上 下
47 / 117
第五章その5 ~黙っててごめんね~ とうとうあなたとお別れ編

迷子を助けてあげましょう

しおりを挟む
「……あら、迷子かしら?」

 唐突に鶴が歩みを止めた。

 誠が目をこらすと、100メートル程先の道端……農作業用物置のそばに、幼い男の子がうずくまっていた。

 まだ6、7歳ぐらいだろうか。明るい青のダウンジャケットを着ており、膝を抱えて顔を伏せている。

 羽毛や中綿が希少なため、ダウンジャケットは政府の衣類支給品目録ファブリックインデックスには記されていない。

 かといって形見や年代ものにも見えないので、恐らく高価な特注品なのだろう。

「どうした、1人か?」

 誠は言葉を選びながら声をかけた。

 見た目の年齢から、日本がこうなった後に生まれた子だろう。

 結婚や出産は、ある程度立場の高い……島嶼部や安全な避難区の住民にのみ許されるものだったが、それでも家族を亡くした可能性はゼロじゃない。

 だから声をかける時、『お父さんお母さんは?』と言ってはならないのだ。

「………………」

 子供は恐る恐る顔を上げる。

 しばらく誠や鶴を見つめていたが、やがてせきを切ったように泣き出した。

「可愛そうに。平気よ、この鶴ちゃんに話してみて」

 鶴が辛抱強く話を聞きだす。

 この子は家族と共に、小笠原諸島の避難区に住んでいたらしい。

 餓霊が跋扈ばっこする本土からいちじるしく遠く、かなり裕福な者しか住めない高級居住地だ。

 そこで惨劇とは遠い生活を送っていたのだが、突然彼と両親の元に、黒い衣服の大人達が訪れたのだ。

 大人達は両親を捕らえ、不思議な光に包まれた。

 両親が連れて行かれる、と思った彼は、咄嗟にその光に駆け寄った。

 そしたらいつの間にかこの辺りに居て、1人ぼっちだったのだ。

 しばらくあても無く両親を探し回ったのだが、力尽きて道端に座っていた……というわけだ。

 鶴は子供の背を撫でながら言った。

「なるほど、良く分かったわ。悪い奴等にさらわれたのね」

「空間を渡ったって事は、魔族の残党か何かだろうな。距離も長いし、どこかに転移の魔法陣を組んでたんだ。かなり大掛かりな人攫ひとさらいだぞ」

 誠も考えながら答える。

「要人を捕まえて、何か企んでるのかも知れないな」

「きっとそうね。ねえ黒鷹、私達で探してあげましょうよ」

「え、俺達だけで?」

 予想外の返事に、誠は正直面食らった。

「小笠原からここまで飛ぶくらい、大規模な術を使うんだろ。けっこう面倒な相手だと思うけど……今の俺達で対処できるか?」

「時間が経ったら、危なくなるかも知れないわ。見つけたらナギっぺ達に任せるし、探すぐらい出来るわよ」

 鶴は自信満々で言うと、虚空から虫眼鏡を取り出す。

 それから周囲の道を観察し、幼子と似た霊気を探し始めた。

「こっちの方に、似た感じの気がありそうよ」

 鶴はどんどん先に歩いていく。

 思い出すわ、こうやっていっぱい冒険したわね……などと言いながら進む鶴に、誠は戸惑いながら付いて行くのだ。
しおりを挟む

処理中です...