新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
49 / 117
第五章その5 ~黙っててごめんね~ とうとうあなたとお別れ編

全神連の長たる女性

しおりを挟む
 全神連の東国本部は、冷たく静まり返っていた。

 木造の和風建築という一点は西国本部と同じだったが、重く硬苦しい気配がいっぱいに満ちている。息をするのもはばかられるぐらいだ。

 床も壁もうっすらと発光し、誠を威圧するようだったし、居並ぶ一同は面を付け、一切の交流を拒絶しているように感じられた。



「お館様、一同揃いました」

 やがて1人が発すると、奥の上座……巨大な壁かけ鏡の前に座す女性が頷いた。

「ご苦労です、廻刃」

 なぜか1人だけ面を付けていない彼女は、鈴を振るような声で答えた。

 一見して20代の後半ぐらいだろうか。

 長く伸ばした青い髪、同じく青を基調としたころも

 今は目を閉じ、一見隙があるようにも思えたが、全身を包む巨大な霊気は、白く渦巻きながら彼女の周りを漂っていた。もし悪意ある者が近づけば、たちどころに八つ裂きにされるだろう。

「お初にお目にかかります、黒鷹殿。全神連全ての者を束ねる、御殿みあらかうてなと申します。東国の長は欠けたため、今はそちらも兼ねており。よわい300を超えておりますが……どうぞお見知り置きを」

 うてなと名乗った人物は、口元を微かに歪ませた。

 だが誠には、それが笑顔とは思えなかった。

 彼女を覆うあまりに鋭い気配のせいだろう、むしろこちらへの牽制のように感じたのだ。

 うてなは淡々と語り続ける。

「……言葉を飾るつもりはありません、単刀直入に申しましょう。あの子の両親をさらったのは、我々全神連の本意です」

「そ、それは……どういう理由でしょうか」

「悪事を働いたからです」

 台は短く即答した。

「あの幼子の親は、小笠原避難区の有力者。各種物資を横流しし、復興予算を我が物にしておりました。それに反対する者を捕らえたり……復興のための大事な資金で、賭博とばくに興じてさえいました。混乱を防ぐため、戦いの最中さなかに始末する事は控えましたが、断じて許されざる蛮行。よって我々が、責任をもってに送りました」

「送る?」

「殺したと言えばよろしいでしょうか?」

「……っ!」

 全神連らしからぬ強い言葉に、誠は一瞬返しに詰まった。

「何も不思議は無いでしょう? それだけの事をしたのです。これは正当なる罪と罰の等価交換。見逃す事はございません」

 戸惑う誠に、台は淡々と語り続ける。

「……あの地獄の始まりに、ただ一匙ひとさじかてが貰えず死んだ子がおります。ただ1枚の毛布が貰えず、凍えて息絶えた子もおります。足りぬのならともかく、欲に塗れた外道のためにです。どんなに辛かったでしょう……そしてどんなに悲しかったでしょう。孤児として避難区にいた貴方なら、その辺りはご存知なのでは……?」

「そ、それは……」

 誠も過去を思い出し、口ごもった。

 幼い自分がいた横須賀の避難区では……殆どの人は親切だった。

 幾多の災害を経験し、非常時に助け合う事を是とする国民性かもしれない。

 それでも粗暴な者、ずるい人間もごく一部で存在したし、そしてそういう連中こそが、混乱の中で富や食料、権力を欲しいままにしていたのだ。

 口ごもる誠に対し、台は更に続けた。

「姫様と黒鷹殿のお陰であの魔王を打ち倒せた事、感謝の限りであります。しかし肝要なのはその後。此度こたびの災厄により、様々な悪党が雲霞うんかごとく湧き出ました。そしてこの国を統べる神々は、その事にされたのです。善良なる多数の氏子うじこが、どもの犠牲になった事を、絶対にお許しにならないのです」

 台の周囲には、彼女の怒りを表すかのように青い火花が舞い散った。

「全ては天のご決定。明確なる悪事を働いた者は、地の果てまでも追い詰めて、この世を浄化いたします。そのための全神連であり、そのための懲罰方ちょうばつがたですから」

 誠はそこで鳳の言葉を思い出した。確か全神連には、悪事を働く者を罰する部署があると……あれはこういう事だったのだ。

「あ、あの子に罪はないんです。あの子はこの先……」

「我々は子を殺めてはおりません。あくまで親に償わせただけ。そもそも残った子が心配なら、なぜ他者の子を苦しめたのですか?」

「うっ……」

 誠はぐうの音も出ないが、そこで他の者が口を挟んだ。

 恐らくくだんの懲罰方であろう、彼はきつく誠に言う。

「あなたはこの戦いの派手な所だけ見てきたのだろう? 我々懲罰方は、その影で戦ってきた。この混乱で人ならぬ行為を働いた者はごまんといる。もちろん全体から見ればごく僅かだが、決して許せるものではないのだ!」

「そうとも、甘いだけで国家の鎮守ちんじゅが成るものか!」

 懲罰方以外にも興奮が広がっていくが、そこでうてなが口を開いた。

「……その辺りでおやめなさい。救国のご英雄であらせられますよ……?」

 興奮していた者達は、やむなく口撃を中断する。

「言葉が過ぎたかもしれませんが、私も同じ考えです」

 台の目はまだ閉じられていたが、不可視の圧力が強くなった事は、誠にも十二分じゅうにぶんに理解出来た。

「悪党はいかな時代のどんな場所にも、必ず湧き出ます。その発生はゼロには出来ず、更正しない悪も必ずおります。特に今回の混乱に乗じた者を生かしておいては、今後の復興に大きな妨げとなる……そう神々は判断されました。彼らが野放しにされれば、人々の復興意欲がそがれます。それは巨大な損失であり、罰を下さねばならないのです」

 うてなはそこで初めて目を見開き、射抜くように誠を見据えた。

「懸命に生きる者には幸を、道を外れた外道には相応そうおうの報いを。そこで初めて、この戦いの後始末が終わるのです」

「………………っ!」

 うてなの物言いは、完全なる正論だった。

 誠は何も言えず、ただぎゅっと手を握り締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...