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第一章その5 ~負けないわ!~ 蠢き出す悪の陰謀編
愚者の思考。自分だけは大丈夫
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「実験体が捕獲されただと?」
研究所の来賓ソファに腰かけたまま、蛭間は思わず声を上げた。
「仕方がありません。それだけの強敵なのです」
蛭間の焦りをまるで他人事のように、爪繰は涼しい顔で答える。
「逆鱗を増設するだけでは、あの程度が限界のようです……が、あれ以上植えつければ、近付く前に暴走しますし」
「くそっ、なんて事だ……!」
蛭間は頭を掻き毟った。
船団の勢力図は、既に大きく変わりつつある。あの鎧姿の小娘と、英雄殺しの若造が調子に乗って暴れ周り、誰もがこちらの言う事を聞かなくなっているのだ。
もちろん蛭間も、ただ手をこまねいていたわけではない。爪繰には言っていなかったが、それなりに暗殺を企てた事もあるのだ。
しかし全てが未遂に終わった。武器の持ち込みは全て見透かされ、近付く事さえ出来ない。
遠距離から狙撃も試みたが、全てのライフルの属性添加機が最悪のタイミングで故障し、弾薬はなぜか不発ばかりだった。
弾丸や属性添加機の不良率からすると、一体どのぐらいの確率なのかは分からないが、何か悪魔的な強運……いや猛運が、あの小娘の周りに渦巻いているようだ。それは容赦なく牙を剥き、蛭間が今まで築き上げてきた地位も名誉も剥ぎ取っていくのだ。
いつまでもこんな研究所暮らしもしたくないし、どうして自分がこんな思いをしなければならんのだろう。それも全部あいつらのせいだ、と蛭間は相手を呪った。
「くそっ、一体どうすればいいのだ……!」
「……もう一つ、良いアイディアがありますが」
「よいアイディアだと? この前も自信満々だったではないか!」
蛭間は声を荒げるが、その時、ふいに相手の顔が無表情に近くなった。
「……あ、いや、すまん。取り乱していた」
蛭間は何かの悪寒を感じて、すぐに前言を撤回してしまう。
爪繰は再び柔らかな笑みを浮かべて、蛭間に一歩近付いた。
「アイディアは、副作用の少ないものから使いますからね。先の実験体なら逆鱗の不適合による暴走で済みますが……今回は少々手荒でして、後始末が面倒なのです」
「……して、そのアイディアとは?」
「いっそ人に足を引っ張らせては如何でしょう。あの連中は敵の動きを読んで行動しており、そのため不利な状況に陥らないのです。囲まれる前に先手をうって行動し、相手の最も手薄な所に攻撃を仕掛けます。少数で勝てるのはそのためです」
「ではどうするのだ?」
「不利にすればいいのですよ。無理やりに」
爪繰は笑みを浮かべたままに答える。
「餓霊の前線の部隊は消されましたから、そろそろ本戦力が動き出すでしょう。具体的に言えば、旧徳島県の山間部に、大規模な拠点が発見されるかと。そこを攻める戦いで……こう仕掛けるのです」
爪繰は蛭間の耳元に顔を寄せ、何事か囁いた。
「………………」
蛭間はしばし呆然としていたが、やがて下卑た笑みを浮かべた。
「た、確かに、それなら奴等を潰せるかもしれんな。ただ、そう都合よく……」
その瞬間室内のモニターに、緊急通信のサインが点滅した。
「私だ。繋ぎたまえ」
爪繰の言葉に、モニターには研究員が映し出された。彼はよく練習した台本のごとく、淀みなく報告してきた。
「主任。予定通り旧徳島県の山間部に、餓霊の大型拠点が発見されました」
「分かった。引き続き情報収集をしたまえ」
爪繰はそこで蛭間に向き直る。
「……ほら、言った通りでしょう?」
蛭間はしばらく絶句していたが、恐る恐る男に尋ねる。
「い、いくら予測できると言っても、ここまで分かるものなのか……?」
「我々は成果の全てを見せているわけではありませんので」
怪訝そうな蛭間に対し、爪繰は笑顔で告げた。両手を広げ、上機嫌で語りかける。
「あなたは船団内で力を伸ばせる。私達は仕事が進む。良いパートナーです。大丈夫、ご協力いただいてるのですから、あなたの地位だけは保証しますよ」
「そ、そうか……そうだな」
蛭間は極めて単純に納得した。
どんな危険な相手だろうと、自分だけは大丈夫。自分だけは食い物にされない。
