新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
50 / 117
第五章その5 ~黙っててごめんね~ とうとうあなたとお別れ編

鶴の秘密

しおりを挟む
「他に言いたい事はありますか……?」

 うてなの問いに、誠は辛うじて返した。

「…………その……ヒメ子の、具合が」

「それは私から説明しよう」

「……っ!?」

 聞きなれた声に、誠ははっとして顔を上げた。

 いつの間にそこに居たのだろう。

 長い黒髪を伸ばした女神……つまり岩凪姫が、うてなの傍に立っていたのだ。

「言葉を誤魔化さずに言えば、あの子は一度死んでいる。お前を失った悲しみで、己に殲滅呪詛せんめつじゅそをかけたからな。もちろん出来る限り魂は修復したし、幼少期の楽しい記憶とつなげ、心を巻き戻して悲しみを薄めていた。それでも鶴が成長し、享年の精神年齢に近づくと、霊的に崩壊してしまう」

「だ、だからあんなに……ふざけてたんですか」

 誠はそこで思い当たった。

 前世の記憶を見た時……特に最後の合戦時には、鶴は随分成熟した印象だった。

 現世に来てからの鶴は、それよりずっとお調子者に見えていたのだが、まさかこんな事情があったとは。

「あの闇の神人、そして魔王ディアヌスとの戦いに備え、鶴は全ての力を解放したし、魂も大幅に成熟した。だから終わりの時が来たのだ」

 岩凪姫は目を伏せ、思いを噛み締めるように言葉を続ける。

「……勿論あの子には伝えてあった。闘いが終われば、お前と別れが来る事を。命を懸けてこの国を守っても、その幸せを享受するのは自分では無い事を。それでもいいから、お前を助けに行きたいと言ったのだ」

 女神はそこで、耐え切れず涙を流した。

「本来なら、あと数年はお前と居られるはずだったが……残しておいた最後の余力も、細胞を鎮めるのに使ったからな」

「………………………………っ!!!」

 身の内に駆け巡る歯がゆい思いに、誠は全身を硬くした。

 戦いを終え、無邪気に明日を夢見ていた誠達の傍で、鶴はこんな宿命と戦っていたのだ。

 誰にも言わず、たった1人で死の恐怖に耐え。日本を守り切った最大の功労者たる鶴は、黙って消えようとしていたのだ。

 ひきつる喉を必死に叱咤しったして、誠はようやく言葉を発する。

「ら……来世で……来世で会えないんですか?」

「それは叶わぬ。お前はもう生まれ変われないからだ」

 岩凪姫は即答した。

「人の生まれ変わりには限度がある。はじめは無垢な魂が、成長すれば段々高次に、逆に堕ちれば低きに進む。悪事を積み重ねたなら、最後は魔界に行き着くだろう。そしてお前は最終段階の魂。もう現世に降りる事は無いし、これが最後の転生なのだ」

 女神の傍らには、地球を模した球体が現れた。

 上空に漂う光の粒……恐らく魂を示すものが地上に降り、そこで輝きを増して上空に戻ったり、逆に黒く染まって地の底に沈んだり。

 細かな金箔入りの液体をかき回したような命の流転るてんを、誠は無言で見つめていた。

「だからお前の魂は、私が保管しておいたのだ。お前が普通の周期で転生すれば、鶴とすれ違っていた。最後の転生は、鶴と出会うようにしてやりたかったから、私の我儘で繋ぎとめておいたのだ」

 女神は尚も言葉を続ける。

「それともう1つ。これも言い辛いが、お前自身、もう満足には戦えないだろう。あの震天を長時間操り、魔王の殺意も浴び続けた。高千穂にも長時間滞在していた。体も魂も、とっくに限界を超えているのだ」

「…………」

 誠はいつもそうするように、ゆっくりと片手を開閉した。

 鈍い痛みが腕の芯に走ったが、それはまるで夢心地のように不確かだった。

 突きつけられた現実があまりにもショッキングで、痛みを認識する事すらおぼつかなかったのだ。

「次に全力を出せば、恐らく死ぬ。今までのように第一線ではおられぬだろう。だからその分……残された時間だけでも、あの子と一緒にいてやって欲しい。前にも言ったが、これは命令でなく願いである」

「……………………かしこまりました」

 誠はもう何も言えなかった。

 ただ頭を下げ、事実を受け入れるしか無かったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...