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第五章その5 ~黙っててごめんね~ とうとうあなたとお別れ編
鳳の謝罪
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しばらく山手の方に進むと、やや大きめの廃墟が見えた。何かの工場跡だろうか。
コンクリートの建屋はかなり堅牢だったし、駐車場は大型車が楽に出入り出来る広さである。
「ここよ。まだ霊気が新しいわね」
鶴は遠慮なく敷地に踏み込んでいく。
だが建屋の中ほどまで入り込んだところで、鶴は立ち止まった。
「……変ね。悪い奴らじゃないみたい」
「悪い奴らじゃない?」
「そうなの黒鷹。奥に何人かいるんだけど、邪気が全然感じないの。むしろ綺麗っていうか……いい人の霊気みたい」
「邪気じゃなく霊気って……それってまさか」
誠が言いかけた時だった。
明かりも無い建物の奥から、数人の人影が近付いてくる。そして彼らは、特に攻撃してくる気配も無い。
丁度雲の切れ間が頭上に来たのか、天井の採光窓から差し込む光で、彼らの姿が確認出来た。
「え……?」
誠は思わず声が漏れた。
彼らは全身黒いスーツ姿だった。一見ごく普通の人間のようだが、揃って白い狐の面を付けていたのだ。
誠の記憶にある限り、この面を付けているのは全神連の人々だけだ。
やがて先頭の1人が声を発した。
「これはこれは姫様、そして黒鷹殿も」
声からして成人男性なのだろうが、彼らはこちらを知っているのだ。
「全神連東国本部・懲罰方の廻刃と申します。いかがされました? こんな所にお2人で」
彼には、誠達の傍にいる子供が見えているはずである。しかし彼は『2人』と言った。
誠はその意味を量りかねたが、取り合えずストレートに質問をぶつける。
「この子の両親が行方不明だから、探しに来たんだ」
「………………それはそれは」
彼は少しあざ笑うような語気で答える。
「残念ながら、既に始末いたしました。今までの報いを受けさせた後にです」
「なっ……!?」
誠は戸惑い、一歩前に進み出る。
「し、始末ってどういう事だ? あなた達は全神連だろ? 一体なんで……」
「……………………全神連だからですよ」
男は呟くと、ついと身を翻した。
「おいで下さい。知られた以上、長にお目通り願います」
彼の歩む先の床には、光の魔法陣が浮かび上がった。あそこから転移するつもりなのだろう。
「……ヒメ子、行こう」
誠も後を追おうとした。
平和になったと思った矢先の、ディアヌスの細胞の暴走。そしてこの全神連の凶行である。
頭の中が混乱して、鶴を気遣う余裕が消えていたのだが、そこで誠は気が付いた。
「……………………ヒメ子?」
つい先程まで気丈に振る舞っていた鶴が、立ち止まっている事を。
鶴は身を屈め、苦しげに胸を押さえて、小刻みな呼吸を繰り返している。
「ヒメ子! だ、大丈夫か!?」
「……っ、平気よ、黒……鷹……」
鶴は無理に笑顔を見せて、片手でVサインを作った。
「いや、どう見ても無事じゃないだろ! 戻って休もう!」
誠は慌てるが、そこで闇の中から女性が駆け寄った。
長身ですらりとした体つき、うなじで縛った長い髪。紛れも無く鳳である。
「姫様、お気を確かに!」
鳳はしゃがみこみ、鶴の体を支える。
それから恐る恐る顔を上げ、誠を見つめた。
「…………………………」
言葉こそ無かったが、その目は謝罪を物語っていた。
誠はようやく理解した。
彼女は全てを知っていたのだ。全神連がこんな行為をしていた事も、鶴の体がこうなる事も。
何もかも知っていて……それでも立場上、誠に言えなかったのだ。
「お許し下さい。こんな大切な事を、あなた様に隠しておりました。本当に申し訳ありません……!」
「鳳さん……」
鳳の言葉に、誠は震える声を絞り出す。
「ヒメ子は…………もしかして」
「それも…………申し訳ありませんっ!」
鳳は弾けるように頭を下げた。
「私には権限が無いのです。東国本部が……そして我々全神連全ての長が、直接お話しいた
しますので」
鳳は項垂れたままに続ける。
「本当に申し訳ございませんっ! この期に及んで情けない私を、どうかお許し下さい……!」
「………………」
誠は何も言えなかったが、そこで全神連の男が口を挟んだ。
「姫様は鳳がお連れいたします。黒鷹殿は、どうぞ我々と」
そして鶴が顔を上げた。
「……行って黒鷹。私はお昼寝してるから……お願い」
鶴の目は、どこか祈っているようにも見えた。
足手まといになりたくないのかも知れないし、みるみる弱っていく自分を見せたくないのかも知れない。
「お願い……黒鷹……!」
「………………分かった」
誠は頷き、何とか鳳に顔を向けた。
「ヒメ子を頼みます。俺も終わったら、すぐ行きますから」
