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第一章その7 ~あなたに逢えて良かった!~ 鶴の恩返し編

もう一度目を開けて

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「……ここは……?」

 誠は周囲を見渡した。

 一面の青い空間だったが、決して冷たい青さではない。

 澄んだ空がそのまま周囲に漂っているかのような慣れ親しんだ感覚で、不思議と心が落ち着くのを感じる。

 やがて前方から、誰かが近付いて来た。

 白いパイロットスーツに身を包んだ、髪の長い青年……つまり、かつて日本中の人々を守った英雄であり、誠が命を奪ってしまった、明日馬の姿だったのだ。

 でも明日馬の顔には傷が無かった。遠いあの日と同じように、優しい眼差しでこちらを見つめている。

「やっと会えたな、まこすけ。現世がこんなんだから、なかなか夢にも出られなかったけど」

「あ、明日馬さん……」

「謝らなくていい、お前のせいじゃないんだから。あの魔王と戦ったんだ。全滅してもおかしくなかったし、恨んでなんかいないさ」

 明日馬は子供を諭すように、優しく誠に語りかける。

 それから少し目線を伏せ、搾り出すように言葉を続けた。

「………………俺も、やってしまったんだ」

「え……?」

 そこで明日馬は右手の防御手袋ガードグラブを外した。その手には、赤いドクロの模様が浮き出ていたのだ。

「……みんながやってたから、俺もあのサイトを使ってしまった」

 明日馬は自分を罰するように語り続ける。

「俺が避難した所は、みんな喰われて死んじまった。多分これを目掛けて来たんだ。俺が化け物を呼び寄せたのに、俺だけが助かって。それからは、何もかもが怖かった。俺のせいでみんな死んだって思うと……だから、戦うしかなかったんだ」

 明日馬は右手を強く握り締めた。その手は微かに震えている。

「俺は立派なんかじゃない、ただ怖かっただけなんだ。ガラにもない英雄を演じて、罪滅ぼしするしか無かったんだ……!」

「そ、そんな……」

 戸惑う誠に歩み寄り、明日馬は肩に左手を置いた。

「自分は英雄じゃない。お前もそう思ってるだろう? でもまこすけ、正義ってのは神輿みたいなもんだ。1人で背負うにはあまりに重い。でも誰かが肩を貸してくれれば、きっと前に進めるさ」

 明日馬はそこで、もう片方の手も誠の肩に乗せた。右手のドクロは光を帯びて、もがきながら消えていく。

 明日馬は真っ直ぐに誠を見据え、力強く言い放った。

「さあ行け誠、目を開けろ。お前になら、見えるはずだ……!」

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