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第五章その1 ~ほんとに勝ったの?~ 半信半疑の事後処理編
神さまの前でうたた寝。でも今日は許す!
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しばし後。
神職ふうに正装した鳳飛鳥は、板張りの拝殿に座っていた。
居並ぶ一同は、奥の高座に向かって、数列に分かれて正座している。
鳳は2列目であり、すぐ前には救国の聖女である大祝鶴姫様。
そして彼女の傍らには、同じく救国の英雄たる黒鷹様……鳴瀬氏が座っていた。
彼の後ろ姿を見つめ、鳳は何ともいえない気持ちになった。
(黒鷹様……ご立派になられましたね……!)
心からそう思えてしまう。
黒鷹様は、自分より2つ年下の17歳。初めて会った時は、何とも頼りなく見えたものだった。
姫様が現世に来るまでは苦戦の連続だったので、単に最初は疲れ果てていただけかもしれない。だが、それにしても驚くべき成長ぶりである。
四国で、九州で、そして能登半島での戦いで。あらゆる艱難辛苦に立ち向かい、最後には富士の裾野の大決戦にて、あの無敵の魔王を打ち倒してしまった。
もちろん他の多くの人の協力があってこそだったが、それでも彼の活躍なくして、魔王ディアヌスを葬る事は出来なかっただろう。
自分はこの人に仕え、この国を守るお役目を果たしたのだ。
そう思える事が誇らしく、また少し寂しくも思えた。
(日の本奪還の戦いを終えて……私は警護のお役目を解かれる……そしたら黒鷹様と会う事も、恐らくなくなる……)
鳳はその事が切なく、ぎゅっと手を握り締める。
そんな鳳の内心をよそに、彼の肩に乗る神使のキツネが、嬉しそうに話しかけていた。
「ええか、ほんまに調子に乗るんやないで? 稲荷大明神様と、ワイらあっての勝利やからな?」
「いや、何回も聞いたから。もう10回目だろ」
「嘘こけっ、まだ9回やぞ!」
「分かってて言ってるのかよ……」
黒鷹様は困って引き気味である。
その横顔はいかにも歳相応であり、とても大役を果たしたようには見えない。
鳳は少しおかしくなって微笑んだが、そこで高らかに声が響いた。
「闘神・葦原永津彦命様、ご来光!」
やがて強い光が閃き、高座の椅子に神の姿が現れた。
立ち上がったなら、4メートル近い体躯だろう。
顔の両脇で髪を結んだ角髪。胸元に下げられた勾玉の首飾り。
白い袴は膝下辺りで足結いの紐で結ばれ、いかにも神話の絵巻物に描かれる神の姿であった。
日本奪還を指揮した永津彦様は、この混乱が起きた直後、自ら魔王ディアヌスと戦われたのだ。
邪気に溢れた環境であり、全力を出す事は出来なかったが、ディアヌスも不完全な状態だったため、相打ちに持ち込む事が出来たのである。
おかげでディアヌスは派手な行動が取れなくなり、10年近くも戦いの表舞台に出て来なかった。
人々はその間に経済力と技術力を蓄え、日の本奪還の大きな原動力になったのだ。
鳳は心の中で感謝の祈りを捧げるが、闘神は自らの武功を誇示するでもなく、静かにこちらを見下ろしている。
「……仔細、全て見ていた。日の本の奪還、そして大蛇の討伐。ただひたすらに見事である」
永津彦様は淡々と、しかし普段より確実に柔らかな語気で言った。
「今は現世に来られぬが、他の神々も、そして私を指揮した邇邇芸様も、大層お喜びである。本当によくやってくれた」
「お褒めに預かり、誠に光栄でございます。全ては偉大な神々と、支えてくださった皆様のおかげでございます……」
姫様はそう涼やかなお声で答え、深々と頭を下げる。
戦いを始めた頃は、肩に届かなかった彼女の髪も、今は長く伸びていた。
……その成長が何を意味するのか、これから先にどういう影を落とすのかも、鳳はよく分かっていた。
もちろんそれは姫様もご存知のはずだったが、彼女は少しも辛そうな素振りを見せないのだ。
姫様のご口上が終わると、全神連の1人が今後の説明を始める。
「数日中にも、復興に関する全船団の宣誓が行われるでしょう。魔の残党は小規模に潜んでいるでしょうが、今はともかく……」
だがその時、鳳は気付いたのだ。
目の前に座する姫様と黒鷹様の体が、ふらふらと揺れ動いている事を。
(まさか、お加減が悪いのでは……!?)
鳳がそう思った瞬間、両者はゆっくりと倒れ込んだ。
「だっ、大丈夫ですか!?」
鳳は思わず立ち上がったが、それは他の面々も同じである。
ただ永津彦様だけは、動じる事なく2人を見つめている。
頬杖をついたまま、静かにこう言うのだ。
「……心配いらぬ。寝ているだけだ」
「…………あ、そういう事でしたか……」
一同は胸を撫で下ろしたが、そこで慌てて2人を起こしにかかった。
「……って、いやいや、ちょっとお二方! 永津彦様の御前でありますぞ!」
「そそそうですっ、もうちょっとだけ頑張っていただいて!」
口々に騒ぐ全神連の面々に、永津彦様は短く言った。
「構わぬ」
「し、しかし……」
「いいから寝かせてやれ」
永津彦様は再び静かに言った。
口元が少しだけ上がっているのは、どうやらご機嫌がいいらしい。
神職ふうに正装した鳳飛鳥は、板張りの拝殿に座っていた。
居並ぶ一同は、奥の高座に向かって、数列に分かれて正座している。
鳳は2列目であり、すぐ前には救国の聖女である大祝鶴姫様。
そして彼女の傍らには、同じく救国の英雄たる黒鷹様……鳴瀬氏が座っていた。
彼の後ろ姿を見つめ、鳳は何ともいえない気持ちになった。
(黒鷹様……ご立派になられましたね……!)
