新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第二章その4 ~信じてほしいの!~ ガンコ才女の説得編

生きていれば、黒歴史は増える

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「い、今更だけど……この子滅茶苦茶だわ…………」

 書類庫に瞬間移動テレポートした事を理解し、天草は再び眩暈めまいを覚えたが、鶴は上機嫌で辺りを見回す。

「ラッキーね。邪気が薄くなってるから、あんまり疲れないわ。それであまちゃん、資料はどのへん?」

「こ、こっちだけど……」

 天草は隅の一角へと一同を案内する。

 ビルのように立ち並ぶスチール製の無骨な棚には、膨大な量のダンボール箱と、そこからはみ出す紙の資料が覗いていた。

「手がつけられてなくて、かなり乱雑なんだけど……」

 天草の説明に、少年少女はかなり引いた表情で後ずさりしていたが、そこで鶴が気合を入れる。

「ええい、ここまで来て尻込みしても仕方ないわ! 皆の衆、かかるわよ!」

 少年少女はやけくそになり、わーっとときの声を上げてダンボールに襲いかかった。

 鶴は胸の前で手を握り、祈るように見守っている。

「みんな、ひたすら頑張って。この鶴ちゃんが応援しているわ」

 コマはたまりかねてツッコミを入れた。

「いや鶴、何を見学してるんだよ。君もやらなきゃ」

「駄目よコマ、人には得手不得手えてふえてがあって、これは不のつく得手の方よ」

「頑張れば得手が増えてくもんさ。さ、早く!」

「仕方ないわねえ……」

 鶴はしぶしぶ手近な箱に手を伸ばした。

 おみくじのようにかき回し、青いファイルを引き抜くと、背表紙には、『高千穂研究所・入所許可業者一覧』と記されていた。

(……こ、この子、一体どういう強運なの……???)

 天草は内心ドン引きしていたが、鶴は途端に目を輝かせた。

「やったわコマ、流石は私よ!」

「ほんとに運だけは一流だね。みんな、見つかったよ!」

 声を聞きつけ、一同は鶴の周りに集まってくる。

「それじゃコマ、早速業者を探しましょう」

「ええと、興事きょうじエレメンタル総業だから……あいうえお順の、かの次で……あった!」

 コマが前足で冊子をめくると、確かにくだんの業者があった。

「……福岡、佐賀、大分、長崎……人間が撤退した地域にも、それぞれ支部があったみたいだね。殆どは餓霊の勢力圏内になってるけど、この鹿児島にもあるみたいだよ」

 コマは当該企業の、鹿児島支社の住所を見つけた。

 晶は覗き込み、メガネの位置を直しながら呟いた。

「この辺りは城砦都市の外だし、改築されていないからすぐ分かる。放棄された居住区で…………今の呼び名で言えば、B6号北区だ」

 鶴は満足げに頷くと、拳を振り上げて言い放った。

「それじゃみんな、いよいよ討ち入りよ! 人の世に巣食う悪党どもを、たっぷり懲らしめてくれるわ!」

「よっしゃあ、案内はこの壮太様に任せとけ!」

「私達も行ってみるデース!」

 若者達は好き勝手にテンションを上げているが、天草としては気が気ではない。

 恐らく真っ当な相手ではない業者の拠点に、彼等だけで乗り込むというのだ。

 いかに彼等のパイロット技能が高くても、対人の近接戦闘CQBの訓練を受けたわけでは無いのである。

「ちょっ、ちょっと待って! 討ち入りって、あなた達だけで?」

 止めようとする天草だったが、鶴は笑顔で手を振っている。

「すぐ戻って来るから、こっちはよろしくね、あまちゃん」

「つ、鶴ちゃん、だから待って! せめて警邏けいらの部隊と一緒に……」

 天草の言葉も空しく、若者達は光に包まれ、その場から消えてしまった。

「…………ま、まあ確かに、あの子の魔法があれば……何とかなるかも」

 急に力が抜け、ふらふらと本棚にすがりつく天草だったが、そこでせわしない羽音が聞こえた。

 目をやると、テニスボールぐらいの丸っこい生き物……つまりアマビエが、ぐるぐる同じ場所を飛んでいるのだ。

 アマビエは本棚に舞い降りると、片方の翼で床を指し示した。

「え、何かあるの?」

 歩み寄ると、床に小さな黒いものが落ちている。

 拾い上げると、それは例の映写機だった。

「あの子の……鶴ちゃんの道具ね」

 急いで瞬間移動したので、恐らく忘れて行ったのだろう。

 アマビエは嬉しそうにさえずると、こちらに飛んできて肩にとまった。

「どうしよう。大事な道具みたいだし……後で渡せばいいのかな?」

 天草は映写機をポケットに入れようとして、そこで手が止まった。

(…………もしあたしが使ったら、どうなるんだろう)

 そんな考えが脳裏をよぎったのだ。

 少し迷ったものの、恐る恐る映写機を頭に載せてみる。

 どうしていいか分からないので、とりあえず目を閉じて呟いてみた。

「映れ……映れ……!」

 小さい頃にイタズラをした時のような、不思議なドキドキ感があったが、映写機は何も映し出す事は無かった。

 天草は照れ隠しのようにアマビエに言った。

「……そ、そりゃそうよ、あの子じゃないと使えないわよね……」

 だが天草がそこまで言った時、背後でガタン、と物音がした。

 ハッとして振り返ると、そこには警邏の兵士達が佇んでいた。

「し、司令……」

 彼等は気を使って目を伏せると、力を込めて叫んだ。

「わ、我々は何も見ていませんからっ!」

 天草は慌てて彼等に歩み寄る。

「ち、ちち違うのよ、これは違うわ!」

「だっ大丈夫です、司令は疲れてるんですっ」

「やめて、優しさが痛いから! とにかく話を聞いて……」

「誰にも、絶対言いませんからっ!」

 彼等はこちらの呼びかけも聞かず、物凄い速度で駆け去って行った。

「あ……ああああっ……!」

 天草は呆然と彼等を見送る。

 24歳の女が、誰もいない書類庫で頭に映写機を乗せ、「映れ映れ」と呟いていた……

 それはもうホラーの類だし、戦いの重圧で頭がおかしくなったと思われても仕方ないだろう。

 一体どの面下げて執務室や、対策本部に戻ればいいのだ。

「どうしよう……」

 青ざめる天草をよそに、アマビエがキューティクル、とさえずった。
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