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第一章その2 ~黒鷹、私よ!~ あなたに届けのモウ・アピール編

いざ夢の中へ。ダイブイントゥドリーム

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 鶴と神使達は、再び車座になって話し合っていた。

「確かに夢なら黒鷹にも見えるけど、目が覚めると夢だって思っちゃうのよね」

 鶴の言葉に、神使達も頷いた。少し重い雰囲気になりかけるが、キツネが手を上げて皆を励ました。

「でもな、前に姫様が言うた通り、1回で駄目でも、2回3回とたたみかければ、もしかしてって思うもんやろ」

「それは確かに、南蛮風に言えば人のサガでさあ」

 旅装束をまとった猿も、キツネの言葉に同意する。

 鶴も頷いて、一同を見渡し言葉をかけた。

「よーし、それならここからは力押しよ。夢の余韻が醒めないうちに、どんどん黒鷹にアピールしましょう!」


 鶴達はまず、勧誘のチラシを用意した。

 ブイサインをする鶴の似顔絵の周りを、コマやキツネといった神使達の顔がぐるりと取り囲んでいて、下の方には『夢で契約、秋の勇者はフレッシュ・得々キャンペーン』と記されている。

 猿は感心して頷いた。

「ナイスアイディアですぜ。これなら夢で見たキーワードと現実が、頭の中でコラボしやす」

「そうでしょうウキちゃん。南蛮風に言えば、アイディアのマリアージュよ」

「南蛮はポルトガルだし、英語とフランス語も混じってるじゃないか」

 コマのツッコミに聞く耳を持たず、鶴と神使達は盛り上がっている。牛がメガネを直しながら報告した。

「私の情報によりますと、彼らはモウレツな勢いで作戦指令室に向かっているようです」

「なるほど。あっ、早速黒鷹が来たわ!」

 鶴の言葉通り、廊下の向こうから、黒鷹とその隊の面々が走って来ている。廊下は走るな、という張り紙もガン無視である。

「よっしゃ、ほな行くで!」

 肩に乗るキツネにほっぺたをつままれた少年が現れると、自分でも何故そうしているのか分からない、といった表情で黒鷹の前に立ちふさがった。

「な、なんかキツネにつままれたような気分ですけど、鳴瀬さん、これを!」

 少年は手にしたチラシを差し出した。

 突然の事態に、黒鷹達は『えっ?』という表情で立ち止まった。

「ごめん、後で読んどく。緊急の呼び出しなんだ」

 黒鷹はポケットに紙を突っ込むと、そのまま廊下を走って行った。

「なんやあいつ、読みもせんと!」

「いたたた、痛い痛い!」

 頬をつまむ手に力を入れられ、少年が悲鳴を上げている。

「大丈夫よ、それじゃ作戦第二弾に移行しましょう!」

 一同は壁を通り抜けて黒鷹に先回りした。



 鶴と神使達は、2階への階段で黒鷹達を待ち受けた。

 それぞれの神使が1人ずつ少年少女の肩に乗り、ほっぺたをつまんでいるのだ。

 コマは自分も少女の頬をつまみつつ、悲鳴のようにツッコミを入れた。

「ちょっと鶴、何も変わってないじゃないか!」

「作戦その2、数で押しちゃえ作戦よ」

 鶴は腕組みして満足そうに頷いている。

 少年少女はキツネにつままれたような顔をしながら、両の手に数枚ずつ、扇のようにチラシを持っていた。念のためチラシをコピーしていたのが役立ったのだ。

「あっ、来たわ! ものども、かかれ!」

 わーっ、とときの声を上げて突進した少年少女に、さすがの黒鷹も目を丸くしている。

 だが黒鷹達は必死の体捌きで彼らをかわすと、階段の手すりに飛び乗った。そのまま左右の手すりを斜めにジャンプしながら、2階へ駆け上がっていくのだ。

「すごい、最近の子はあんなにアグレッシブなんだ!」

 コマは感心してしまう。

「駄目だ鶴、これはもう、止めるのは無理なんじゃないかな」

「諦めちゃ駄目よコマ、ここは瞬間移動して作戦その3よ!」

 鶴が叫ぶと、一同は少年少女の肩からジャンプし、虚空で光に包まれ消えた。


「さあ、ここが最後の正念場よ」

 鶴は3階の視聴覚教室……今はブリーフィングルームと呼ばれる部屋の前に陣取り、きりりと鉢巻を締め直した。

 無駄に器量の良い彼女は、こうして真面目な顔をすると見栄えはいいのだったが、結局毎回ろくな事を考えていないのだ、とコマは思う。

「それで鶴、今回はどうするのさ」

「恥ずかしいけど、こうなったら私自ら夢に乗り込んで説得するわ」

「やめてあげてよ!」

 コマは思わず黒鷹に同情した。

「それにあの勢いで走ってきた人間が、いきなり寝たりするもんか」

「大丈夫、要は気を失えばいいのよ」

 鶴が得意げに言うと、小さな影が左右から飛びかかり、黒鷹の首に手刀を見舞った。

「うわっ、鳴っちが倒れたで!」

 きりもみして倒れた少年に驚き、周囲が血相を変えている。

「おい隊長、しっかりしろ! お前ならやれる!」

 短髪の少年は黒鷹を応援するが、スキンヘッドの少年は何かに怯えて後ずさりしていた。髪の長い少女が刃物を取り出すと、関西弁の少女に止められていた。

「このバカ鳴瀬っ、だから倒れるって言ったのよ! すぐ手術するわ!」

「カノっち、いきなり手術はあかん! てかあんた、凄い力やな!」

「混乱してるわ! みんな、今よ!」

 鶴と神使達はここぞとばかりに突進し、倒れた黒鷹の襟元にシールを貼った。

 使用にほとんど霊力のいらない、夢に入るための簡易の神器である。

 一同は助走をつけ、そのシールめがけてぽんぽん飛び込んでいく。飛び込まれる度に、うつぶせに倒れた黒鷹は痙攣している。

「ええいもう、どうなっても知らないぞ!」

 コマもやけくそで駆けつけ、シールに向かってダイブした。

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