26 / 90
第二章その2 ~助けに来たわ!~ 怒涛の宮崎撤退編
冥界から来た火の車2
しおりを挟む
「よおしっ、このまま叩き込め!!!」
だが壮太が叫んだその時、火車は急減速し、こちらとの距離を離した。
そのままアスファルトの破片を巻き上げながら、左右に蛇行し始める。
単発モードに切り替えた弾丸は追い切れず、攻撃は闇に吸い込まれるばかりだ。
その間に火車の防御魔法は回復し、強い輝きを取り戻したのだ。
壮太は悔しげに顔を歪めた。
「くそっ、単発じゃ当たらねえ!」
「でも連射だと止まらないでしょ!」
湯香里がそう怒鳴り返すが、彼女の機体のアサルトガンは、銃身基部の属性添加機が光を弱め、明滅している。
出力を上げた単発モードの射撃は、最大で6発の射撃が限度。その後は属性添加機を冷却する必要があるのだ。
やがて隊員達の機体は、次々射撃不能に陥っていく。
射撃がやんだ途端、火車の上半身に見える口が、笑ったように歪められた。
(……こいつ、知ってて撃たせてたのか……!!?)
流石の壮太も背筋が寒くなった。
いかにも効いているふりをして攻撃を誘い、こちらの属性添加機が電磁過負荷を起こすのを待っていたのだ。
この火車、餓霊の中ではズバ抜けて狡猾で、高い知能を持つと聞いていたが……まさかこれほどとは……!
やがて火車は道を外れ、横手の歩道を踏み砕いた。そのまま急激に加速すると、一同の車両の横に並んだ。
…………そう、『並ばれてしまった』のだ。
そこから先は一瞬のはずだが、時間がやけにゆっくりと流れた。
バスの割れ窓……そこに蠢く青紫の肉に、沢山の丸い物が浮き出てくる。一個一個はソフトボール程だろうか。
どの窓にも同じ物が盛り上がると、それぞれに一本の筋が走った。筋は亀裂となって開くと、牙の生えた口となったのだ。
まるで目のない深海魚が殺到し、こちらにかぶりつこうとするかのようなおぞましい光景。
壮太は咄嗟に機体を操作し、荷台の投擲地雷を掴んだ。
この距離では味方も危険であるが、今はこれしか方法が無い。
倒せなくても、バスの人々が避難する時間ぐらいは稼げるはずだ。
だが壮太が地雷を投げようとした時、割れ窓から更に何かが伸びてきた。
それは無数の人の手だった。
手はもがくようにこちらに伸ばされ、確かに人の言葉が聞こえた。そう、『助けてくれ』と聞こえたのだ。
伸ばされた手のうち、小さな子供のような1本が、弱々しく痙攣している。
「……っ!!!」
壮太は無意識に機体の動きを止めた。中に子供がいるなら、こんな攻撃なんて出来ない。
地雷が手から外れ落ち、後方の闇に吸い込まれていく。
次の瞬間、火車が宿した無数の口に、赤い幾何学模様が発生していた。
「…………っ!!!」
壮太は咄嗟に何かを口走った。
恐らく隊員達に、防御を指示したのだと思う。長い戦いの経験から、無意識の言葉が出たのだ。
いつの間に操作していたのか、機体の属性添加機がフル稼働し、青い防御の光が展開していた。
輸送車両も同様に、強固な電磁シールドを発生させる。
やがて火車を覆う炎が一際強く燃え上がり、轟くような咆哮が聞こえた。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
刹那、物凄い光が眼前を染め上げ、壮太達は吹き飛ばされていた。
超高温かつ、粘度を持った高重量の炎弾が、無数に殺到してきたのだ。
「ぐうっっっ!!!」
激しく何かに叩きつけられ、ともすれば意識が飛びそうになるが、壮太は必死に機体を起こした。
眼前の光景は、まさに地獄絵図である。
燃え上がる輸送車両、爆風で横転した避難バス。
崩れた粘弾は溶岩流のように路面を覆い、その合間に大人も子供も、沢山の人が倒れている。
隊員達の機体も必死に起き上がろうとしているが、その向こうに火車の巨体が見えた。
火車は人型の上半身の口を、そして車両前方の巨大な口をも開き、再び大きく咆哮を上げた。
それは勝利の雄叫びなのか。
それともこの後繰り広げられる、食人の宴への歓喜なのか。
程なく道路を踏み締めて、他の餓霊達も追いついて来た。
「…………っ!!!」
壮太の脳裏に、幾度も見た凄惨な光景が思い出される。
敗北した仲間達が、逃げ遅れた人々が、巨大な活動死体どもに生きたまま喰われるあの光景だ。
何度思い出しても震えが来る。手の平に汗がじっとりと汗が滲む。
だが壮太は、無理やりその手で操作レバーを握り締めた。
「……こんぐらいで、負けてたまるかっ……!」
湯香里も、晶も、八千穂もキャシーもヘンダーソンも、そして避難してきた人々も。今は自分しか守れる者がいないのだ。
壮太は腹に力を入れて、眼前の殺戮者どもに叫んだ。
「九州男子を、舐めんじゃねえっっっ!!!!!」
だが壮太が叫んだその時、火車は急減速し、こちらとの距離を離した。
そのままアスファルトの破片を巻き上げながら、左右に蛇行し始める。
単発モードに切り替えた弾丸は追い切れず、攻撃は闇に吸い込まれるばかりだ。
その間に火車の防御魔法は回復し、強い輝きを取り戻したのだ。
壮太は悔しげに顔を歪めた。
「くそっ、単発じゃ当たらねえ!」
「でも連射だと止まらないでしょ!」
湯香里がそう怒鳴り返すが、彼女の機体のアサルトガンは、銃身基部の属性添加機が光を弱め、明滅している。
出力を上げた単発モードの射撃は、最大で6発の射撃が限度。その後は属性添加機を冷却する必要があるのだ。
やがて隊員達の機体は、次々射撃不能に陥っていく。
射撃がやんだ途端、火車の上半身に見える口が、笑ったように歪められた。
(……こいつ、知ってて撃たせてたのか……!!?)
