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第二章その3 ~肥後もっこすを探せ!~ 鹿児島ニンジャ旅編
唐津くんちに行こう2
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「こんにちは、お姉さん」
「……あら」
案内係の女性は、コマを見るなりそう呟いた。
表情には出さないが、内心ではかなり驚いているようだ。
しばらく無言が続き、コマはとうとうしびれを切らした。
「ねえお姉さん、僕は狛犬のコマ。神様のご命令で、みんなを守るために来たんだけど、この避難区の地図はある? 港まで全部分かるようなのがいいんだ」
女性を目をしばたかせ、何度もメガネの位置を直していたが、先程と変わらないテンションで答えた。
「……かしこまりました。増築が多いため、紙の地図はございませんが、あちらに案内板がございます。操作法はお分かりですか?」
「ありがとう、なんとかやってみるよ」
コマは再び前足を上げて挨拶すると、ぴょんとテーブルから飛び降りた。
星空のように瞬く、職員達のメガネ光を浴びてフロアを進むと、横手の壁に案内板があった。
案内板には、地上50センチ程の高さに四角いスイッチが並んでいる。
コマがジャンプしてスイッチを押すと、光の立体地図が浮かび上がり、一同の目線まで下がって来てくれた。
子供や車椅子の人が操作できるよう、対人感知装置が付いているのだろう。
立体地図の端には、『本日10時更新済み最新情報』と表示されている。
誠は手を伸ばし、地図を拡大しながら考えた。
「こりゃ予想以上に複雑だな。作業員はナビとか持ってるからいいんだろうけど……」
地図上には、幾多の通路が網の目のように広がっている。
良く見ると、ビルの上をビルが跨ったり、建物の中層をぶち抜いて道路が通ったりしているので、土地勘のない人がうろつくと、たちどころに迷子になってしまいそうだ。
「ええと、現在地はここだろ。細かい道は見分けがつきにくいから、大通りを目指すのが一番かな。ここを出て、ずっと真っ直ぐ……こっちの通路に合流して、学校跡地……の、体育館の横を抜ければ大通りだ。そこを進めば、港エリアに出るはずだ」
「よしきた、さっそく行ってみよう」
コマは再び走り出すが、一度止まって、案内係のお姉さんに手を振った。
「お姉さん、ありがとう!」
「……いえ。御機嫌よう」
案内係の女性は、メガネを光らせながら答えた。最初より、一ミリぐらいは口角が上がったような気がした。
建物を出てガンガン進むと、やがて古びた体育館が見えてきた。
そのまま脇を通り抜けようとしたのだが、コマはそこで足を止めた。
通路には沢山の兵が行き交い、簡易の検問まで据えられていたからだ。
「港が近いからかな、警備が厳しいね。どうしようか」
「だったら中を通りましょう。その方が近道になるわ」
鶴が体育館の中を指差した。
コマは上がり口から体育館に入ると、人々の合間を縫って先へ進んだ。
館内は畳2畳ぐらいごとに間仕切りが立てられ、人々が腰掛けたり横になったりしていた。
やがて料理係が鍋やアルミの皿を運んできた。
どうやら食事が配られるようだが、誰もそれを心待ちにしている様子はない。
鶴は少し悲しそうに呟いた。
「まあ、折角のご飯なのに、元気が無いのね」
「いつ敵が押し寄せて来るかも知れないし、それどころじゃないんだろ」
誠も被災者達を見ながら答えた。
「頑張って早く安心して貰わないとな。ヒメ子も疲れてるだろうけど……って、いない!?」
誠が前を見ると、いつの間にかコマの背から鶴の姿が消えていたのだ。
「あっ、いたよ黒鷹! 斜め前、長机の上!」
コマが前足で指す方を見ると、鶴はいつの間にか長机の上に乗っている。
どこから取り出したのか、鍋にハシゴをかけて中身を覗き、「おいしそう」と呟いている。
誠は小声で呼びかけた。
「……こらヒメ子っ! 何やってんだよ、早く戻れっ!」
「……あっ黒鷹、人が来たよ!」
コマの言葉どおり、料理係らしき太った人物が、のしのし鶴に近付いて行く。
鶴は気配を察し、さっと鍋の陰に隠れた。
「おや、何か動いた気が……」
料理係はネズミか何かと思ったのか、鍋や皿の陰を確かめ始めた。
鶴は少し離れた場所から出て来たが、ハシゴをしまい忘れていたのに気付き、再び鍋に近寄っていく。
「……いやヒメ子、ハシゴなんてもういいだろ! あっ、やばいっ!」
だが料理係が目を向けた瞬間、鶴は太刀を抜いてポーズを取った。
偶然にも、西部劇のガンマンを描いた鍋があったため、その鍋の模様のふりをしたのだ。
「派手な鍋だな……」
料理係は呟くと、入り口の方に戻っていった。
「何やってんだよヒメ子、見つかると思っただろ!」
「ごめんちゃい、おいしそうだったからついね」
鶴はコマの背に着地するが、あまり反省の色が無い。
何とか体育館を抜け、大通りに沿って走ると、ようやく彼方に停泊している船が見え始めた。
「あっ! この景色、潜水艇で予習した所だわ! という事はあの船よ!」
鶴の指差す先を見ると、港の奥に、空母のようなシーグレーの船体が停泊している。
運良くグリーンの大きな車両が、船体に開いたハッチ……搬入口から中に入る所である。
「あの車に隠れよう。いよいよ指揮官と対決だよ!」
