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第二章その2 ~助けに来たわ!~ 怒涛の宮崎撤退編

考えたらいけない戦い1

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「到着、ここが鎮西ね!」

 コマの着地で舞い上がる粉塵をものともせず、鶴は力強く叫んだ。

 鶴の後ろにいた誠も、素早く状況を確認していく。倒れた人型重機や車両の位置を、そして襲い来る餓霊どもの編成をだ。

(小型なし、中型多数、大型1……何だ、あのバスから生えてるみたいなヤツは?)

 炎をまとう巨体の餓霊を見つけ、誠はまじまじと目を凝らした。

(サイズは武将級ぐらい。磁場の感じから、火力は狗王型くおうがた以上か。ヤドカリみたく、バスの車体に入ってるのか?)

 環境変異の影響で、誠の視細胞は敵の生体磁場を見る事が出来る。その磁場の状態から、相手の大まかな強さとエネルギー量を推測したのだ。

 だがそんな事よりも、敵のバス型の下半身から覗く無数の手が、誠の注意を引き付けた。

「ヒメ子、あの手、中で人が生きてるのか!?」

「誰もいないわ! 攻撃出来ないよう、わざと人を真似てるの!」

 コマは周囲の餓霊を蹴散らしながら、轟くような声で咆えた。

「鶴、流石に目障りだ! あの忌々しい幻術を解け!」

「任せてコマ!」

 鶴が目を閉じて念じると、光の波動が周囲に広がる。

 巨体の餓霊はその波動が不快なのか、体を仰け反らせ、もがくように4本の腕を振り回した。

 するとバスから伸びた人の手は、いかにも怪物のそれに姿を変えたのだ。

「これで気兼ねなくやっつけられるわ!」

 鶴はざまあみろとばかりに言うが、現地の人型重機や車両班はダメージが色濃く、思うように動けないようだ。

 誠達のすぐ傍には、一体の人型重機がバスを背にし、守るような形で項垂れていた。

「ヒメ子っ、俺をあの中に飛ばせるか!?」

「もちろん!」

 鶴が答えると、たちまち誠は光に包まれ、人型重機の中に降り立っていた。

 操縦席には、長い髪を日本人形のように伸ばした少女が気絶している。

「ごめん、ちょっと借りるから」

 誠は彼女を補助席に移し、ベルトで固定すると、自らが操縦席に座った。

 そのまま右横の操作パネルコンソールを叩いて、操作説明マニュアル状態確認画面ステータスウインドウを表示させた。

「ダメージ軽度、操作系統は第5船団とほぼ同じ……これならいける……!」

 誠は機体の身を起こし、周囲を警戒しながら武装を確認した。

 第5船団のそれより大口径の突撃小銃アサルトガンは、出力は高めだが装弾数がやや少ない。

「腰のコネクターからケーブルを繋いで、銃の威力を上げられるのか。機体は……筋力と属性添加機のパワーはあるけど、装甲が厚くて、動きはちょい重め……」

 気付いた餓霊が突進して来るのをかわしながら、誠は忙しく情報に目を通す。

 ほぼ全ての項目が威力重視に設計されており、それだけこの九州に強い敵が多い証拠なのだろう。

「大体分かった。あとは試しながらいくか……!」

 誠は通信画面を開き、表示された少年少女に呼びかけた。

「突然失礼、当方は第5船団高縄半島守備隊所属、鳴瀬少尉です! 説明は後でしますが、わけあって加勢します!」

「……な、なんだお前……?」

「一体どうやって来たんデスか……?」

 活発そうな少年が、そして外国風の少女が呟いたが、誠は構わず戦闘を開始した。

 迫り来る爪を、機体を僅かに捻ってかわすと、強化刀で敵の頭を切り飛ばす。

 そのまま右手でアサルトガンを構えると、連射モードに設定変更。突進する別の餓霊に照準を合わせ、1発だけ射撃を浴びせる。

 赤い光の幾何学きかがく模様が浮かび上がり、弾丸はそこで弾かれるが、着弾で光が乱れた箇所を狙い、正確に強化刀を差し込んだ。

 餓霊は顔面を貫かれ、痙攣しながら崩れ落ちていく。

「あ、右から、危ないデスよ!」

 少女の忠告通り、右から大型の餓霊が迫るが、周囲を覆う磁場の揺らぎから、誠はそいつの思考を読み取る。人であろうと餓霊であろうと、何かを考えれば生体電流が発生し、磁場に変化が出るからだ。

 相手の思考を理解した瞬間、敵の行動は映像イメージとなって、事前に誠の頭に浮かんだ。

 頭上から爪で叩き伏せるつもりらしく、ここまで相手の動きが分かれば、後は簡単なお仕事である。

 誠は僅かに機体をバックステップ、攻撃が空振りしてつんのめった餓霊を、足で押すように蹴飛ばした。

 餓霊は叫び声を上げながら転倒し、周囲の仲間を巻き込んでいく。

 だんご状態になった餓霊にアサルトガンを構えると、誠は落ち着いて弾を叩き込んだ。

 誠はそのまま周囲の餓霊を立て続けに切り伏せていく。

 どの相手もほぼ一撃で片付けるため、瞬く間に数十体の敵が消滅したのだ。

「お、おおお前っ、何が、一体……???」

「あ、あなた何なの? もしかして壮太の友達? それともどこかの撃墜王エースなの???」

 画面に映る一同は口をあんぐりさせているが、今は説明している暇はない。

「説明は後でするから、動けるなら怪我人の救助を!」

 誠がそう言うと、彼らは混乱しながらも機体の身を起こした。

 衝撃で一時的に動けなかっただけのようで、どうやら負傷も軽そうである。

「ヒメ子、コマ、大丈夫か!?」

 誠は鶴とコマを気遣い、2人に加勢しようと振り返った。

 九州に着いて間もないため、この土地の霊気と馴染んでいない鶴は、まだ強い魔法が使えないはずなのだ。

 …………そう、はずなのだったが。

 横転した避難バスの向こうでは、コマとその背に乗る鶴が奮闘している。

 コマは餓霊をくわえて振り回していたし、鶴は太刀をバットに変えて、かたぱしから敵をかっ飛ばしていた。

 カキン、カキーンと小気味良い金属音が響き、餓霊は次々海に落ちていく。

 あっ、これ考えたらいけないやつだ、と思い、誠は2人から目を逸らした。

 あの燃え上がる巨体の餓霊は、いきなり現れた誠達に面食らったのか、距離をとって警戒している。

 だが次の瞬間、物凄い咆哮が響くと、彼方から別の炎が近付いて来た。

「……ま、まずい助っ人さん、誰だか知らないが、もう一体火車が来たぞ……!」

 画面上で、メガネをかけた賢そうな少年が忠告してくれる。

「成程、あれは火車っていうのか」

 誠は頷くと、通信画面で鶴に伝えた。

「ヒメ子、もう一体の火車は頼む。一体はこっちで引き受けるから」

「任せて黒鷹」

 鶴はそう言って画面上でウインクするが、そこで先の火車が誠に向かって踏み出した。増援を得て気を良くしたのだろう。

 下半身の巨大な口が、唾液を滴らせながら大きく吠えた。
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