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第五章その2 ~おめでとう!~ やっと勝利のお祝い編
ナギっぺはデリケートなの
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食事処が連なる場所や、海に続く商店街の跡地。
それらを珍しそうに眺めながら、鶴は上機嫌で歩いていく。
やがて2人は宮浦港に辿り着いた。
社のような屋根がついた桟橋、その傍にある『一の鳥居』……そして石灯籠の並ぶ海辺の小道だ。
ここでは昔、ハリウッド映画の撮影があったと母から聞いた事がある。
その頃はまさか、現実に映画顔負けの大冒険をする事になるとは、夢にも思ってなかったのだが。
すると突然、鶴が青い立て看板を指差した。
「阿奈波神社……徒歩20分。ああ、ナギっぺのお社ね。行ってみましょう」
鶴はどんどん海辺の小道を進んでいく。
「ヒメ子、岩凪姫の社は怖くないのか?」
「平気よ黒鷹、ナギっぺも留守してるんだもの。そりゃあもう、鬼の居ぬ間に言いたい放題よ。ええ、今までのお説教の倍返しで」
「もし聞こえてたら?」
「その時は……コマが言った事にするわ」
「また僕のせいにする気? 全然成長してないじゃないか」
ふとかけられた声に目をやると、石灯篭の上に小さな狛犬が乗っている。
ジト目でこちらを見つめる彼は、ぴょんとジャンプして鶴の肩に飛び乗った。
「あ、あらコマ、そこにいたのね。ごきげんいかが?」
「いいと思う? それより目が覚めたなら呼んでよね。心配したんだから」
コマは前足で鶴の頬を突っつく。
鶴もコマに頬を寄せたし、やっぱりこの2人は根本的に仲がいいんだ、と誠は微笑ましく思った。
社に続く海辺の道は、しきりにカーブを繰り返している。
幼い頃は、春になると毛虫が横断しまくるこの道が、母との散歩コースだった。
今はコンクリートで舗装されているが、500年前にカノンが走ったのはこの辺りだろう。
更に進むと、右手の磯場に石像が見えてきた。言わずと知れた鶴姫像である。
像の視線は宮浦港を眺めており、戦で戦死し、もう帰らない思い人……つまり、前世の誠を待っている設定かも知れない。何とも照れくさい話である。
鶴は満足の権化のように頷きまくり、肩のコマに自慢する。
「ねえコマ、ここにも私よ。未来の人は、そんなに私がいいのかしらね」
「反面教師にしてるんじゃないかな」
コマがツッコミを入れたので、鶴は「まあ、こしゃくな狛犬ね!」と返す。
尚も言い争いしながら進むと、やがて海辺の社に……いや、かつて社だった場所に辿り着いた。
「改めて見ると、こりゃ酷いな」
惨状を見かね、誠は思わず呟いた。
元々こじんまりした岩凪姫の社は、大きな台風で壊れ、拝殿が解体されていたのだ。
今は木箱に屋根がついたような本殿が、ちょこんと据えられているだけだ。
鳥居は割れて崩れ落ち、左右の石の支柱だけが、ハの字になって支えあっていた。
割れたお賽銭箱、無造作に積まれた大量の廃材。
日本を守る戦いにおいて、人々を導いてくれた女神の社としては、かなり寂しい状況だった。
誠は岩凪姫の言葉を思い出した。
『もちろんお前の知る通り、大きな台風で社は全壊し、もう島には帰るところもないがな』
『この国で、最も陽の当たらない神の私が、日いづる国を守り抜く! バカげた話と笑うがいい。笑わぬならばついて来い。この幸薄き負け組の神に……!』
あの日女神が言った事が、今頃になって心に染みた。
「これから復興になるけど、再建はどうなるんだろうな」
誠が言うと、コマが後を続けた。
「そうだね黒鷹。もっかい被害が出るくらいなら、別のところに移転するかも。大山祗神社の境内に、佐久夜姫様をお祀りした社があるし」
「それはコマ、ナギっぺが嫌がらなきゃよね」
