしてきた。

「そや姫様、年上に相談やったら、あの司令官も連れてきたらええで」

「えええええっ!?」

 カノンが絶叫するが、鶴はキツネの頭を撫でる。

「それよコンちゃん、南蛮風に言えばナイスアイディアだわ! 早速雪菜さんも呼んできましょう!」

 鶴は光に包まれて消えると、瞬く間に妙齢の女性を連れてきた。

 金の髪を長く伸ばし、モスグリーンの軍用ジャケットをまとうその人こそ、誠達高縄半島守備隊の司令官たる鶉谷雪菜うずらたにゆきな少佐……そして何より、誠の最愛の女性であった。

 雪菜は鶴に引っ張られ、不思議そうに一同を見渡す。

「どうしたの鶴ちゃん……あっ、ななな鳴瀬くんっ……!」

「ゆ、雪菜さん……!」

 雪菜は誠を一目見るや、赤い顔になって戸惑ったので、誠もつられて赤くなった。

 あの事件……つまりキスをかわして以来、2人はいつもこんな感じなのである。

 難波がぼそぼそとカノンに耳打ちした。

「当事者勢ぞろいやんか、なんちゅう地獄絵図ねん。前世で何したらこないな目にあうんやろな」

「あっ、あたしが知りたいわよっ」

 鶴はそんな一同をよそに、手短に事情を説明する。

「実はかくかくしかじか、もう面倒だから、頭に直接送るわね」

「ええっ、こここ、恋の相談っ!!?」

 内容を理解した途端、雪菜はあからさまに動揺する。

「ゴホゴホ、そそそりゃあ、私もおねおね、お姉さんだからそのぐらいは、その、」

「そうでしょう。ここは一つ、ズバッともっちゃんにアドバイスをして欲しいの。もっちゃんの恋が報われるように。子孫がズンドコ繁栄するように」

「そ、そそそうね、でも当事者を見てないのに、アドバイスなんて出来るかしら???」

 雪菜は大量の汗を流しながら言う。

 鶴は首を傾げていたが、もっともだと感じたようだ。

「確かにそうね。じゃあまずはそのH子さんとY菜さんを見に行きましょうか」

「それは本当にやめてえっっっ!!!!!」

 カノンは思わず絶叫するが、鶴はますます不思議そうである。

「どうしてなの?」

「い、忙しいから! きっとみんな忙しいのよ」

「忙しいなら会うのは諦めましょうか。神器の映写機で見ればいいし」

「お願いだからそれもやめてぇぇっ!!!」

 カノンが涙目で嘆願したが、その隙に雪菜はそそくさと立ち去っていく。

「あっ、ごごごめんなさい鶴ちゃん、私、よよ用事を思い出したわ! また今度聞くから、それじゃまたねアディオスエンドダッシュ!」

 雪菜はクラウチングスタートのポーズをとると、風のように走り去って行った。
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