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第二章その3 ~肥後もっこすを探せ!~ 鹿児島ニンジャ旅編
九州最後の砦・鹿児島城塞避難区
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「凄いな九州は……スケールが全然違うや」
彼方にそびえ立つ壁は、高さ50メートルを超えるだろうか。
まるで巨大なダムのようだ……と誠が考えていると、轟音と共に壁が動き始め、内部から無数の砲や兵装が顔を出していく。
壁の隙間から見える市街も、まさしく威容の一言であった。
避難者が増えるにつれて、増設を重ねて来たのだろう。高さも広さも半端ではない建物が積み重なり、一つの巨大な街になっているのだ。
小規模な避難区が多かった四国では、ついぞ見た事のないサイズ感である。
鶴も手をかざし、興味深そうに眺めている。
「まるで巨大なからくり城ね。かくれんぼしたら、一体何日かかるのかしら」
驚く一同を気遣い、晶が説明してくれた。
「お気に召したかな。鹿児島避難区と言っても、どんどん増築されててね。正式には旧鹿児島市だけでなく、ここから南の薩摩半島全域を指すんだ」
誠は予想以上のスケールに驚いた。
「半島全域!? そりゃすごい、かなりの人が入れそうだ」
「おっしゃる通りさ、鳴瀬氏。ただまあ、お偉いさんの居住地とか、重要企業の工場は、種子島などの島嶼部にあるんだ。そうしなきゃ戦闘継続できないって事だが…………要するに、そこに行くにはコネか金がいるって事さ」
晶の後を壮太が続けた。
「ひでえ話でよ、賄賂で避難順位の繰上げもしてるらしいぜ。小さいガキんちょとか、怪我人を差し置いて逃げてるらしいからな」
「まあ、ますますけしからんわ!」
ヒートアップする鶴をよそに、車はのろのろと進んでいく。
「……っと、そろそろ顔を引っ込めた方がいいわよ。問題はあの壁の検問なのよね」
湯香里がボリュームを下げ気味に囁いた。
「あの壁を越える前に、IDと顔写真を確認するの。大勢避難するから、チェックして避難所の割り振りをするんだけど。要はテロとかが起きないようにするのよね」
「テロってまさか、こんな状況で?」
誠は思わず湯香里の顔を見た。
「そうよ、言ってなかったっけ。避難区を狙う爆破テロみたいなのがあるのよ。今は殆ど無いんだけど、一時期は工場とかが狙われててね」
湯香里はそう言って肩をすくめた。
「ほんとはこんなキッチリ検問してたら、避難が間に合わないかもだけど、テロがある以上しょうがないのよね……おっと!」
湯香里はウトウト船を漕ぐ八千穂を支えながらそう言った。
キャシーとヘンダーソンは、既に軍用マットレスの上で横になっている。
寝相の悪いキャシーの足が当たり、メガネを斜めにしながらも、晶は真面目な顔で後を続ける。
「流石にここは身分証が無いと通してくれんし、強行突破なんかしたら大騒ぎになるだろう。車内は温度感知で調べられるし、申請した人数以上が隠れてたらすぐ分かるはずさ」
「ふむふむ、なるほどね。なかなかしっかりした守りだけど、だったら瞬間移動で行けばいいわ」
鶴の提案に、肩に乗るコマが慌てて止めた。
「待って鶴、それは最後の手段にしようよ。1回飛んで来てるんだし、いざって時に霊力が足りなくなっちゃう。まずは普通に通れる方法を探そうよ」
「うーん、それもそうね。何か省エネで使えそうな神器はないかしら」
鶴は虚空の穴に手を入れてかき回すと、おもむろに何かを取り出した。
丸みを帯びたトンカチのようなそれは、誠も見た事のあるデザインである。
「まあ、打ち出の小槌だわ」
「う、打ち出の小槌?」
鶴の言葉に、誠は思わず声が出た。声を出し、それから一人で納得する。
「そうか、一寸法師だ。小さくなれば通れるかも知れない」
「ち、小さくなれるものなの……???」
湯香里を含め、皆が半信半疑だったが、鶴は自信満々で頷いた。
「勿論よ。みんな、悪いけどお役人が来たら、気を引いてくれないかしら。その間に私達が通るから」