「お任せ下さい……!」
鳳は力強く頷く。
それから光に包まれると、鶴と共に姿を消したのだ。
コンクリートの建屋はかなり堅牢だったし、駐車場は大型車が楽に出入り出来る広さである。
「ここよ。まだ霊気が新しいわね」
鶴は遠慮なく敷地に踏み込んでいく。
だが建屋の中ほどまで入り込んだところで、鶴は立ち止まった。
「……変ね。悪い奴らじゃないみたい」
「悪い奴らじゃない?」
「そうなの黒鷹。奥に何人かいるんだけど、邪気が全然感じないの。むしろ綺麗っていうか……いい人の霊気みたい」
「邪気じゃなく霊気って……それってまさか」
誠が言いかけた時だった。
明かりも無い建物の奥から、数人の人影が近付いてくる。そして彼らは、特に攻撃してくる気配も無い。
丁度雲の切れ間が頭上に来たのか、天井の採光窓から差し込む光で、彼らの姿が確認出来た。
「え……?」
誠は思わず声が漏れた。
彼らは全身黒いスーツ姿だった。一見ごく普通の人間のようだが、揃って白い狐の面を付けていたのだ。
誠の記憶にある限り、この面を付けているのは全神連の人々だけだ。
やがて先頭の1人が声を発した。
「これはこれは姫様、そして黒鷹殿も」
声からして成人男性なのだろうが、彼らはこちらを知っているのだ。
「全神連東国本部・懲罰方の廻刃と申します。いかがされました? こんな所にお2人で」
彼には、誠達の傍にいる子供が見えているはずである。しかし彼は『2人』と言った。
誠はその意味を量りかねたが、取り合えずストレートに質問をぶつける。
「この子の両親が行方不明だから、探しに来たんだ」
「………………それはそれは」
彼は少しあざ笑うような語気で答える。
「残念ながら、既に始末いたしました。今までの報いを受けさせた後にです」
「なっ……!?」
誠は戸惑い、一歩前に進み出る。
「し、始末ってどういう事だ? あなた達は全神連だろ? 一体なんで……」
「……………………全神連だからですよ」
男は呟くと、ついと身を翻した。
「おいで下さい。知られた以上、長にお目通り願います」
彼の歩む先の床には、光の魔法陣が浮かび上がった。あそこから転移するつもりなのだろう。
「……ヒメ子、行こう」
誠も後を追おうとした。
平和になったと思った矢先の、ディアヌスの細胞の暴走。そしてこの全神連の凶行である。
頭の中が混乱して、鶴を気遣う余裕が消えていたのだが、そこで誠は気が付いた。
「……………………ヒメ子?」
つい先程まで気丈に振る舞っていた鶴が、立ち止まっている事を。
鶴は身を屈め、苦しげに胸を押さえて、小刻みな呼吸を繰り返している。
「ヒメ子! だ、大丈夫か!?」
「……っ、平気よ、黒……鷹……」
鶴は無理に笑顔を見せて、片手でVサインを作った。
「いや、どう見ても無事じゃないだろ! 戻って休もう!」
誠は慌てるが、そこで闇の中から女性が駆け寄った。
長身ですらりとした体つき、うなじで縛った長い髪。紛れも無く鳳である。
「姫様、お気を確かに!」
鳳はしゃがみこみ、鶴の体を支える。
それから恐る恐る顔を上げ、誠を見つめた。
「…………………………」
言葉こそ無かったが、その目は謝罪を物語っていた。
誠はようやく理解した。
彼女は全てを知っていたのだ。全神連がこんな行為をしていた事も、鶴の体がこうなる事も。
何もかも知っていて……それでも立場上、誠に言えなかったのだ。
「お許し下さい。こんな大切な事を、あなた様に隠しておりました。本当に申し訳ありません……!」
「鳳さん……」
鳳の言葉に、誠は震える声を絞り出す。
「ヒメ子は…………もしかして」
「それも…………申し訳ありませんっ!」
鳳は弾けるように頭を下げた。
「私には権限が無いのです。東国本部が……そして我々全神連全ての長が、直接お話しいた
しますので」
鳳は項垂れたままに続ける。
「本当に申し訳ございませんっ! この期に及んで情けない私を、どうかお許し下さい……!」
「………………」
誠は何も言えなかったが、そこで全神連の男が口を挟んだ。
「姫様は鳳がお連れいたします。黒鷹殿は、どうぞ我々と」
そして鶴が顔を上げた。
「……行って黒鷹。私はお昼寝してるから……お願い」
鶴の目は、どこか祈っているようにも見えた。
足手まといになりたくないのかも知れないし、みるみる弱っていく自分を見せたくないのかも知れない。
「お願い……黒鷹……!」
「………………分かった」
誠は頷き、何とか鳳に顔を向けた。
「ヒメ子を頼みます。俺も終わったら、すぐ行きますから」
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鳳は力強く頷く。
それから光に包まれると、鶴と共に姿を消したのだ。
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