新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第二章その5 ~絶対守るわ!~ 熱血の鹿児島防衛編

はたして策は通用するか

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「黒鷹、やっぱり敵はこっちには来ないわね。来たら来たで、もっと先までかくれんぼするだけなんだけど」

 誠が乗る人型重機・心神しんしんの後部座席に座った鶴は、そう言ってハチマキを締めなおした。

 場所は鹿児島から西に進んだ山あいである。

 敵は誠達より少し東、鹿児島インターチェンジで九州自動車道を降りた。

 彼らはそこで残りの戦力の到着を待ち、陣形を整えると、東進して鹿児島へと向かっていくのだ。

 その様子を半透明の地図で確認しながら、誠達は息を潜めていた。

「……ううっ、俺なんかそわそわしてきたぜ」

 画面に壮太達が映し出される。

「こら壮太、焦っちゃだめよ。あんたいつも先走るんだから」

 相変わらずレプリカ着物に身を包んだ湯香里が言うと、他のメンバーも会話に参加してくる。

「湯香里、それは諦めた方がいい。壮太はそもそもそういうものだ」

「そそっ、壮太君っ、それにみんな、頑張りましょうっ」

 晶と八千穂がそう言うと、ヘンダーソンとキャシーも軽口を交わす。

「なかなか晴れがましいお役目だ。なあキャシー」

「ヘンダーソンの言う通りデース。これも私達が頼れるからデスね、ミスター鳴瀬!」

「もちろんそうさ。ヒメ子についてくのは、並の乗り手じゃ務まらないんだから。俺も何度後悔した事か」

「まあ黒鷹、失礼しちゃうわ!」

 誠と鶴の会話に、画面に映る一同は笑い声を上げた。

 とてもこれから大勝負が始まるとは思えない雰囲気だったが、この感じは誠にとって懐かしいものだった。

 第5船団の仲間も、きっと今頃こんなふうに、四国を守ってくれているだろう。

 誠は頃合いを見て鶴に言った。

「…………ヒメ子、そろそろ頼めるか」

「分かったわ」

 餓霊の放つ邪気の霧……通信妨害ジャミング粒子は物凄い濃度だったが、鶴であれば、遠方と容易く霊力通信が出来るのである。

 鶴は予定通り、作戦開始を司令部に申請する。

「あまちゃん、みんな、それじゃお願い。手はず通りよ!」

『了解しました!』

 画面上に各所の兵員が映り、鶴の言葉に力強く頷いた。

『一番ぜき開放、二番、三番、続いて開放』

『水流がK点を通過、尚も進行中』

 忙しく舞い込む報告と共に、半透明の地図上に、水色の筋が表示された。

 甲突川上流に設置された無数のダムから、大量の水が押し寄せてくる。

 水は見る間に山あいを駆け抜け、たちまち鹿児島へと近づいて来ている。

『取水弁作動、水を平野部に誘導します』

 鹿児島に迫った水流は、可動式の取水弁に誘導され、敵の待つ平野部へと流れ込んでいく。

 それはまるで戦国末期の、第1次上田城合戦。

 徳川を迎え撃つ真田軍が、川の水を利して敵を分断した策と似ている。



『……焔様、取水弁が作動しました。間もなく水が到達します』

「おうよ、ご苦労さん♪」

 手駒からの通信を受け、焔は余裕の笑みで答えた。全ては事前の情報通りだ。

 やがて平野部に地響きが聞こえてくる。

 大量の水が、上流から雪崩のように押し寄せてくるのだ。

「バーカ、水攻めの情報は入ってるんだよ! 全員、踏ん張って持ちこたえろ!」

 餓霊達は足を踏みしめ、周囲に強い電磁バリアを張り巡らせた。

 城喰いも巨体を低く沈めると、大きく咆えて大地に踏ん張る。

 やがて濁流が川から誘導されて、平野部に流れ込んでくる。

 同時に、平野部の彼方に無数の壁が立ち上がった。

 城砦都市を守る可動式防御壁アクティブディフェンス・ウォールの一部を移動させ、折りたたんで隠していたのだ。

 壁はそのまま強力な電磁式を張り巡らせ、まるで簡易のダムのように、流れ込んできた水を平野部にとどめている。

 燐火が目を細めて呟いた。

「水流で体勢を崩しつつ、足場をぬかるませて動きを鈍らせる……珍しく焔の情報どおりだわ」

「だろ? こんな化石みたいな戦法、通用するかよ」

 焔は上機嫌でそう言うと、軍勢に指示を出した。

「陣形崩すな、そろそろ来るぞ! 絶対に動くなよ!」

 そろそろあの姫君が切り込んでくるはずだ。

 餓霊の軍勢は、ひたすら相手を待ち続ける。

 いつ来る? いつ来る?

 動いたら負けだ。動いたら陣形が乱れる。

 あの神人が攻め下って来るまで、ひたすら待った。

 ………………だが、その時だった。

「ちょっと待って焔! 何かおかしくない!?」

 再び焔の操縦席に、燐火の顔が映し出された。

 普段冷静な彼女にしては、珍しく焦った表情である。

「おかしいって何が?」

 焔の問いに、燐火は叫んだ。

「いいから見て! 餓霊ども、それに城喰いも!!!」

「だから何が……」

 焔は表示を切り替え、配下の軍勢を観察した。

 餓霊達は足を踏ん張り、身を低くし、周囲に赤い幾何学模様を張り巡らせている。

 何もおかしいところはない……はずだった。

 突然焔の目の前で、餓霊達の電磁式が乱れ始めた。

 赤い幾何学模様は火花を上げ、歪み、たちまちその力を弱めていく。

 餓霊達は首をもたげて悲鳴を上げ、力の弱い餓霊からとけ崩れていく。

 影響は、あの城喰いにも及んでいた。

 城喰いは無数の足を踏みしめ、水流に耐えながらも、苦悶くもんの声を上げている。

「な、何だ!? 一体何が起こってる!?」

 たかがダムの水ぐらいで、あの城喰いが弱るわけがない。

 焔はそこで、城喰いの足元を渦巻く流れが、妙に泡立っているのに気付いた。

 沸き立つ泡と強い香り。これはまさしく……

「か、海水だとおっ!? 上からきたんじゃないのか!?」

「違う焔、海水は下から!!!」

 燐火の叫び通り、上流からの水は既に止まっている。

 代わりに平野に誘導されるのは、下流から川をのぼって来る海水である。

「上からはフェイクよ、潮が上がるまでの時間稼ぎだわ!!!」

「あいつら、やりやがったな!!!!」

 焔は歯噛みして叫んだ。

 完全にしてやられたのだ。

 真水であればこちらは避けず、神人の奇襲に備えて動かない。

 人間側はそれを見越し、一時的に上流から真水を放流。

 しかしそれに紛れさせ、少しずつ海水を遡上そじょうさせて濃度を上げていた。

 最初に真水を使ったのは、海水が満ちるまでの時間稼ぎだったのだ。

 こちらが相手の作戦を知り、動かずにいた事が裏目に出たのだ。

「けどこんなとこまで、潮が満ちるわけが……」

 焔がそこまで言った時、燐火が再び悲鳴のように叫んだ。

「焔、山手から来るわ!!!」

 不意に後方の味方が騒ぎ出した。

 無数の火線がひらめいて、水しぶき……いや、水柱が舞い上がっていく。

 その合間を縫って、何かがこちらめがけて切り込んでくる。
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