コマは小走りで加速すると、ジャンプして車に飛び乗った。
「……あら」
案内係の女性は、コマを見るなりそう呟いた。
表情には出さないが、内心ではかなり驚いているようだ。
しばらく無言が続き、コマはとうとうしびれを切らした。
「ねえお姉さん、僕は狛犬のコマ。神様のご命令で、みんなを守るために来たんだけど、この避難区の地図はある? 港まで全部分かるようなのがいいんだ」
女性を目をしばたかせ、何度もメガネの位置を直していたが、先程と変わらないテンションで答えた。
「……かしこまりました。増築が多いため、紙の地図はございませんが、あちらに案内板がございます。操作法はお分かりですか?」
「ありがとう、なんとかやってみるよ」
コマは再び前足を上げて挨拶すると、ぴょんとテーブルから飛び降りた。
星空のように瞬く、職員達のメガネ光を浴びてフロアを進むと、横手の壁に案内板があった。
案内板には、地上50センチ程の高さに四角いスイッチが並んでいる。
コマがジャンプしてスイッチを押すと、光の立体地図が浮かび上がり、一同の目線まで下がって来てくれた。
子供や車椅子の人が操作できるよう、対人感知装置が付いているのだろう。
立体地図の端には、『本日10時更新済み最新情報』と表示されている。
誠は手を伸ばし、地図を拡大しながら考えた。
「こりゃ予想以上に複雑だな。作業員はナビとか持ってるからいいんだろうけど……」
地図上には、幾多の通路が網の目のように広がっている。
良く見ると、ビルの上をビルが跨ったり、建物の中層をぶち抜いて道路が通ったりしているので、土地勘のない人がうろつくと、たちどころに迷子になってしまいそうだ。
「ええと、現在地はここだろ。細かい道は見分けがつきにくいから、大通りを目指すのが一番かな。ここを出て、ずっと真っ直ぐ……こっちの通路に合流して、学校跡地……の、体育館の横を抜ければ大通りだ。そこを進めば、港エリアに出るはずだ」
「よしきた、さっそく行ってみよう」
コマは再び走り出すが、一度止まって、案内係のお姉さんに手を振った。
「お姉さん、ありがとう!」
「……いえ。御機嫌よう」
案内係の女性は、メガネを光らせながら答えた。最初より、一ミリぐらいは口角が上がったような気がした。
建物を出てガンガン進むと、やがて古びた体育館が見えてきた。
そのまま脇を通り抜けようとしたのだが、コマはそこで足を止めた。
通路には沢山の兵が行き交い、簡易の検問まで据えられていたからだ。
「港が近いからかな、警備が厳しいね。どうしようか」
「だったら中を通りましょう。その方が近道になるわ」
鶴が体育館の中を指差した。
コマは上がり口から体育館に入ると、人々の合間を縫って先へ進んだ。
館内は畳2畳ぐらいごとに間仕切りが立てられ、人々が腰掛けたり横になったりしていた。
やがて料理係が鍋やアルミの皿を運んできた。
どうやら食事が配られるようだが、誰もそれを心待ちにしている様子はない。
鶴は少し悲しそうに呟いた。
「まあ、折角のご飯なのに、元気が無いのね」
「いつ敵が押し寄せて来るかも知れないし、それどころじゃないんだろ」
誠も被災者達を見ながら答えた。
「頑張って早く安心して貰わないとな。ヒメ子も疲れてるだろうけど……って、いない!?」
誠が前を見ると、いつの間にかコマの背から鶴の姿が消えていたのだ。
「あっ、いたよ黒鷹! 斜め前、長机の上!」
コマが前足で指す方を見ると、鶴はいつの間にか長机の上に乗っている。
どこから取り出したのか、鍋にハシゴをかけて中身を覗き、「おいしそう」と呟いている。
誠は小声で呼びかけた。
「……こらヒメ子っ! 何やってんだよ、早く戻れっ!」
「……あっ黒鷹、人が来たよ!」
コマの言葉どおり、料理係らしき太った人物が、のしのし鶴に近付いて行く。
鶴は気配を察し、さっと鍋の陰に隠れた。
「おや、何か動いた気が……」
料理係はネズミか何かと思ったのか、鍋や皿の陰を確かめ始めた。
鶴は少し離れた場所から出て来たが、ハシゴをしまい忘れていたのに気付き、再び鍋に近寄っていく。
「……いやヒメ子、ハシゴなんてもういいだろ! あっ、やばいっ!」
だが料理係が目を向けた瞬間、鶴は太刀を抜いてポーズを取った。
偶然にも、西部劇のガンマンを描いた鍋があったため、その鍋の模様のふりをしたのだ。
「派手な鍋だな……」
料理係は呟くと、入り口の方に戻っていった。
「何やってんだよヒメ子、見つかると思っただろ!」
「ごめんちゃい、おいしそうだったからついね」
鶴はコマの背に着地するが、あまり反省の色が無い。
何とか体育館を抜け、大通りに沿って走ると、ようやく彼方に停泊している船が見え始めた。
「あっ! この景色、潜水艇で予習した所だわ! という事はあの船よ!」
鶴の指差す先を見ると、港の奥に、空母のようなシーグレーの船体が停泊している。
運良くグリーンの大きな車両が、船体に開いたハッチ……搬入口から中に入る所である。
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コマは小走りで加速すると、ジャンプして車に飛び乗った。
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