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第五章その3 ~夢のバカンス!~ 隙あらば玉手の竜宮編
昭和レトロな温泉街。伊東にゆくならハ、●、ヤ
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メインストリートから横にそれると、商店街の入り口ふうのアーチがある。そこをくぐると、一気に場の雰囲気が変わった。
正門から見えた巨大建物群とは違い、低層のビルや旅籠がずらり。つまり現実の温泉街が再現されていたのだ。
「竜宮レトロ通り……昭和とか、平成ふうの温泉街って事か」
誠は頭上の看板を眺めて納得した。
町の中央には大きな川が流れていたが、まるで草津の湯畑のように、もうもうと熱い蒸気が立ち昇っている。
湯を運ぶパイプが町のあちこちを這い回り、旅館やホテルに吸い込まれていく様は、さながら温泉そのものがこの町の血液であるかのようだ。
旅館はそれぞれ個性的な暖簾がかかり、鯛やヒラメが盛んに荷物を運び込んでいた。
「おお~っ、ええ感じの温泉街やな。草津とか、有馬温泉思い出すわ。湯上がりにこういうとこぶらぶらするのがええんよ」
「伊東とか熱海にも似てねーか?」
宮島が言うと、難波が楽しげに頷いた。
「そりゃ温泉街やもん。どっかに蒸し料理屋ないやろか?」
伊東にゆくならハ、●、ヤ、と歌いながら進むと、傍らの旅館から声がかかった。
「これはこれは、ようこそ竜宮のレトロ通りへ」
目をやると、いかにも人?の良さそうなハコフグが、こじんまりした旅館の前を掃除している。
「久しぶりの観光客さんですなあ。どうぞ、ゆっくりご見学下さい」
誠たちは旅館の中を覗いてみる。
ガラス戸に金字で書かれた旅館名は、ハト●ホテルならぬ『箱屋旅館』だ。
「いらっしゃいませ。ああ、姫様ご一行ですね」
入り口のカウンターには、髪にパーマを当てたフグのおばさんが居て、愛想良く迎えてくれる。
「しばらくお休みしてましたので、散らかっておりますが。どうぞどうぞ」
玄関ロビーは木を基調としており、入って左側が休憩スペース。
椅子や漫画本、雑誌や新聞などが備えられ、飲み物の自動販売機もあった。
海の底なのに花もあちこち飾ってあって、カラフルで可愛らしい、魚を模した民芸品も見受けられる。
「いいロビーですね、黒鷹様。年経たあめ色の柱、程よく彩りを添える民芸品。この素朴な感じがたまりません……!」
鳳が胸の前で指を組み合わせ、目を輝かせて言った。
「人生の節目に旅をして、こういう懐かしい旅館に泊まる。憧れてしまいます」
「心配ないわ、これからいくらでも出来るわよ。むしろ節目をメインにすれば、普段から来られるし」
得意げに言う鶴に、たまらずコマがツッコミを入れる。
「酷すぎるよ、節目の合間に人生をやる気? もっと働こうよ」
「平気よコマ、もう一生分働いたもの。あっ、ここから2階よ」
手すりはまだら模様の虎斑竹であるが、その竹もニスが塗られ、ぴかぴかに磨き抜かれていた。
上がってみると、2階は宿泊部屋が並んでいて、龍の間、渦潮の間などと書いてある。
中を覗くと、畳敷きに木の座椅子と机。机上には定番のお饅頭だ。
窓際にはくつろぎスペースがあって、椅子と小さなテーブルが置かれていた。
宮島ははしゃいで、窓辺の椅子にどっかと座る。
「おーっ、これだよこれ。温泉来たら、ここで外眺めるんだよ」
「ええっと……確か広縁とか言うんだっけ」
誠は頭をかきながら思い出す。このスペースでまったりしたら、文豪になった気分だろう。
窓からは町並みが一望出来て、煙突からも道からも、あちこち湯気が立ち昇っていた。
