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第二章その4 ~信じてほしいの!~ ガンコ才女の説得編
留吉の罪滅ぼし1
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煉獄堂留吉は、第6船団で名の知れた兵器製造メーカーの経営者だった。
歳は50台の後半。
砂色のトレンチコートと黒スーツを着込み、紫のネッカチーフを巻き付けている。
シルバーグレーの髪を撫でつけ、葉巻きを口にくわえる様は、一見してマフィアの頭目かと思われる風体であった。
「……ふん、湿気てやがる」
貴重な葉巻きを、ろくに燻らせもせずに灰皿で潰すと、留吉はぐるりと周囲を見渡した。
場所は種子島、留吉が持つ兵器製造所の、最終組み上げ加工場である。
天井の属性添加式・高重量懸架装置で運搬された、長さ6メートル程の砲身が降りると、作業員によって銃本体に接続されていく。
留吉は特に何の感慨も持たずにその様を眺めていたが、ふと傍らから声がかかった。
「……社長、ちょっと失礼します」
そこにいたのは留吉と同年代ぐらいの男だった。
薄汚れた作業服を着込み、日に焼けた顔と、短く刈った白髪が印象的だ。
「どうした、武雄」
留吉の言葉に、彼は作業場の方を見ながら言った。
「今度の添加機ですがね。こりゃ一体どうなっとるんです。調律どころの騒ぎじゃない、こんなもん組み上げて、使えるもんにはならんでしょう」
工場長の武雄は苛立ちを隠すように、短い髪を手で掻きながら続けた。
「これじゃ要求性能に……いや、いつもの事なんですが、今回はあまりにも……」
「あまりにも、何だ」
「……いえ、若いもんの命がかかっとるんで、さすがにここまでと思いまして。玩具を渡すようなもんです。こんなんで、あの人喰いの化け物どもに向き合えって言うんですかい?」
懸命に訴えかける武雄だったが、留吉はじろりと相手を睨んだ。
「……構わん、やってしまえ」
「ですが……」
「やれと言っている。いいか、やるしかないんだ」
留吉は一歩踏み出し、武雄の喉元に人差し指を突きつけた。
「お前の身内、それにあいつらが種子島に居られるのも、この仕事があったればこそだ。やらなきゃここに居場所はない。意味は分かるな?」
「……………………」
武雄はしばし黙っていたが、無言で頭を下げると、作業場に戻って行った。
留吉は彼の後ろ姿を見送って、苦々しげに呟いた。
「バカ野郎、仕方ないんだ。こうしなきゃ生き残れないんだからな……うっ」
留吉はそこでこめかみを押さえた。
時々襲ってくる、激しい頭痛に見舞われたのである。
若手の作業員が振り返り、心配して駆け寄ってきた。
「社長、大丈夫ですか?」
「……ええいうるさいっ、いつもの頭痛だ!」
留吉はハエを追い払うように手を振るうが、若い作業員は食い下がった。
「……え、でも社長、その痣、前より大きくなってますよ。内出血でもしてるんじゃないすか?」
彼は留吉の首筋を指差している。
「痣だと……?」
留吉は手で首筋を触りかけたが、再び大きくその手を振った。
「そんなものどうでもいい、ぐだぐだ言ってないでさっさと組み上げろ!」
「すす、すみませんっ!」
若い作業員は飛び上がり、慌てて作業に戻っていった。
「……ったく、すぐサボりやがって。元々利益なんざ雀の涙なんだ。トロトロしてたら大赤字なんだよ」
留吉は独り言のように呟く。
九州各地にあった留吉の製造拠点もテロ攻撃を受け、種子島に移転する金がかかったし、材料価格も跳ね上がっていた。
一方で船団政府からの買い付け価格は上がらず、その支払いすら滞り始めている。
以前は買い付け担当の役人どもが、「戦っている皆のために」と、額を床にこすりつけては品質維持の嘆願をしていた。
……が、そうした生真面目な役人は疎まれ、職を追われたのだろう。今ではこちらの言い分を飲むイエスマンしか残っていないのだ。
品質もどんどん落ちていたが、それは経営者としての自己防衛である……と留吉は考えていた。
もちろん時折罪悪感に駆られる事はあったが、そういう時は決まって強い頭痛が起きる。
やがて頭痛が治まると、不安も懸念もけろりと忘れる事が出来たのだ。
「……青島のように、綺麗事を言えば長生きできん。そうだ、これは自己防衛なんだ。わしらが生き残る道なのだ」
留吉は毒づいたが、そこで視界の隅に、何か小さな物を発見した。
一見して子犬ぐらいのサイズの、もこもこした毛皮の持ち主達である。
歳は50台の後半。
砂色のトレンチコートと黒スーツを着込み、紫のネッカチーフを巻き付けている。
シルバーグレーの髪を撫でつけ、葉巻きを口にくわえる様は、一見してマフィアの頭目かと思われる風体であった。
「……ふん、湿気てやがる」
貴重な葉巻きを、ろくに燻らせもせずに灰皿で潰すと、留吉はぐるりと周囲を見渡した。
場所は種子島、留吉が持つ兵器製造所の、最終組み上げ加工場である。
天井の属性添加式・高重量懸架装置で運搬された、長さ6メートル程の砲身が降りると、作業員によって銃本体に接続されていく。
留吉は特に何の感慨も持たずにその様を眺めていたが、ふと傍らから声がかかった。
「……社長、ちょっと失礼します」
そこにいたのは留吉と同年代ぐらいの男だった。
薄汚れた作業服を着込み、日に焼けた顔と、短く刈った白髪が印象的だ。
「どうした、武雄」
留吉の言葉に、彼は作業場の方を見ながら言った。
「今度の添加機ですがね。こりゃ一体どうなっとるんです。調律どころの騒ぎじゃない、こんなもん組み上げて、使えるもんにはならんでしょう」
工場長の武雄は苛立ちを隠すように、短い髪を手で掻きながら続けた。
「これじゃ要求性能に……いや、いつもの事なんですが、今回はあまりにも……」
「あまりにも、何だ」
「……いえ、若いもんの命がかかっとるんで、さすがにここまでと思いまして。玩具を渡すようなもんです。こんなんで、あの人喰いの化け物どもに向き合えって言うんですかい?」
懸命に訴えかける武雄だったが、留吉はじろりと相手を睨んだ。
「……構わん、やってしまえ」
「ですが……」
「やれと言っている。いいか、やるしかないんだ」
留吉は一歩踏み出し、武雄の喉元に人差し指を突きつけた。
「お前の身内、それにあいつらが種子島に居られるのも、この仕事があったればこそだ。やらなきゃここに居場所はない。意味は分かるな?」
「……………………」
武雄はしばし黙っていたが、無言で頭を下げると、作業場に戻って行った。
留吉は彼の後ろ姿を見送って、苦々しげに呟いた。
「バカ野郎、仕方ないんだ。こうしなきゃ生き残れないんだからな……うっ」
留吉はそこでこめかみを押さえた。
時々襲ってくる、激しい頭痛に見舞われたのである。
若手の作業員が振り返り、心配して駆け寄ってきた。
「社長、大丈夫ですか?」
「……ええいうるさいっ、いつもの頭痛だ!」
留吉はハエを追い払うように手を振るうが、若い作業員は食い下がった。
「……え、でも社長、その痣、前より大きくなってますよ。内出血でもしてるんじゃないすか?」
彼は留吉の首筋を指差している。
「痣だと……?」
留吉は手で首筋を触りかけたが、再び大きくその手を振った。
「そんなものどうでもいい、ぐだぐだ言ってないでさっさと組み上げろ!」
「すす、すみませんっ!」
若い作業員は飛び上がり、慌てて作業に戻っていった。
「……ったく、すぐサボりやがって。元々利益なんざ雀の涙なんだ。トロトロしてたら大赤字なんだよ」
留吉は独り言のように呟く。
九州各地にあった留吉の製造拠点もテロ攻撃を受け、種子島に移転する金がかかったし、材料価格も跳ね上がっていた。
一方で船団政府からの買い付け価格は上がらず、その支払いすら滞り始めている。
以前は買い付け担当の役人どもが、「戦っている皆のために」と、額を床にこすりつけては品質維持の嘆願をしていた。
……が、そうした生真面目な役人は疎まれ、職を追われたのだろう。今ではこちらの言い分を飲むイエスマンしか残っていないのだ。
品質もどんどん落ちていたが、それは経営者としての自己防衛である……と留吉は考えていた。
もちろん時折罪悪感に駆られる事はあったが、そういう時は決まって強い頭痛が起きる。
やがて頭痛が治まると、不安も懸念もけろりと忘れる事が出来たのだ。
「……青島のように、綺麗事を言えば長生きできん。そうだ、これは自己防衛なんだ。わしらが生き残る道なのだ」
留吉は毒づいたが、そこで視界の隅に、何か小さな物を発見した。
一見して子犬ぐらいのサイズの、もこもこした毛皮の持ち主達である。
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