新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
41 / 117
第五章その4 ~神のギフト!?~ 魔王の欠片・捜索編

魔王の細胞を探せ

しおりを挟む
 僅か1時間の後、誠達は機体の操縦席に座っていた。

 場所は旧富士市北部に置かれた臨時駐屯地。つまりつい先日、魔王ディアヌスとの最終決戦が行われた辺りである。

「ちょっとしか休んでないのに、久しぶりな気がするわね。竜宮城のおかげかな」

 画面でカノンが呟くと、難波がニヤニヤしながら答える。

「ほんまは何百年も遊んでたんちゃう? どっかに玉手箱仕込まれてへん?」

「怖い事言うなよ」

 誠はツッコミを入れつつ、いつもの癖で手を開閉してみた。

 確かにまだ四肢の反応が鈍い気はする。何か重くて大きな石が、身の内に入っているような感覚というのか。

 それでもあの夢の世界の……竜宮の休暇バカンスのおかげだろうか。

 ディアヌスとの戦いで、全身の神経が限界に達したはずなのに、今は殆ど痛みが無いのだ。
「ヒメ子は大丈夫か?」
「平気よ黒鷹。さっきからずっと寝てたし、もうバッチリだわ」

 後ろの補助席に座る鶴は、いつものように元気に答えた。

 竜宮で、つまり夢の世界で眠るという器用な事をした鶴は、完全回復したようだ。

「!」

 そこで機体の画面上に、岩凪姫の姿が映った。

「皆、呼び出して悪かったな。道すがら少し触れた通り、これから調査を行ってもらう。調査というと言葉を包み過ぎているが……ストレートに言えば危険な任務だ」

 岩凪姫の隣には、妹の佐久夜姫さくやひめの姿もあった。

「お姉ちゃんの言う通りね。全神連じゃ対処出来ない、ちょっと厄介なものが出て来てるの。かなりデリケートな案件だから、他の人には頼めなくて」

(デリケートな案件? しかも女神2人が揃って頼むって……)

 誠は色々と勘繰ってしまうが、そこで女神達は画面に情報を映してくれた。

「口で言うより、見た方が早いだろう」

「なっ……何だこれ……?」

 誠は思わず声を上げた。

 そこには異様な動植物が映し出されていた。

 禍々しい色合いの花は……形から恐らくコスモスの類だろうが、サイズは異様に肥大化していた。家ほどに達したそれは、まるで触手を動かすように、不自然な早さで成長している。

 その根元には野ウサギが倒れて痙攣していたが、背からは鹿の角らしきものが伸び始めていた。

 木々は叫びを上げるようにねじれ、奇形し、枝先から人の手が無数に発生している。

 種としての形状を、いや動植物の垣根すらも飛び越えて、新たな進化を歩もうとしているかのようだ。

「この通り、周辺の生態系が異常な進化を遂げている。その速度も方向も出鱈目でたらめな進化をだ」

 岩凪姫は静かに、しかし言葉の端々はしばしに力を込めて続けた。

「そしてほぼ同時に、大規模な人的被害も発生した。東海方面・第201混成大隊の900名余りが消えたのだ」

「消えた?」

「もっとはっきり言えば、闇の空間に取り込まれた」

 岩凪姫はどんどん核心を突く言葉を投げかけてくる。

「お前が倒した魔王ディアヌス、つまり八岐大蛇やまたのおろちぜた時、その大小様々な細胞片が飛び散った。もちろんそれは全神連が総力を上げて追跡している」

 女神の言葉通り、画面には魔王の細胞が飛び散る様子が映されたが、その大部分が確保されていた。

「ほとんどの細胞は回収に成功した。しかし見落としがあったのだ。あろう事か、一際巨大な力を持つそれが、今になって見つかったのだ。地下に潜っていたのか、なりを潜める悪知恵があったのかは分からないが……ともかく細胞は邪気を振り撒き、自らの支配領域テリトリーに変えてしまった。闇に支配された場所に……もっと言うなら、現世げんせに現れた黄泉よみにだ」

「現世に……黄泉を? そんな事が可能なんですか?」

「可能だ。神の亡骸から力ある神や神器が生まれるのは、神話にも記されているだろう。まして此度こたびは魔王ディアヌス……欠片1つとっても、凄まじい災厄をもたらすのだ」

 岩凪姫は腕組みして言葉を続ける。

当該とうがい細胞はまだ完全に自我を持っていないだろう。つまり魔王の力を持つ者が、無制限にその力を発露はつろしている。制御されていない以上、ある意味魔王そのものより無秩序で危険であり、常人が接すればこうなる」

 そこで画面が切り替わったのだが……映されたのはかなりショッキングな映像だった。

 薄暗い野営地に、無数の獣が咆えるような叫びが渦巻き、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていた。

 人が瞬く間に正気を失い、周囲の人をむさぼり喰うのだ。まるでゾンビもののパニック映画を見るような、現実離れした光景だった。

「うっ……やばいやんこれ……」

 難波が悲鳴のような声を漏らす。

 怪物との戦いに慣れた彼女でも、こうまで露骨に人の姿をした者が起こす狂気には、耐性が無かったのだ。

「変異した者達には、まだ戸籍があり人権もある。彼らの家族や知人もいよう。非常にデリケートな問題のため、通例通り、取り込まれた場所は記号で表記。もちろん発見した『相手』も同様だ。何があっても絶対に名を呼ぶな。もし名が分かる資料を回収しても、その情報を外に出すな」

 佐久夜姫さくやひめが後を続ける。

「形式上、あなた達の任務は彼らの救出と調査だけど……黄泉に染められた以上、生きているとは言えないの。だから目的は、この空間を作り出している存在、魔王の欠片かけらを回収する事よ」

「妹の言う通りだ。これ以上放置すれば、どんな惨事が起こるか分からぬ。疲れているとは思うが、ここは我慢して頑張ってくれ」

『了解しました!』

 誠達は声を揃える。

「いつも頼ってすまぬが、お前達のためでもある。頑張れよ」

 女神2人は、そこで画面から姿を消した。



 やがて機体の起動準備が整い、誠達は出撃する。

 もう数え切れないほど聞いてきた駆動音……人工筋肉が蠢き、ゴムを圧縮するような音が操縦席に響き渡った。

「みんな、油断するなよ」

 誠が言うと、カノンが画面上で頷く。

「あの2人が緊張してるんだもの、きっとやばい事態なのよ。ここをしくじれば、今までが台無しになるぐらいに」

「せやな。折角平和になったんやし、ここが最後のひと踏ん張りやで」

「いよっしゃあ、そんじゃあ行くか! この宮島様の最後の仕事だ、こっからがモテモテウハウハの……」

「おい宮島、頼むからもうフラグは立てないでくれよ?」

 香川が片手を拝むようなポーズにしてツッコミを入れる。

、さすがに全員お陀仏だからな」

 その時は、まだ誰も気付いていなかった。

 神のお告げか仏の慈悲か……香川のこの発言こそが、これから起こる大災厄の前触れだった事に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...