「わ、分かったわ。キャシーもヘンダーソンも、そろそろ起きて。八千穂もほらっ」
湯香里は慌てて一同を起こしにかかった。
彼方にそびえ立つ壁は、高さ50メートルを超えるだろうか。
まるで巨大なダムのようだ……と誠が考えていると、轟音と共に壁が動き始め、内部から無数の砲や兵装が顔を出していく。
壁の隙間から見える市街も、まさしく威容の一言であった。
避難者が増えるにつれて、増設を重ねて来たのだろう。高さも広さも半端ではない建物が積み重なり、一つの巨大な街になっているのだ。
小規模な避難区が多かった四国では、ついぞ見た事のないサイズ感である。
鶴も手をかざし、興味深そうに眺めている。
「まるで巨大なからくり城ね。かくれんぼしたら、一体何日かかるのかしら」
驚く一同を気遣い、晶が説明してくれた。
「お気に召したかな。鹿児島避難区と言っても、どんどん増築されててね。正式には旧鹿児島市だけでなく、ここから南の薩摩半島全域を指すんだ」
誠は予想以上のスケールに驚いた。
「半島全域!? そりゃすごい、かなりの人が入れそうだ」
「おっしゃる通りさ、鳴瀬氏。ただまあ、お偉いさんの居住地とか、重要企業の工場は、種子島などの島嶼部にあるんだ。そうしなきゃ戦闘継続できないって事だが…………要するに、そこに行くにはコネか金がいるって事さ」
晶の後を壮太が続けた。
「ひでえ話でよ、賄賂で避難順位の繰上げもしてるらしいぜ。小さいガキんちょとか、怪我人を差し置いて逃げてるらしいからな」
「まあ、ますますけしからんわ!」
ヒートアップする鶴をよそに、車はのろのろと進んでいく。
「……っと、そろそろ顔を引っ込めた方がいいわよ。問題はあの壁の検問なのよね」
湯香里がボリュームを下げ気味に囁いた。
「あの壁を越える前に、IDと顔写真を確認するの。大勢避難するから、チェックして避難所の割り振りをするんだけど。要はテロとかが起きないようにするのよね」
「テロってまさか、こんな状況で?」
誠は思わず湯香里の顔を見た。
「そうよ、言ってなかったっけ。避難区を狙う爆破テロみたいなのがあるのよ。今は殆ど無いんだけど、一時期は工場とかが狙われててね」
湯香里はそう言って肩をすくめた。
「ほんとはこんなキッチリ検問してたら、避難が間に合わないかもだけど、テロがある以上しょうがないのよね……おっと!」
湯香里はウトウト船を漕ぐ八千穂を支えながらそう言った。
キャシーとヘンダーソンは、既に軍用マットレスの上で横になっている。
寝相の悪いキャシーの足が当たり、メガネを斜めにしながらも、晶は真面目な顔で後を続ける。
「流石にここは身分証が無いと通してくれんし、強行突破なんかしたら大騒ぎになるだろう。車内は温度感知で調べられるし、申請した人数以上が隠れてたらすぐ分かるはずさ」
「ふむふむ、なるほどね。なかなかしっかりした守りだけど、だったら瞬間移動で行けばいいわ」
鶴の提案に、肩に乗るコマが慌てて止めた。
「待って鶴、それは最後の手段にしようよ。1回飛んで来てるんだし、いざって時に霊力が足りなくなっちゃう。まずは普通に通れる方法を探そうよ」
「うーん、それもそうね。何か省エネで使えそうな神器はないかしら」
鶴は虚空の穴に手を入れてかき回すと、おもむろに何かを取り出した。
丸みを帯びたトンカチのようなそれは、誠も見た事のあるデザインである。
「まあ、打ち出の小槌だわ」
「う、打ち出の小槌?」
鶴の言葉に、誠は思わず声が出た。声を出し、それから一人で納得する。
「そうか、一寸法師だ。小さくなれば通れるかも知れない」
「ち、小さくなれるものなの……???」
湯香里を含め、皆が半信半疑だったが、鶴は自信満々で頷いた。
「勿論よ。みんな、悪いけどお役人が来たら、気を引いてくれないかしら。その間に私達が通るから」
「わ、分かったわ。キャシーもヘンダーソンも、そろそろ起きて。八千穂もほらっ」
湯香里は慌てて一同を起こしにかかった。
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