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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編

戦闘開始前・カゴシマ

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 時は戦闘開始前にさかのぼる。

「……………………」

 旗艦・きりしまの発令所にて、天草はただ無言でモニターを見つめていた。

 室内には多数の兵が着席し、忙しく情報を解析している。

 正面の大型モニターには九州の広域地図が映り、3方向から敵の本拠地に迫る様子が、リアルタイムで示されていた。

 あの鶴という少女のおかげで、こんな遠距離からでも友軍と通信出来るのである。本当に心強い味方であった。

(きっと大丈夫。きっと……!)

 天草はそう念じて息をついたが、その息も緊張のため少し震えていた。

 いよいよ最後の戦いが始まる。

 敵の切り札が復活すればこちらの負け。阻止できればこちらの勝ち。

 九州の奪還を賭けた決戦は、極めてシンプルな様相をていしていた。

 耐え難い緊張に癒しを求めて、天草は目線を神使達に向けた。

 子犬ほどの大きさの狛犬、キツネ、そして牛といった神々の使いが、あちこちのテーブル上に座っていたからだ。

 人間には感知できない敵の攻撃、つまり魔の襲来から彼らが守ってくれるのであるが、可愛い見た目も相俟あいまって、かなり兵士達の緊張をほぐしてくれているのだ。

 更に天草の肩の上には、テニスボールほどの小さな生き物……アマビエがとまっていた。

 最早現実の事とは思えず、お伽話とぎばなしの出来事のようだ。

(大丈夫よ。みんながいるんだから……!)

 天草はまたもそう念じた。

 握り締めた手に、じっとりと汗を感じるのだったが……その時だった。

 傍のテーブルに置かれた通信端末が光ったのだ。

 目をやると、あの女性秘書官からの通信である。

 髪を頭の右で結んだ彼女は、少し遠慮したような顔で言った。

「……司令、ちょっとよろしいでしょうか。埠頭ふとうまで至急お願いします」

「用件は?」

「それが、ちょっと混み合った件で。戦いまでまだありますし、少しだけでも」

「………………分かったわ、すぐ行くから」

 天草は少し迷ったが、結局承諾してしまった。

 後で思い出すと、どう考えても妙な行動なのだが、その時は正しいように思えたのだ。

「……ごめんなさい、ちょっとだけ出るわ」

 天草は隣の兵にそう告げると、足早に室内を出た。
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