35 / 117
第五章その3 ~夢のバカンス!~ 隙あらば玉手の竜宮編
猪は海を泳いでくる。船で並走すると逃げる
しおりを挟む
(思い出してみりゃあ、そもそも発端はあれだったんだ)
天のご加護かイタズラか、生まれつき異常に力が強かったかおりは、中学1年にして猪を素手で狩ったのだ。
知り合いのじいちゃんばあちゃんが畑を荒らされ困っていたのを知っていたので、襲ってきた猪をぶん殴ったのである。
人々は目を丸くし、口々にかおりを褒め称えた。
作物の猪被害は深刻だったし、奴らはいくら駆除しても海を泳いでやって来る。放っておけば野菜もみかんも喰い尽くしてしまうのだ。
大三島はそこまで大きくない島だったが、この島だけで年に700~800頭が駆除されていた程である。
かおりはちょっとした英雄になり、島の有名人になった。
………そしてここが青春の分かれ道だったのだ。
かおりは事態を勘違いしていた。
人々の認識は、たまたま山菜とりのお年寄りが熊を投げ飛ばして追い払ったのと同じだったのだ。
中学生の女の子が猪に出くわし、運良くそれを撃退した。
危なかったけど、まあお手柄だったね。ほんとは安全第一で逃げて欲しいけど、それでも偉かったね。そういう意味の賞賛だったのである。
しかしかおりは暴走した。人々の賛辞に嬉しくなって、「危ないから次は気を付けて……」の文言を聞かず、ボコスカ獲物を張り倒したのだ。
やがて島で駆除される猪のうち、その9割がかおりの手によるものになった。
肉や皮もソーセージや革製品として売られ始め、パッケージにはかおりの顔写真とともに「私が仕留めました」のセリフ入りだ。
そんな事言った記憶も許可した覚えもないが、かおりの武勇は広く知れ渡る事になったのだ。
「あああああっ……!!」
1人海辺に腰をおろし、かおりは頭を抱えた。
「バカだろあたし……なんであの時、あんな調子に乗ったんだよっ……!?」
だが後悔してももう遅い。
かおりが解体場に持ち込む猪は、大抵拳の跡がついていた。その写真がSNSにアップされ、更に噂が広がりまくった。
たまに四国や広島に行っても、地元のヤンキーが挨拶してくるのだ。
「うわっ、猪殺しのかおりさんだ! チィーッス!」
「オラぁクズどもっ、全員かおりさんに土下座だっ!」
「かおりさんっ、どうか殺さないで!」
悲鳴や命乞いが次々響き、目も当てられない状態である。
ヤンキー以外の人も妙に敬語混じりになったし、それは島の男連中に顕著だった。
皆かおりを見るとぎこちなく視線をそらし、青ざめた顔で後ずさっていくのだ。
「……………………」
誠はただ無言だったが、鳳が気遣って話しかけてきた。
「……そ、その、黒鷹様のお母様も、特殊な才能の持ち主だと思います。竜芽細胞と同じく、天地創成のエネルギーを受けたのでしょう。猪を素手で倒すなど、普通ではあり得ませんから」
「……そ、そうかな。そんな変じゃないと思うけどな……」
素手で熊でも余裕のカノンは、申し訳なさそうに小さくなっている。
天のご加護かイタズラか、生まれつき異常に力が強かったかおりは、中学1年にして猪を素手で狩ったのだ。
知り合いのじいちゃんばあちゃんが畑を荒らされ困っていたのを知っていたので、襲ってきた猪をぶん殴ったのである。
人々は目を丸くし、口々にかおりを褒め称えた。
作物の猪被害は深刻だったし、奴らはいくら駆除しても海を泳いでやって来る。放っておけば野菜もみかんも喰い尽くしてしまうのだ。
大三島はそこまで大きくない島だったが、この島だけで年に700~800頭が駆除されていた程である。
かおりはちょっとした英雄になり、島の有名人になった。
………そしてここが青春の分かれ道だったのだ。
かおりは事態を勘違いしていた。
人々の認識は、たまたま山菜とりのお年寄りが熊を投げ飛ばして追い払ったのと同じだったのだ。
中学生の女の子が猪に出くわし、運良くそれを撃退した。
危なかったけど、まあお手柄だったね。ほんとは安全第一で逃げて欲しいけど、それでも偉かったね。そういう意味の賞賛だったのである。
しかしかおりは暴走した。人々の賛辞に嬉しくなって、「危ないから次は気を付けて……」の文言を聞かず、ボコスカ獲物を張り倒したのだ。
やがて島で駆除される猪のうち、その9割がかおりの手によるものになった。
肉や皮もソーセージや革製品として売られ始め、パッケージにはかおりの顔写真とともに「私が仕留めました」のセリフ入りだ。
そんな事言った記憶も許可した覚えもないが、かおりの武勇は広く知れ渡る事になったのだ。
「あああああっ……!!」
1人海辺に腰をおろし、かおりは頭を抱えた。
「バカだろあたし……なんであの時、あんな調子に乗ったんだよっ……!?」
だが後悔してももう遅い。
かおりが解体場に持ち込む猪は、大抵拳の跡がついていた。その写真がSNSにアップされ、更に噂が広がりまくった。
たまに四国や広島に行っても、地元のヤンキーが挨拶してくるのだ。
「うわっ、猪殺しのかおりさんだ! チィーッス!」
「オラぁクズどもっ、全員かおりさんに土下座だっ!」
「かおりさんっ、どうか殺さないで!」
悲鳴や命乞いが次々響き、目も当てられない状態である。
ヤンキー以外の人も妙に敬語混じりになったし、それは島の男連中に顕著だった。
皆かおりを見るとぎこちなく視線をそらし、青ざめた顔で後ずさっていくのだ。
「……………………」
誠はただ無言だったが、鳳が気遣って話しかけてきた。
「……そ、その、黒鷹様のお母様も、特殊な才能の持ち主だと思います。竜芽細胞と同じく、天地創成のエネルギーを受けたのでしょう。猪を素手で倒すなど、普通ではあり得ませんから」
「……そ、そうかな。そんな変じゃないと思うけどな……」
素手で熊でも余裕のカノンは、申し訳なさそうに小さくなっている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる