新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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~エピローグ~ 鎮西のジャンヌダルク

鎮西のジャンヌダルク

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 鹿児島はもの凄い騒ぎだった。

 帰還した誠達はわやくちゃな歓迎を受けたし、人々は熱狂していた。

 市内には『大勝利!』『ありがとう!』といった垂れ幕の他に、『とんかつ』『佐世保バーガー』といったのぼりが立ち並ぶ。

 枕崎まくらざきのかつおのぼりを持つ人が、避難区のあちこちを駆け回っていたが、もしかしたら、カツオと勝つをかけているのかもしれない。

 子供達は紙のちょんまげを付け、バネ仕掛けのように飛び跳ねていたし、大人も負けずに騒いでいた。

 志布志隊の面々は、戦いの疲れも見せずに一緒に喜んでいる。

 あの晶ですらもそうなのだから、九州こっちの人はエネルギーの総量がおかしいのかも知れない。

 誠はなおも粘って壮太達に話しかけようとしたが、向こうから宗像むなかたさんが、白衣を振り乱して走ってきた。

「あんた達、よくやったねえ! あたしゃ一生分感動したよ!」

「おばちゃん、見てたか、俺達の勇姿を!」

 とても話が通じるような状況ではないので、誠はたじろいで後ずさった。

「……みんな凄い熱狂だな。話聞いてくれないや」

「しゃーない鳴っち、南国の人はこんなもんや」

 誠達は志布志隊との会話を諦め、司令部へと戻ったが、そこもワヤになっていた。

 感動であります、感動であります、とラリアット気味に抱きついてくる兵士達に苦しみながら、誠は島津の元へとたどり着いた。

「うぐっ! し、島津、さん……」

「……よく、やってくれた。ありがとう……ウッ、ゴフッ!」

 頭に椿油のビンを乗せた島津は、ラリアットを食らいながらそう言うが、更に次々ラリアットが飛んできて、それ以上喋る事が出来なかった。

 代わりに天草が誠達の前に立った。ケガの手当ても終わり、その挙動は力強い。

「…………ありがとう、皆さん」

 天草は短くそう言った。全身から自信が満ち溢れている。

 長い黒髪は元気良く跳ねていたし、目は強い希望を見つけたように、きらきらと輝いていた。

 大事なのは、希望を見い出す目力よ…………確か小豆島で鶴がそう言っていた、と誠は懐かしく思い出した。

 あれからそんなに経ってないのに、随分遠い日のようである。

 きっとこれからも、この船団は大丈夫だろう。

 鎮西のジャンヌダルクの名に恥じぬこの人が……そして、とびきり熱くて最高な人々がいる限り。

 火の国九州は、何度でも復興するし、再び絶望に染まる事はないのだ。

 天草は順番に誠達と握手し、それから鶴の前に立った。

 鶴は少し左手を気にしてさすっていたが、天草に気付いて顔を上げた。

「あまちゃん」

「うん、あまちゃんよ」

 天草はそう言って微笑むと、鶴と握手を交わした。

「約束、忘れないでね鶴ちゃん。全力で復興するから、お腹いっぱい食べさせてあげる」

「楽しみだわ。私、めちゃんこモリモリ食べるわよ?」

 鶴が言うと、神使達も耐え切れずに飛び上がった。

「姉ちゃん、ワシのラーメンも忘れるなよ!」

「せや、ワイらのおかげやで!」

「モウレツにめでたいのです!」

 見守っていた室内の一同は、再び歓声を上げた。

 再びラリアット祭りと化す司令部だが、事態はそれどころではなかった。

 扉を破り、モアイや弥五郎やごろうどんの人形が乱入すると、床下からは?マークが、窓からは手紙とヤシの木人形が飛び込んでくる。

 彼らは紙吹雪を振りまき、ピーピーと指笛を鳴らしながら、ターザンのように天井を飛び交っている。

 手にマンゴーを掲げた『彼ら』が、妖しい儀式のような踊りを始めると、人々や神使も、ノリノリで踊りを真似し始めた。

「踊りと言えば私達デース!」

 窓を突き破って回転受身を取ったキャシー、そしてヘンダーソンが三線サンシンをアップテンポでかき鳴らす。

 日田下駄を履いた?マークがタップダンスを踊り、ヤシの木が爆竹を鳴らすと、和紙のかぶりもの……つまり山鹿灯籠やまがとうろうをかぶったモアイと弥五郎やごろうどんが、いぐさのてまりを使って熱いバレーを繰り広げている。

 傘を持ったキツネ達が、姫島ひめしまキツネ踊りを披露すると、牛と狛犬が高千穂神楽たかちほかぐらを踊り出す。

 窓の外で歓声が響くと、巨大な博多祇園はかたぎおんの山笠が繰り出していたが、その向こうには唐津くんちの鯛の曳山ひきやまも見えて、あの案内係のメガネのお姉さんが、はっぴ姿ではしゃいでいた。

「……何がなんだか分からないけど、めでたいのは確かね」

 天草はしゃがんで女性仕官のラリアットをかわしながら言うと、ポケットから黒い映写機を取り出し、鶴に渡した。

「ねえ鶴ちゃん。この映写機の映像、録画させて貰えないかしら。父の無実の証拠を、ちゃんと持っておきたいの」

「もちろんよ。今再生するわね」

 鶴はいそいそと映写機を机にセットしている。

 天草はそんな鶴を眺めていたが、ふと手の平の何かに目をやった。

 誠もつられて目をやると、それは小さなキーホルダーだった。

 あのアマビエは、力を使い果たしてキーホルダーに戻っていたのである。

 しばし無言の天草を気遣い、誠は遠慮がちに声をかけた。

「……霊力が回復したら、すぐ戻ってきますよ」

「えっ……?」

 天草はびくっとなって顔を上げた。

 誠と目が合うと、彼女はいきなり真っ赤になった。

 こんなに顔色のいい人だったかな、と思いつつ、誠は言った。

「そいつ、海の妖怪なのに、羽根まで生やして飛んできたんだから……よっぽど心配だったんだと思います。だから、きっと戻ってきます」

「…………そうね」

 天草はそう言って、少しはにかんだように微笑んだ。

「誠……くんがそう言うなら……信じてみるわ……うっ!?」

 天草はそこで、司令部に乱入した子供達に飛びつかれた。あの門の中で、人質になっていた子供達である。

 当時の泣きべそはどこへやら、子供達は口々に天草に訴えかける。

「あのねお姉ちゃん、わたし、お姉ちゃんみたいになりたい!」

「かっこよかったよ!」

「……ほんとに? ありがとう」

 天草はしゃがみこみ、にこにこしながら会話している。

 その姿が雪菜と重なり、誠はなんだか幸せな気分になった。

 …………だが、そこで戦勝ムードは終わりを告げる。
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