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第一章その5 ~負けないわ!~ 蠢き出す悪の陰謀編
鳴門地区防衛戦2
しおりを挟む「……ったく、どういう風の吹き回しなんだか」
特務隊の小牧千春は、そう言って操縦席から自陣を眺めた。
オールバックの長髪で、きりりとした表情はいかにも勝気そうである。
傍らに立てかけた槍は、口金辺りに金ぴかの鯱が飾られ、乗り手の派手さ加減を示していたが、当人はいたって真面目な顔で思案している。
船団長・蛭間の命令によって、砲撃車両班と自分達3人の特務隊が派遣された。そしていきなりあの連中と共闘せよというのだから、千春は納得がいかなかったのだ。
「あんだけ毛嫌いしてたのに、何で急に共闘になったんだろ。ちょっと理解に苦しむね」
すると画面に、活発そうな少年が映った。
名は武田玄太。
小柄だがよく日に焼けて、上がり気味の眉が凛々しい。髪はやや高い位置で結ばれ、戦国武将の茶筅髷のようだ。
小さい頃から剣道に明け暮れ、遠い親戚である鹿児島の志布志とかいう好敵手とよく競っていたらしい。
彼はよく通る声で語りかけてきた。
「それは姉御、風向きがやばいから日和ったんじゃないか? 協力しないわけにゃいかんけど、ベテラン勢が出るのは気まずい。だから新入りを行かせたんだろ」
そこでモニターにもう1人、いかにもおっとりした顔の少女が映った。
名は清水こころといい、2メートル近い長身の持ち主なのだ。
「うふふ、これでみんな仲良くなれるといいなぁ」
「お前は暢気すぎるんだよ。ったく、これだから静岡の人間は」
「玄太さあ、それは偏見じゃん?」
「いーや姉御、俺は実際被害にあってんだ。俺の親戚は、そりゃあ武田の騎馬武者かってぐらいカッコよかったんだが、サッカーで静岡の名門に行ったんだ。そしたら見る影も無くとろけちまって、現地のおなごとくっついちまった」
玄太は腕組みして目を閉じ、当時の悔しさを思い出しているようだ。
「こっちはいいぞー、気候もいいし、ボール蹴れば誰でもサッカーしてくれるしって。ヘラヘラしやがって、あの凛々しい兄貴分が見る影もねえ」
玄太は拳を握り締めて熱弁するが、一方こころはどこ吹く風だ。
「だって実際楽しいんだもんねえ。あったかいし、お魚だって超おいしいし。おでんのモツも最高だよ~」
「だからそんなテンションじゃ生き残れねえんだって。人間もっとビシっと構えてだなあ」
「そうそう、こっちは富士山もあるんだよ~」
「おいっ、富士山は半分山梨なんだよ!」
「だって山無しなのに富士って変だよ」
「字が違うだろっ!」
千春はじゃれあう2人を画面上で見守った。
笑顔を絶やさないこころと、いつもそれを世話する玄太。2人とも一緒にこの船団に移動してきた、大事な大事な仲間達である。
それ以外にも、同郷の住民が大勢この第5船団に避難しており、蛭間の許可を得て避難区に身を寄せていた。
元は大企業家の一族である千春が、万が一再興した日のために恩を売る気か……とも思ったが、それでも恩義は恩義である。千春は自身をそう納得させていた。
「いずれにしてもこれはチャンスさ。ここで手柄を立てればあたしらの居場所も確保される。いつか小牧インダストリィを再興させて、従業員のみんなも呼び戻すんだから。気合入れていかなくちゃね」
「うん、分かった♪」
「私もよ!」
「いい返事だね……って、うわっ!?」
いきなり現れた人物に気付き、千春は座席からひっくり返った。
「なっ、なななな、何でいきなりこんな所に!?」
そこにいたのは、あの城で出会った鎧姿の少女だったのだ。
少女は特に悪びれもせず、気さくに片手を上げて振る。
「こんにちは、お邪魔してるわ。お構いなく」
「構うってばさ! てか何の用なのよ?」