鶴は腕組みして、少し考えるように宙を見上げた。
「ナギっぺ、変に遠慮するところがあるから。意外とデリケートなのよ」
それらを珍しそうに眺めながら、鶴は上機嫌で歩いていく。
やがて2人は宮浦港に辿り着いた。
社のような屋根がついた桟橋、その傍にある『一の鳥居』……そして石灯籠の並ぶ海辺の小道だ。
ここでは昔、ハリウッド映画の撮影があったと母から聞いた事がある。
その頃はまさか、現実に映画顔負けの大冒険をする事になるとは、夢にも思ってなかったのだが。
すると突然、鶴が青い立て看板を指差した。
「阿奈波神社……徒歩20分。ああ、ナギっぺのお社ね。行ってみましょう」
鶴はどんどん海辺の小道を進んでいく。
「ヒメ子、岩凪姫の社は怖くないのか?」
「平気よ黒鷹、ナギっぺも留守してるんだもの。そりゃあもう、鬼の居ぬ間に言いたい放題よ。ええ、今までのお説教の倍返しで」
「もし聞こえてたら?」
「その時は……コマが言った事にするわ」
「また僕のせいにする気? 全然成長してないじゃないか」
ふとかけられた声に目をやると、石灯篭の上に小さな狛犬が乗っている。
ジト目でこちらを見つめる彼は、ぴょんとジャンプして鶴の肩に飛び乗った。
「あ、あらコマ、そこにいたのね。ごきげんいかが?」
「いいと思う? それより目が覚めたなら呼んでよね。心配したんだから」
コマは前足で鶴の頬を突っつく。
鶴もコマに頬を寄せたし、やっぱりこの2人は根本的に仲がいいんだ、と誠は微笑ましく思った。
社に続く海辺の道は、しきりにカーブを繰り返している。
幼い頃は、春になると毛虫が横断しまくるこの道が、母との散歩コースだった。
今はコンクリートで舗装されているが、500年前にカノンが走ったのはこの辺りだろう。
更に進むと、右手の磯場に石像が見えてきた。言わずと知れた鶴姫像である。
像の視線は宮浦港を眺めており、戦で戦死し、もう帰らない思い人……つまり、前世の誠を待っている設定かも知れない。何とも照れくさい話である。
鶴は満足の権化のように頷きまくり、肩のコマに自慢する。
「ねえコマ、ここにも私よ。未来の人は、そんなに私がいいのかしらね」
「反面教師にしてるんじゃないかな」
コマがツッコミを入れたので、鶴は「まあ、こしゃくな狛犬ね!」と返す。
尚も言い争いしながら進むと、やがて海辺の社に……いや、かつて社だった場所に辿り着いた。
「改めて見ると、こりゃ酷いな」
惨状を見かね、誠は思わず呟いた。
元々こじんまりした岩凪姫の社は、大きな台風で壊れ、拝殿が解体されていたのだ。
今は木箱に屋根がついたような本殿が、ちょこんと据えられているだけだ。
鳥居は割れて崩れ落ち、左右の石の支柱だけが、ハの字になって支えあっていた。
割れたお賽銭箱、無造作に積まれた大量の廃材。
日本を守る戦いにおいて、人々を導いてくれた女神の社としては、かなり寂しい状況だった。
誠は岩凪姫の言葉を思い出した。
『もちろんお前の知る通り、大きな台風で社は全壊し、もう島には帰るところもないがな』
『この国で、最も陽の当たらない神の私が、日いづる国を守り抜く! バカげた話と笑うがいい。笑わぬならばついて来い。この幸薄き負け組の神に……!』
あの日女神が言った事が、今頃になって心に染みた。
「これから復興になるけど、再建はどうなるんだろうな」
誠が言うと、コマが後を続けた。
「そうだね黒鷹。もっかい被害が出るくらいなら、別のところに移転するかも。大山祗神社の境内に、佐久夜姫様をお祀りした社があるし」
「それはコマ、ナギっぺが嫌がらなきゃよね」
鶴は腕組みして、少し考えるように宙を見上げた。
「ナギっぺ、変に遠慮するところがあるから。意外とデリケートなのよ」
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