心からそう思えてしまう。
黒鷹様は、自分より2つ年下の17歳。初めて会った時は、何とも頼りなく見えたものだった。
姫様が現世に来るまでは苦戦の連続だったので、単に最初は疲れ果てていただけかもしれない。だが、それにしても驚くべき成長ぶりである。
四国で、九州で、そして能登半島での戦いで。あらゆる艱難辛苦に立ち向かい、最後には富士の裾野の大決戦にて、あの無敵の魔王を打ち倒してしまった。
もちろん他の多くの人の協力があってこそだったが、それでも彼の活躍なくして、魔王ディアヌスを葬る事は出来なかっただろう。
自分はこの人に仕え、この国を守るお役目を果たしたのだ。
そう思える事が誇らしく、また少し寂しくも思えた。
(日の本奪還の戦いを終えて……私は警護のお役目を解かれる……そしたら黒鷹様と会う事も、恐らくなくなる……)
鳳はその事が切なく、ぎゅっと手を握り締める。
そんな鳳の内心をよそに、彼の肩に乗る神使のキツネが、嬉しそうに話しかけていた。
「ええか、ほんまに調子に乗るんやないで? 稲荷大明神様と、ワイらあっての勝利やからな?」
「いや、何回も聞いたから。もう10回目だろ」
「嘘こけっ、まだ9回やぞ!」
「分かってて言ってるのかよ……」
黒鷹様は困って引き気味である。
その横顔はいかにも歳相応であり、とても大役を果たしたようには見えない。
鳳は少しおかしくなって微笑んだが、そこで高らかに声が響いた。
「闘神・葦原永津彦命様、ご来光!」
やがて強い光が閃き、高座の椅子に神の姿が現れた。
立ち上がったなら、4メートル近い体躯だろう。
顔の両脇で髪を結んだ角髪。胸元に下げられた勾玉の首飾り。
白い袴は膝下辺りで足結いの紐で結ばれ、いかにも神話の絵巻物に描かれる神の姿であった。
日本奪還を指揮した永津彦様は、この混乱が起きた直後、自ら魔王ディアヌスと戦われたのだ。
邪気に溢れた環境であり、全力を出す事は出来なかったが、ディアヌスも不完全な状態だったため、相打ちに持ち込む事が出来たのである。
おかげでディアヌスは派手な行動が取れなくなり、10年近くも戦いの表舞台に出て来なかった。
人々はその間に経済力と技術力を蓄え、日の本奪還の大きな原動力になったのだ。
鳳は心の中で感謝の祈りを捧げるが、闘神は自らの武功を誇示するでもなく、静かにこちらを見下ろしている。
「……仔細、全て見ていた。日の本の奪還、そして大蛇の討伐。ただひたすらに見事である」
永津彦様は淡々と、しかし普段より確実に柔らかな語気で言った。
「今は現世に来られぬが、他の神々も、そして私を指揮した邇邇芸様も、大層お喜びである。本当によくやってくれた」
「お褒めに預かり、誠に光栄でございます。全ては偉大な神々と、支えてくださった皆様のおかげでございます……」
姫様はそう涼やかなお声で答え、深々と頭を下げる。
戦いを始めた頃は、肩に届かなかった彼女の髪も、今は長く伸びていた。
……その成長が何を意味するのか、これから先にどういう影を落とすのかも、鳳はよく分かっていた。
もちろんそれは姫様もご存知のはずだったが、彼女は少しも辛そうな素振りを見せないのだ。
姫様のご口上が終わると、全神連の1人が今後の説明を始める。
「数日中にも、復興に関する全船団の宣誓が行われるでしょう。魔の残党は小規模に潜んでいるでしょうが、今はともかく……」
だがその時、鳳は気付いたのだ。
目の前に座する姫様と黒鷹様の体が、ふらふらと揺れ動いている事を。
(まさか、お加減が悪いのでは……!?)
鳳がそう思った瞬間、両者はゆっくりと倒れ込んだ。
「だっ、大丈夫ですか!?」
鳳は思わず立ち上がったが、それは他の面々も同じである。
ただ永津彦様だけは、動じる事なく2人を見つめている。
頬杖をついたまま、静かにこう言うのだ。
「……心配いらぬ。寝ているだけだ」
「…………あ、そういう事でしたか……」
一同は胸を撫で下ろしたが、そこで慌てて2人を起こしにかかった。
「……って、いやいや、ちょっとお二方! 永津彦様の御前でありますぞ!」
「そそそうですっ、もうちょっとだけ頑張っていただいて!」
口々に騒ぐ全神連の面々に、永津彦様は短く言った。
「構わぬ」
「し、しかし……」
「いいから寝かせてやれ」
永津彦様は再び静かに言った。
口元が少しだけ上がっているのは、どうやらご機嫌がいいらしい。
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