愚か者特有の思考だったが、もう一つ、愚か者には特徴がある。
人を見る目が決定的に乏しいのだ。
研究所の来賓ソファに腰かけたまま、蛭間は思わず声を上げた。
「仕方がありません。それだけの強敵なのです」
蛭間の焦りをまるで他人事のように、爪繰は涼しい顔で答える。
「逆鱗を増設するだけでは、あの程度が限界のようです……が、あれ以上植えつければ、近付く前に暴走しますし」
「くそっ、なんて事だ……!」
蛭間は頭を掻き毟った。
船団の勢力図は、既に大きく変わりつつある。あの鎧姿の小娘と、英雄殺しの若造が調子に乗って暴れ周り、誰もがこちらの言う事を聞かなくなっているのだ。
もちろん蛭間も、ただ手をこまねいていたわけではない。爪繰には言っていなかったが、それなりに暗殺を企てた事もあるのだ。
しかし全てが未遂に終わった。武器の持ち込みは全て見透かされ、近付く事さえ出来ない。
遠距離から狙撃も試みたが、全てのライフルの属性添加機が最悪のタイミングで故障し、弾薬はなぜか不発ばかりだった。
弾丸や属性添加機の不良率からすると、一体どのぐらいの確率なのかは分からないが、何か悪魔的な強運……いや猛運が、あの小娘の周りに渦巻いているようだ。それは容赦なく牙を剥き、蛭間が今まで築き上げてきた地位も名誉も剥ぎ取っていくのだ。
いつまでもこんな研究所暮らしもしたくないし、どうして自分がこんな思いをしなければならんのだろう。それも全部あいつらのせいだ、と蛭間は相手を呪った。
「くそっ、一体どうすればいいのだ……!」
「……もう一つ、良いアイディアがありますが」
「よいアイディアだと? この前も自信満々だったではないか!」
蛭間は声を荒げるが、その時、ふいに相手の顔が無表情に近くなった。
「……あ、いや、すまん。取り乱していた」
蛭間は何かの悪寒を感じて、すぐに前言を撤回してしまう。
爪繰は再び柔らかな笑みを浮かべて、蛭間に一歩近付いた。
「アイディアは、副作用の少ないものから使いますからね。先の実験体なら逆鱗の不適合による暴走で済みますが……今回は少々手荒でして、後始末が面倒なのです」
「……して、そのアイディアとは?」
「いっそ人に足を引っ張らせては如何でしょう。あの連中は敵の動きを読んで行動しており、そのため不利な状況に陥らないのです。囲まれる前に先手をうって行動し、相手の最も手薄な所に攻撃を仕掛けます。少数で勝てるのはそのためです」
「ではどうするのだ?」
「不利にすればいいのですよ。無理やりに」
爪繰は笑みを浮かべたままに答える。
「餓霊の前線の部隊は消されましたから、そろそろ本戦力が動き出すでしょう。具体的に言えば、旧徳島県の山間部に、大規模な拠点が発見されるかと。そこを攻める戦いで……こう仕掛けるのです」
爪繰は蛭間の耳元に顔を寄せ、何事か囁いた。
「………………」
蛭間はしばし呆然としていたが、やがて下卑た笑みを浮かべた。
「た、確かに、それなら奴等を潰せるかもしれんな。ただ、そう都合よく……」
その瞬間室内のモニターに、緊急通信のサインが点滅した。
「私だ。繋ぎたまえ」
爪繰の言葉に、モニターには研究員が映し出された。彼はよく練習した台本のごとく、淀みなく報告してきた。
「主任。予定通り旧徳島県の山間部に、餓霊の大型拠点が発見されました」
「分かった。引き続き情報収集をしたまえ」
爪繰はそこで蛭間に向き直る。
「……ほら、言った通りでしょう?」
蛭間はしばらく絶句していたが、恐る恐る男に尋ねる。
「い、いくら予測できると言っても、ここまで分かるものなのか……?」
「我々は成果の全てを見せているわけではありませんので」
怪訝そうな蛭間に対し、爪繰は笑顔で告げた。両手を広げ、上機嫌で語りかける。
「あなたは船団内で力を伸ばせる。私達は仕事が進む。良いパートナーです。大丈夫、ご協力いただいてるのですから、あなたの地位だけは保証しますよ」
「そ、そうか……そうだな」
蛭間は極めて単純に納得した。
どんな危険な相手だろうと、自分だけは大丈夫。自分だけは食い物にされない。
愚か者特有の思考だったが、もう一つ、愚か者には特徴がある。
人を見る目が決定的に乏しいのだ。
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