「ちょっと気になって来てみたの。こないだお城で会ったでしょう?」
「……ああ、あれね」
千春は気まずさで目を伏せた。楽しい宴を邪魔した事は、多少なりとも罪悪感を感じていたのだ。
「あの時は悪かったわね」
「構わないわ。でもあなた達は、あいつらと性根が違う気がするの。あの連中と縁は切れないの?」
「鶴の言う通りだよ。なんだったら悪縁切りのお祓いをしようか」
「えっ、その犬喋るの!?」
少女の肩の子犬?のような生き物が喋ったので、千春はますます混乱したが、生き物は2本足で立って否定する。
「僕は狛犬だから、犬じゃないよ」
「狛犬……」
千春はしばらく頭が働かなかったが、我に返って頭をぶんぶん振った。
「と、とにかくそうもいかないの! こっちはこっちで行き場がないんだから」
「ふーん……」
少女はしばらく千春を眺めていたが、納得して話題を変えた。
「それはそうと、あなた達はどこから来たの?」
「姉御も俺達も、東海の避難区が襲われて、少し前にこっちに来たんだ。地元の人も一緒にな」
玄太が代わって説明してくれた。
「避難経路もついてなくて、どんどん西に追いたてられて。さ迷ってこれまでかって思ってた時に、ここの船団に通信がつながったんだ」
「なるほど、それは気の毒だったわねえ」
少女はどこから取り出したのか、帳面にメモしながら聞いている。
千春は段々落ち着いてきて、少女に逆に質問してみる。
「じゃあ今度はこっちの番ね。そんな格好してるけど、一体どこの誰なのさ?」
「私は三島大祝家に生まれた大祝鶴姫。伊予の国が本拠地よ。見る物全部が珍しいし、おいしい物も多いから、平和になったら何を食べるか楽しみなの」
「うふふ、それなら静岡に来てお魚食べるといいよ♪」
こころがにこにこしながら答える。
「駿河湾はねえ、急に深くなってるから、色んな種類のおいしい魚が食べ放題だよ。アマダイの松笠揚げなんて最高だよ~」
「むむむ、なるほど、面白そうなお料理ね。マゲのあなたは?」
「俺か? 俺んちは、かの有名な信玄公のお膝元さ。甲斐武者は戦国最強って言うけど、ぶどうも武道も日本一だぜ。旨いもんだったら、これから寒くなるし、ほうとうがお勧めだな。味噌とかぼちゃが相性抜群のうどんで、滅茶苦茶うまいしあったまるんだ」
「親同士が友達だったから、小さい頃は玄太の家でよく食べたんだよ~。あと、デザートの桃がリンゴみたいに硬くて変なの」
「変じゃないっ、桃は硬いのが採れたてなんだよっ! 毎年食い切れないぐらいもらうから、ビン詰めにして年中おかんがかじるんだぞ」
「まあ、それはおいしそうね。なるほどなるほど、それであなたは?」
鶴は遠慮なく千春にも話をふる。
「えっ、あたし? そ、そりゃあ……てんむすとかひつまぶしとか、味噌煮込みうどんとか色々あるけど……甘党だったら、小豆をのっけた小倉トーストよね。喫茶店に行けば大抵あるし、そもそも天下人のお膝元だったから、何食べてもサービス満点なのよ」
「なるほど、よく分かったわ。みんなめちゃんこ故郷が好きなのね」
何がどう分かったのか、鶴は帳面に書き終わると、片手を千春に差し出した。
千春も反射的にその手を握る。
「……!?」
握った瞬間、何か涼やかな風のようなものが流れ込んできて、千春は思わずよろめいた。
「それじゃまたね!」
鶴はそう言って手を振ると、光に包まれて消えてしまった。
「き、消えた……」
千春はゆっくりと椅子に身をもたせかける。
「あの子、一体何しに来たのよ……???」
何が何だか分からないが、久しぶりに小倉トーストが食べたくなってしまった事だけは確かだ。
甘い小豆の誘惑を追い払うべく、千春は再び頭を振った。
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