流石の壮太も背筋が寒くなった。
いかにも効いているふりをして攻撃を誘い、こちらの属性添加機が電磁過負荷を起こすのを待っていたのだ。
この火車、餓霊の中ではズバ抜けて狡猾で、高い知能を持つと聞いていたが……まさかこれほどとは……!
やがて火車は道を外れ、横手の歩道を踏み砕いた。そのまま急激に加速すると、一同の車両の横に並んだ。
…………そう、『並ばれてしまった』のだ。
そこから先は一瞬のはずだが、時間がやけにゆっくりと流れた。
バスの割れ窓……そこに蠢く青紫の肉に、沢山の丸い物が浮き出てくる。一個一個はソフトボール程だろうか。
どの窓にも同じ物が盛り上がると、それぞれに一本の筋が走った。筋は亀裂となって開くと、牙の生えた口となったのだ。
まるで目のない深海魚が殺到し、こちらにかぶりつこうとするかのようなおぞましい光景。
壮太は咄嗟に機体を操作し、荷台の投擲地雷を掴んだ。
この距離では味方も危険であるが、今はこれしか方法が無い。
倒せなくても、バスの人々が避難する時間ぐらいは稼げるはずだ。
だが壮太が地雷を投げようとした時、割れ窓から更に何かが伸びてきた。
それは無数の人の手だった。
手はもがくようにこちらに伸ばされ、確かに人の言葉が聞こえた。そう、『助けてくれ』と聞こえたのだ。
伸ばされた手のうち、小さな子供のような1本が、弱々しく痙攣している。
「……っ!!!」
壮太は無意識に機体の動きを止めた。中に子供がいるなら、こんな攻撃なんて出来ない。
地雷が手から外れ落ち、後方の闇に吸い込まれていく。
次の瞬間、火車が宿した無数の口に、赤い幾何学模様が発生していた。
「…………っ!!!」
壮太は咄嗟に何かを口走った。
恐らく隊員達に、防御を指示したのだと思う。長い戦いの経験から、無意識の言葉が出たのだ。
いつの間に操作していたのか、機体の属性添加機がフル稼働し、青い防御の光が展開していた。
輸送車両も同様に、強固な電磁シールドを発生させる。
やがて火車を覆う炎が一際強く燃え上がり、轟くような咆哮が聞こえた。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
刹那、物凄い光が眼前を染め上げ、壮太達は吹き飛ばされていた。
超高温かつ、粘度を持った高重量の炎弾が、無数に殺到してきたのだ。
「ぐうっっっ!!!」
激しく何かに叩きつけられ、ともすれば意識が飛びそうになるが、壮太は必死に機体を起こした。
眼前の光景は、まさに地獄絵図である。
燃え上がる輸送車両、爆風で横転した避難バス。
崩れた粘弾は溶岩流のように路面を覆い、その合間に大人も子供も、沢山の人が倒れている。
隊員達の機体も必死に起き上がろうとしているが、その向こうに火車の巨体が見えた。
火車は人型の上半身の口を、そして車両前方の巨大な口をも開き、再び大きく咆哮を上げた。
それは勝利の雄叫びなのか。
それともこの後繰り広げられる、食人の宴への歓喜なのか。
程なく道路を踏み締めて、他の餓霊達も追いついて来た。
「…………っ!!!」
壮太の脳裏に、幾度も見た凄惨な光景が思い出される。
敗北した仲間達が、逃げ遅れた人々が、巨大な活動死体どもに生きたまま喰われるあの光景だ。
何度思い出しても震えが来る。手の平に汗がじっとりと汗が滲む。
だが壮太は、無理やりその手で操作レバーを握り締めた。
「……こんぐらいで、負けてたまるかっ……!」
湯香里も、晶も、八千穂もキャシーもヘンダーソンも、そして避難してきた人々も。今は自分しか守れる者がいないのだ。
壮太は腹に力を入れて、眼前の殺戮者どもに叫んだ。
「九州男子を、舐めんじゃねえっっっ!!!!!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる