新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
43 / 90
第二章その4 ~信じてほしいの!~ ガンコ才女の説得編

思い出のとんこつ、いただきます!

しおりを挟む
「へえ、よくこれだけのものを手に入れたね」

 紙出力プリントアウトされていく業者一覧を手に取り、宗像さんは感嘆の声を上げた。

 プリンターは他のフロアにあった、事務伝達用のものを拝借しているのである。

「こうして見ると、大体の人の顔は分かるよ」

「さっすがおばちゃん、顔が広いぜ!」

 壮太がはやすと、宗像さんは照れ臭そうに手を振った。

「やめとくれよ、たまたまイベントがらみで会っただけさ。こういう業者はパンフレットに広告を出すから、あちこちよく来てたんだよ」

 鶴は両手をぱんと合わせ、お願いのポーズをとる。

「ねえめぐちゃん、その思い出を見せてくれないかしら」

「そりゃ見せてあげたいけど、どうやって?」

 鶴はそこで小さな黒い映写機を取り出した。

 女神から借りていた心を映す神器であり、コマがジト目でツッコミを入れる。

「うわ鶴、まだ返してなかったの? 後で怒られるよ」

「平気よコマ、手柄を立てればうやむやだわ」

 鶴が映写機を宗像さんの頭に乗せると、たちまち彼女の頭上に、かつてのグルメイベントの様子が映し出された。

 広い会場に沢山の人々が溢れ、九州中のグルメを集めた出店からは、おいしそうな湯気が立ち昇っている。

 来賓席には沢山のお偉いさんもいて、頭上に光の文字で、業者の名前が表示されていた。

「これで私達も、名簿の人の顔が分かるわ」

 鶴は上機嫌で頷くと、あろう事か宙に浮かび、思い出の中に入り込んだ。

「おいヒメ子、何勝手に入ってるんだよっ!?」

 誠は思わずツッコミを入れるが、鶴はあちこち出店を見学し、ちゃっかり白いどんぶり容器を受け取っていた。

「まあ、これが博多ラーメンね! こってりしてておいしいわ!」

 鶴は上機嫌で食べ始めるが、その下では宗像さんが、不安げな顔でうろたえている。

「あ、あれ、思い出の味が、思い出せなくなってきたよ?? ほんとに大丈夫なんだろうね???」

 鶴は気にせずモリモリ完食すると、再び現実こちらに戻ってきた。

「思い出だけでこんなにおいしいんだから、本物はもっと素晴らしいでしょうね。後はこの思い出を、こっちの紙に宿らせて、と」

 やがてプリントアウトされた業者一覧に、青い光が宿った。

 鶴が適当な業者名を指で触ると、紙面にその人の顔が表示された。

「これで成敗しやすくなるわ。それじゃ仕上げに、援軍を呼ぶわね」

「え、援軍? 何か嫌な予感がするけど……」

 誠が引き気味で呟くのをよそに、鶴は上機嫌で何やら念じ始める。

 すると眩い光が現れ、光の楕円となって広がった。

「姫様、お久しぶりやで!」

 光の楕円から飛び出したのは、いつも見慣れたキツネに牛。そしてコマを野生的ワイルドにした感じの、眼帯アイパッチを付けた狛犬である。

「うっ、うわっ、やっぱり来た……!」

 神使達は遠慮なく駆け寄って来ると、キツネと牛がそれぞれ誠の右肩、左肩に飛び乗った。

「また会うたな、とうへんぼく。お前が今日もおまんま食えるのも、稲荷大明神いなりだいみょうじん様のおかげやで!」

「私、牛太郎うしたろう天満宮てんまんぐう様の名に恥じぬよう、モウレツに頑張ります!」

 アイパッチを付けた狛犬……つまりガンパチも、誠の頭に飛び乗った。

「ワシらも来たぞ。九州は元々、八幡神はちまんしん様のお膝元じゃい!」

「お前、八幡神社の狛犬だったのか……って、う、うわあああっ!?」

 誠はそこで悲鳴を上げた。

 光の楕円が、小さな神使を大量に吐き出し始めたからだ。

 子犬サイズのキツネ、牛、そして狛犬が、元気いっぱいに飛び出して来る。

 神使達は呼び出されたのが嬉しいのか、人々の膝や肩に乗っては、楽しげに飛び跳ねていた。

 キャシーは膝に乗ってきた小さなキツネに喜んでいる。

「ワオ、フォックスベビー? 可愛いデスね!」

「外人さんかいな。おおきに!」

 キツネ達はキャシーに挨拶し、傍らではヘンダーソンが狛犬まみれになって、安らかな顔で倒れていた。

 八千穂はせっせと果物をむいて、神使達に食べさせている。

 鶴は嬉しそうな一同を見渡し、腰に手を当てて言った。

「八幡様、お稲荷様、天神様にお願いしたの。西国の分社が多くて、神使の数も凄いから」

 アイパッチを付けた狛犬が鶴の肩に飛び乗り、前足を上げて気合を入れる。

「そうですぜ姫様! ワシら八幡・狛犬連合が来た以上、悪党どもに好き勝手させんのじゃい!」

「くそっ、可愛さだけで取り入りやがって……」

 盛り上がる一同に納得のいかない誠だったが、そこでふと、小さなものが目の前を横切った。

「えっ?」

 見ると、テニスボールぐらいの丸っこいものが懸命に羽ばたき、鶴の前で静止飛行ホバリングし始めたのだ。

 つぶらな瞳、鳥のような羽とくちばし

 下半身は魚のようだが、小鳥ふうの足も生えている。つややかな長髪は人間のそれに似ていた。

 鶴は手を伸ばしてその生き物をとまらせると、不思議そうに相手を見つめる。

「あら、あなたは見ない顔ね。こんな神使いたかしら?」

「だから鶴、その子が何度も言ってるアマビエだってば。こんにちは」

 コマが前足を上げて挨拶すると、アマビエは翼を広げ、キューティクル、とさえずった。

「なになに……鶴の召喚魔法に力があり過ぎて、地元の妖怪も呼んじゃったみたいだね」

 コマはアマビエの言葉が分かるようで、一同に通訳してくれた。

 アマビエは身振りとピヨピヨしたさえずりで、コマと会話を続けている。

「10年前、怪我した人達を治してるうちに、力を使い果たしたんだって。それからずっと眠ってたけど、鶴の魔法で出てきたんだね。この体は何かを借りてるらしいよ」

「まあ、そうだったの。疲れてるところをごめんなさいね」

 鶴が謝ると、アマビエは翼を広げて嬉しそうにさえずった。

「呼んでくれて嬉しいってさ。一緒に行きたいって言ってるよ」

「勿論大歓迎よ。みんなで悪い奴らをこらしめましょう!」

 鶴が燃える瞳で気合を入れるので、誠は慌ててツッコミを入れた。

「待てヒメ子、ここだと他の人もいるだろ。寝てる人もいるし、場所を移した方が良くないか?」

「うーん、それもそうね」

 鶴は腕組みして考えていたが、ぽんと手を打ち鳴らした。

「そうよ、今ならあまちゃんがいいと思うわ」

「いや、なんでよりによってそこなんだよっ!?」

 誠はまたもツッコまざるを得なかった。

「そもそも天草さんに話を聞いて貰うためにこれをやるんだろ。なのに天草さんの部屋を借りるってあべこべじゃないか」

「なんとなくそんな気がするのよ。時が経てば、気が変わってるかもしれないし。この鶴ちゃんの直感が、押すなら今だと叫んでいるわ」

 鶴はそれだけ言って拳を振り上げる。

「さあみんな、今度こそリベンジよ! もう一度もっこすレディーと対決だわ!」

 おお、と叫んで走り出す一同に、誠も仕方なくついていく。

 鶴の肩に乗るアマビエの髪が、サラサラと風になびいていた。

 誠は四国に置いてきた香川の髪を思い出したが、そこでふと違和感に駆られた。

「……おかしいな。アマビエってこんな感じだったっけ……?」

 しばしアマビエを観察する誠だったが、もっと早く走れ、と怒鳴る神使達に急かされ、それどころではなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...