「湯気モクモクやな、別府の鉄輪にも似てるで。こういうちっちゃい宿がいっぱいあって、路地歩くだけで楽しいんやけど、弟とかはでかいホテルの温水プールに行きたがるんよな」
「大きいホテルも小さい旅館も、どっちもいいとこあるわよね」
カノンはそう言って微笑むが、そこで聞きなれない声がした。
「ああ、忙しい忙しい」
一同が振り返ると、スズキの仲居達が廊下を駆けずり回っているのだ。
「お邪魔してます。そんなに忙しいんですか?」
誠が尋ねると、仲居達は手や鰭を上下させながら言った。
「それはもう、急ピッチのピッチピチですわ」
「魔王も倒されましたし、もうすぐ封印の架け替えが終わります。神様方もお疲れですから、急いで準備しませんと」
「ああ、忙しい忙しい」
「おもてなしおもてなし」
仲居達は、そう言いながらも楽しげに走り回っている。
その後は、あちこちの旅館のお風呂を見学した。
川沿いに設置された岩の露天風呂。
ベランダで風景を眺めながら入れる贅沢な部屋風呂。
「ねえあそこ、蒸気風呂ですって」
鶴が指差す先を見ると、木で出来た箱が並んでいる。箱の上、つまり蓋の部分には、丸い穴が開いていた。
蓋を開けると椅子が現れ、そこに座って蓋を閉めると、蒸気が中に満ちていく仕組みだ。温泉の蒸気を利用した、低温サウナというわけだった。
コマは箱の上に乗り、中を覗いて興味津々だ。
「中に蒸気が出るんだね。穴から頭だけ出すんだ。やってみたいな」
「いいわコマ、やってみましょう」
みんなで並んで箱に入り、蒸気風呂を堪能する。
コマも鶴と一緒に入り、穴のふちから顔を出したが、足が全然届かないため、鶴が下から支えているようだ。
柔らかい蒸気がしっとりと体を温め、今までの疲れがじんわりとほぐれて行く。
声を出すつもりが無くても、自然に「あー」と声が出てしまう。
「なんやこれ、全部の悪いもんが抜けてく気がするわ……」
「確かに、極楽がこんなところにあったとは……」
蒸気で艶が良くなった香川も上機嫌だ。
正門から見えた巨大建物群とは違い、低層のビルや旅籠がずらり。つまり現実の温泉街が再現されていたのだ。
「竜宮レトロ通り……昭和とか、平成ふうの温泉街って事か」
誠は頭上の看板を眺めて納得した。
町の中央には大きな川が流れていたが、まるで草津の湯畑のように、もうもうと熱い蒸気が立ち昇っている。
湯を運ぶパイプが町のあちこちを這い回り、旅館やホテルに吸い込まれていく様は、さながら温泉そのものがこの町の血液であるかのようだ。
旅館はそれぞれ個性的な暖簾がかかり、鯛やヒラメが盛んに荷物を運び込んでいた。
「おお~っ、ええ感じの温泉街やな。草津とか、有馬温泉思い出すわ。湯上がりにこういうとこぶらぶらするのがええんよ」
「伊東とか熱海にも似てねーか?」
宮島が言うと、難波が楽しげに頷いた。
「そりゃ温泉街やもん。どっかに蒸し料理屋ないやろか?」
伊東にゆくならハ、●、ヤ、と歌いながら進むと、傍らの旅館から声がかかった。
「これはこれは、ようこそ竜宮のレトロ通りへ」
目をやると、いかにも人?の良さそうなハコフグが、こじんまりした旅館の前を掃除している。
「久しぶりの観光客さんですなあ。どうぞ、ゆっくりご見学下さい」
誠たちは旅館の中を覗いてみる。
ガラス戸に金字で書かれた旅館名は、ハト●ホテルならぬ『箱屋旅館』だ。
「いらっしゃいませ。ああ、姫様ご一行ですね」
入り口のカウンターには、髪にパーマを当てたフグのおばさんが居て、愛想良く迎えてくれる。
「しばらくお休みしてましたので、散らかっておりますが。どうぞどうぞ」
玄関ロビーは木を基調としており、入って左側が休憩スペース。
