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第五章その3 ~夢のバカンス!~ 隙あらば玉手の竜宮編

昔話は色んなバージョンがある。みんなめっちゃうろ覚えで語り継ぐし

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「じゃあみんな眠った後、すぐ亀を助けたのか。おっと」

 足元をわらわら歩くシーサーを踏まないようにしながら、誠は皆に質問した。

「鳴っちは疑り深いもんな。さっさと助けたら、縛られずに済んどったのに」

 難波は面白そうにニヤニヤしている。

 既にバカンスモードになった彼女達は、白いTシャツに短パン姿だ。足元はビーチサンダルだし、額にはサングラス。

 もうどこから見ても南国の観光客そのものだ。

「竜宮に罪人風のご招待とは、お釈迦様でも予想出来んだろうな」

 南国の日差しを反射し、太陽そのもののような香川が言うと、宮島も頭の後ろで手を組んで言った。

「しっかし信じられねえよなあ。ついこないだまで、讃岐さぬき平野で地獄の撤退戦やってたのに。まさか竜宮城でバカンスなんてよ」

「そう言えば、香川があの時言ってたわよね。浦島太郎だなんとかって」

 カノンが宙を見上げ、懐かしそうに思い出す。

「意外とあの時、こうなるのが分かってたとか?」

「まさか。もしかしたら御仏みほとけが教えてくれたのかもしれんが……おっ、これはかたじけない」

 香川は答えつつ、宙を泳ぐタツノオトシゴからトロピカルジュースを受け取る。

 鶴は2人分ジュースを受け取り、肩のコマにも飲ませながら言った。

「もっちゃんは500年以上生きてるから、リアル浦島太郎よね」

 君も似たようなものじゃないか、とツッコミを入れるコマをよそに、誠がふと思い出す。

「そういや浦島太郎って、色んな結末がなかったっけ。おじいさんENDエンド以外に、鶴になって飛んでいくのもあったような……」

「ああもう、やっぱり! だから言ったでしょう、苦しみ終われば、つるになるのよ!」

 世界一のドヤ顔で喜ぶ鶴に、誠も何だか楽しい気分になった。

 それから珍しく現代風の格好をしている鶴に見とれた。

(ヒメ子が鎧じゃないなんてな……)

 艶やかなポニーテールの黒髪。

 楽しげで明るい笑顔。

 今はTシャツ姿であるが、それがいかにも健康的でよく似合っている……というか、正直言って可愛い。すごくだ。

 日本を奪還するために来た鎧姿のお姫様が、とうとうその鎧を脱いだ。長い戦いの終わりが、ようやく実感となって誠の中に溢れてくる。

「けど建物とか、意外と地上風なんやな。もっと海の底感あるんか思ってたわ。建物が珊瑚サンゴとか、椅子がぷよぷよしたイソギンチャクとか」

「現世ではないので、皆さんが思うバカンスのイメージで変化しますよ」

 難波の感想に、ニコニコしながら鳳が答える。

「竜宮に来られるのは凄い事なんです。神々と、ごくごく幸運な人しか来られないですから。私も役得ですね」

 あんなに冷静で張り詰めた雰囲気だった鳳も、今はとても嬉しそうだ。

 すらりと背が高い彼女なので、Tシャツと短パン姿も似合っているが、意外にあちこち出っ張っていてけしからん感じである。

「体の方は、先ほど現実のお食事をされましたから、今度は夢の中で魂を回復させるのです」

 誠は鳳に質問した。

「魂を回復って、何をすればいいんです?」

「とにかく遊べばいいんです、この楽園で徹底的に。人々を守るため、命がけで戦ってきた皆様には、その資格がおありです」

「そっか……避難区の子が見たら喜ぶだろうな。この竜宮、他の人は来れないんですか?」

「そのへんはご心配なく。みんな今頃、別の楽しい夢を見ておりますから」

 鳳の言葉が終わると同時に、どこかから声が聞こえてきた。

 沖縄と言えば私達デース……!

 九州で共闘した、志布志隊のキャシーの声によく似ている。

「夢が混線しとるんかいな」

「ゴホン。故郷への執念ですね……まあとにかく、普通はここに来られないのです」

 鳳は咳払いして適当に誤魔化すが、鶴は気にせず笑顔で言った。

「素晴らしいわコマ、いつか本当の琉球にも行ってみましょう」

「違うよ鶴、そっちはシーサーだよ!」

 慌てるコマに一同はまた笑ったが、そこで鶴が左手の一角を指差した。

「見てみんな、あっちに面白そうな場所があるわ!」
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