新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
31 / 90
第二章その2 ~助けに来たわ!~ 怒涛の宮崎撤退編

鉄血の才女。いや肥後もっこす

しおりを挟む
 しばしの後、モニターにはハンドルを握る中年男性が映し出された。

 細身で真面目そうな印象であり、あまり大型車の運転に慣れてないのか、表情は必死の一言に尽きる。

 目を剥いてこちらを凝視する彼を見て、鶴は「なんとなく宗像さん感があるわ」などと呟いているが、壮太は気にせず問いかけた。

「あれおじさん、めぐみおばちゃんは?」

「……ああ壮太くん。う、運転代わって、後ろで寝てるよっ。他の人も疲れてるから、今は私がほら、ね……!」

 男性は荒い呼吸かつ、冷や汗をかきながらハンドルを握り締めている。

 法改正により、免許さえあれば緊急時に誰でも大型車を運転出来るのだったが…………路面が荒れて走行しにくく、まして速度を上げて逃げるシチュエーションでは、疲労困憊するのも当然だろう。

「いっ、いい、今呼ぶからな……! お、おーい、宗像さんを呼んでくれっ」

 おじさんは落下物でも見つけたのか、キリキリとハンドルを切りながら答える。

 バスは大きく蛇行し、後ろの人達は青い顔でぐったりしていた。

 目当ての人を待つ間に、壮太が気を利かせて説明してくれる。

「変わった人でさ。喧嘩して病院やめて、ふらっと入ったラーメン屋がうまかったから、そこに嫁入りしたんだってよ。小さい頃は、九州旨いもんサミットで何度も会ったんだ。うちも鹿児島一のとんかつ屋だったからな」

 懐かしそうに語る壮太に感化され、湯香里も話に参加してきた。

「そうそう、ちなみにうちは会場だったんだ。けっこう大きな旅館ていうか、和風のホテルだったから。バイキング会場にずらりと名物を並べて、あたしも子供ながらにおもてなししたのよ」

「まあ、これはいい事を聞いたわ。ラーメンにとんかつ、それにうまいもんじゃわいサミットね」

 鶴は帳面と筆を取り出し、せっせと情報をメモし始めたが、壮太が画面を見て声を上げた。

「おっ、来た来た! めぐみおばちゃんだ」

 一同が画面を見ると、丁度白衣の女性が運転席の隣に座るところだった。

 かなり若々しい美人だったが、壮太達の年齢から考えると、実際は30代の後半だろう。

 白衣の下の黒Tシャツには、博多豚骨の文字が踊り、頭にはバンダナを被っている。恐らく家族との思い出の品なのだろう。

 女性は大あくびをし、目をこすりながら尋ねた。

「なんだいソータ坊、あたしゃ疲れてるんだよ。慣れないバスの運転に、怪我人の手当てだろ? もうヘトヘトで……」

「すまねえおばちゃん。おばちゃんさ、第6船団で熊本の有名人って知らないかな」

「熊本の有名人? ずいぶん唐突だね」

 宗像さんは頭をかきながら宙を見上げた。

「そりゃあ一番有名なのはあの子でしょ。歳とると人の名前が出てこないけど……お父さんが転勤族で、お母さんは旧姓が鈴木の重子さんで…………あま……あま……」

 鶴は眼をきらりと光らせる。

「アマビエじゃないかしら」

「それは妖怪だろ鶴。確かに熊本出身だけどさ」

 コマがツッコミを入れるが、その時壮太が叫んだ。

「そうだぜ、天草あまくさ司令だ!」

 誠はどこかで聞いたような名に首を傾げた。天草、天草……はて。

 壮太は嬉しそうに説明してくれる。

「天草司令は、神武勲章レジェンド隊の生き残りなんだぜ。今は体もあんま動かないけど、俺達の憧れなんだ」

 壮太が端末に表示した女性の姿に、鶴は感嘆の声を上げた。

「まあ、さっきのガンコな女の人だわ。結局はあの人を説得しなきゃいけないのね」

 鶴に数瞬遅れて、誠も記憶の糸が繋がった。

「てか思い出した! そうか、天草瞳あまくさひとみさんだ。昔は髪も短かったし、もっと男っぽい感じだったから分からなかったんだ」

 誠の動揺をよそに、宗像さんが語りかけてくる。

「でもあの子、色々と手ごわいよ。あたしも最近は会ってないけど……鉄血の才女とか、鎮西のジャンヌダルクとか、色々とんでもない言われ方だしさ……」

 鶴は不思議そうに首を傾げる。

「ジャンヌダルク?」

 また?マークが発生しそうだったので、コマがすかさず説明した。

「異国の聖女だよ鶴。頑張って国を守ったけど、人々に裏切られた悲劇のヒロインさ。君も彼女に例えられる事があるんだよ」

「まあ、偉いわ。洋の東西は違えど、彼女も真面目に頑張ったのねえ」

「いやいや鶴、彼女『も』って何さ。頑張ったのは彼女だけだろ」

 話が脱線しそうなので、見かねた宗像さんがフォローしてくれた。

「……ま、まあそれはともかく、難攻不落の熊本城みたいな子なのさ。今は島津船団長の右腕だし、余計に張り詰めてると……」

「大丈夫よめぐちゃん!」

 宗像さんの忠告にも、鶴は若干食い気味で答える。

「それでも説得するしかないし、私ならやってみせるわ! それしかみんなを守る方法がないんだもの」



 やがて一同を乗せた車は、旧鹿児島県の県境を越えた。

 しばらく南進し、高速道路を降りると、次第に車が増えて来ている。

 時折すれ違うのは、野戦砲などを搭載した、物々しい大型の戦闘車両である。

「おっ、そろそろ検問だぜ」

 壮太の言葉に、誠達は窓から顔を出した。

 九州各所から避難してきたのか、道路は無数の車両で埋め尽くされている。

 窓から見える人々の顔は、皆一様に不安げだった。

「待っててね、私がきっと何とかするから……!」

 鶴は珍しく真面目な顔で、隣の車の子供達に手を振った。

(……第5船団の時より、かなり末期の状況なんだよな……)

 誠はそう考え、我知らず手を握り締めていた。

 第5船団に鶴や女神達が来てくれた時、四国の避難区はまだある程度残っていた。だから速やかに反撃の狼煙が上げられたのだ。

 でもこの九州は違う。

 人々は南へ追い詰められ、確実に最後の時が近付いている。

 果たして本当に、この状況から逆転する事が出来るのだろうか。

 見上げれば、遥かに続く車列の向こうに、山のように高い壁が聳えている。

 誠は窓から身を乗り出して呟いた。

「あれが九州最後の砦……鹿児島城砦避難区かごしまじょうさいひなんくか……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...