椅子や漫画本、雑誌や新聞などが備えられ、飲み物の自動販売機もあった。
海の底なのに花もあちこち飾ってあって、カラフルで可愛らしい、魚を模した民芸品も見受けられる。
「いいロビーですね、黒鷹様。年経たあめ色の柱、程よく彩りを添える民芸品。この素朴な感じがたまりません……!」
鳳が胸の前で指を組み合わせ、目を輝かせて言った。
「人生の節目に旅をして、こういう懐かしい旅館に泊まる。憧れてしまいます」
「心配ないわ、これからいくらでも出来るわよ。むしろ節目をメインにすれば、普段から来られるし」
得意げに言う鶴に、たまらずコマがツッコミを入れる。
「酷すぎるよ、節目の合間に人生をやる気? もっと働こうよ」
「平気よコマ、もう一生分働いたもの。あっ、ここから2階よ」
手すりはまだら模様の虎斑竹であるが、その竹もニスが塗られ、ぴかぴかに磨き抜かれていた。
上がってみると、2階は宿泊部屋が並んでいて、龍の間、渦潮の間などと書いてある。
中を覗くと、畳敷きに木の座椅子と机。机上には定番のお饅頭だ。
窓際にはくつろぎスペースがあって、椅子と小さなテーブルが置かれていた。
宮島ははしゃいで、窓辺の椅子にどっかと座る。
「おーっ、これだよこれ。温泉来たら、ここで外眺めるんだよ」
「ええっと……確か広縁とか言うんだっけ」
誠は頭をかきながら思い出す。このスペースでまったりしたら、文豪になった気分だろう。
窓からは町並みが一望出来て、煙突からも道からも、あちこち湯気が立ち昇っていた。
「湯気モクモクやな、別府の鉄輪にも似てるで。こういうちっちゃい宿がいっぱいあって、路地歩くだけで楽しいんやけど、弟とかはでかいホテルの温水プールに行きたがるんよな」
「大きいホテルも小さい旅館も、どっちもいいとこあるわよね」
カノンはそう言って微笑むが、そこで聞きなれない声がした。
「ああ、忙しい忙しい」
一同が振り返ると、スズキの仲居達が廊下を駆けずり回っているのだ。
「お邪魔してます。そんなに忙しいんですか?」
誠が尋ねると、仲居達は手や鰭を上下させながら言った。
「それはもう、急ピッチのピッチピチですわ」
「魔王も倒されましたし、もうすぐ封印の架け替えが終わります。神様方もお疲れですから、急いで準備しませんと」
「ああ、忙しい忙しい」
「おもてなしおもてなし」
仲居達は、そう言いながらも楽しげに走り回っている。
その後は、あちこちの旅館のお風呂を見学した。
川沿いに設置された岩の露天風呂。
ベランダで風景を眺めながら入れる贅沢な部屋風呂。
「ねえあそこ、蒸気風呂ですって」
鶴が指差す先を見ると、木で出来た箱が並んでいる。箱の上、つまり蓋の部分には、丸い穴が開いていた。
蓋を開けると椅子が現れ、そこに座って蓋を閉めると、蒸気が中に満ちていく仕組みだ。温泉の蒸気を利用した、低温サウナというわけだった。
コマは箱の上に乗り、中を覗いて興味津々だ。
「中に蒸気が出るんだね。穴から頭だけ出すんだ。やってみたいな」
「いいわコマ、やってみましょう」
みんなで並んで箱に入り、蒸気風呂を堪能する。
コマも鶴と一緒に入り、穴のふちから顔を出したが、足が全然届かないため、鶴が下から支えているようだ。
柔らかい蒸気がしっとりと体を温め、今までの疲れがじんわりとほぐれて行く。
声を出すつもりが無くても、自然に「あー」と声が出てしまう。
「なんやこれ、全部の悪いもんが抜けてく気がするわ……」
「確かに、極楽がこんなところにあったとは……」
蒸気で艶が良くなった香川も上機嫌だ。
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