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第五章その5 ~黙っててごめんね~ とうとうあなたとお別れ編
内緒にしててごめんなさい
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誠が野営陣地に戻ると、見慣れた車が停められていた。
ダークグリーンの車体で、装飾の乏しい無骨な箱型。キャンピングカーを段違いに頑強にしたようなそれは、いわゆる自衛軍の医療車両である。
誠が車両の前に立つと、車外で待っていた佐久夜姫が言った。
「……黒鷹くん、鶴ちゃんは中よ」
カノンや難波、香川や宮島もいたが、彼らも誠に遠慮してくれる。
「鳴っち、うちらはちょっと外すさかい。今は鳳さんが世話してくれとる。ゆっくり話しや」
「…………」
誠は無言で頷くと、1人車内に踏み込んだ。
中には幾つかのベッドが並び、壁には止血帯や点滴用の器具類が、所狭しと下げられていた。
そして最奥部のベッドに、鶴が横たわっていた。
今は目を閉じ、静かに眠る鶴の傍には、コマが小さく丸まっていた。
ベッド脇の椅子には鳳が腰掛けている。
鳳は考え事をしているのか、誠の接近にもなかなか気付かなかったが、そこでようやく顔を上げた。
「あ、黒鷹様……! 失礼いたしました。どうぞこちらへ」
鳳は素早く立つと、誠のために椅子を譲ってくれた。
誠が座ると、コマがむっくり身を起こし、鶴の頬を前足でつつく。
「コマ、いいよ。寝かせててくれ」
「……私が頼んだの。黒鷹が来たら起こしてって」
鶴はうっすらと目を開け、嬉しそうに微笑んだ。
「黒鷹、お帰りなさい」
「ただいま、ヒメ子」
何から話せばいいのか……頭がうまく働かない。それでも何か言わねばならない。
誠は両手を膝に置き、覚悟を決めて言う。
「全部…………聞いてきた」
鶴は頷いて、少し申し訳なさそうに言った。
「黙ってて御免なさい。怒ってる……?」
「怒るわけ無いだろっ……!」
誠は思わず声を荒げそうになった。
それから首を振り、出来るだけ優しい声で言うように努める。
「ご、ごめん。でも、なんで言ってくれなかったんだ……?」
「……何でかしらね」
鶴は視線を外してはぐらかすが、誠はその表情から、彼女の内心が感じ取れた。
少し寂しそうなその顔は、誠と雪菜が好き同士だと気づいた頃、鶴がしていたものだったからだ。
「……雪菜さんに、遠慮したのか」
「それも…………ちょっとあるのかな。黒鷹は優しいから、私がこうだと分かったら、きっと同情しちゃうもの」
「していいだろ」
「駄目……!」
鶴はそう言って首を振った。
「私はあなたを守りに来たの。あなたの幸せを、邪魔しに来たわけじゃないわ」
「お前っ…………そんなキャラじゃなかっただろっ……!!!」
誠はたまらず語気を強めた。
「無理して立派な事、言わなくていいからっ……! もっと今までみたいに、ワガママ言っていいんだって……!」
「まあ、失礼な黒鷹ね」
鶴はイタズラっぽく微笑んだ。
「この鶴ちゃんを甘く見てはいけないわ。私はそれはもう立派な姫なのよ……?」
「知ってるよ……!」
誠はぎゅっと膝頭を握り締めた。
「ヒメ子は凄いよ。俺なんかよりずっと……ずっと……!!!」
なんとかそれだけ搾り出したが、それ以上、言葉が喉を通ってくれない。
何を言えばいいのか、そもそも何を考えればいいのか。
唇が痙攣し、頭の中が真っ白になって……
そこで助け舟を出すかのように、鶴が再び口を開いた。
「じゃあ黒鷹、未来の人に、私の伝説を残しましょうよ。この鶴ちゃんの活躍を、ネオ鶴姫伝説を…………今なら少しぐらい盛ったって、ナギっぺも怒らないわ」
「ああ、うんと盛ろうぜ……!」
誠も無理をして笑顔を作る。
「女神様がびっくりするぐらい、派手に盛っても構やしないさ」
「しめしめ、鶴ちゃんの思うつぼね……」
鶴は弱々しく笑った。
「どのぐらい盛るか………………ちょっとゆっくり考えるわ……」
「……うん。しっかり休んでくれ」
再び目を閉じた鶴に、誠は何とかそれだけ伝えた。
ダークグリーンの車体で、装飾の乏しい無骨な箱型。キャンピングカーを段違いに頑強にしたようなそれは、いわゆる自衛軍の医療車両である。
誠が車両の前に立つと、車外で待っていた佐久夜姫が言った。
「……黒鷹くん、鶴ちゃんは中よ」
カノンや難波、香川や宮島もいたが、彼らも誠に遠慮してくれる。
「鳴っち、うちらはちょっと外すさかい。今は鳳さんが世話してくれとる。ゆっくり話しや」
「…………」
誠は無言で頷くと、1人車内に踏み込んだ。
中には幾つかのベッドが並び、壁には止血帯や点滴用の器具類が、所狭しと下げられていた。
そして最奥部のベッドに、鶴が横たわっていた。
今は目を閉じ、静かに眠る鶴の傍には、コマが小さく丸まっていた。
ベッド脇の椅子には鳳が腰掛けている。
鳳は考え事をしているのか、誠の接近にもなかなか気付かなかったが、そこでようやく顔を上げた。
「あ、黒鷹様……! 失礼いたしました。どうぞこちらへ」
鳳は素早く立つと、誠のために椅子を譲ってくれた。
誠が座ると、コマがむっくり身を起こし、鶴の頬を前足でつつく。
「コマ、いいよ。寝かせててくれ」
「……私が頼んだの。黒鷹が来たら起こしてって」
鶴はうっすらと目を開け、嬉しそうに微笑んだ。
「黒鷹、お帰りなさい」
「ただいま、ヒメ子」
何から話せばいいのか……頭がうまく働かない。それでも何か言わねばならない。
誠は両手を膝に置き、覚悟を決めて言う。
「全部…………聞いてきた」
鶴は頷いて、少し申し訳なさそうに言った。
「黙ってて御免なさい。怒ってる……?」
「怒るわけ無いだろっ……!」
誠は思わず声を荒げそうになった。
それから首を振り、出来るだけ優しい声で言うように努める。
「ご、ごめん。でも、なんで言ってくれなかったんだ……?」
「……何でかしらね」
鶴は視線を外してはぐらかすが、誠はその表情から、彼女の内心が感じ取れた。
少し寂しそうなその顔は、誠と雪菜が好き同士だと気づいた頃、鶴がしていたものだったからだ。
「……雪菜さんに、遠慮したのか」
「それも…………ちょっとあるのかな。黒鷹は優しいから、私がこうだと分かったら、きっと同情しちゃうもの」
「していいだろ」
「駄目……!」
鶴はそう言って首を振った。
「私はあなたを守りに来たの。あなたの幸せを、邪魔しに来たわけじゃないわ」
「お前っ…………そんなキャラじゃなかっただろっ……!!!」
誠はたまらず語気を強めた。
「無理して立派な事、言わなくていいからっ……! もっと今までみたいに、ワガママ言っていいんだって……!」
「まあ、失礼な黒鷹ね」
鶴はイタズラっぽく微笑んだ。
「この鶴ちゃんを甘く見てはいけないわ。私はそれはもう立派な姫なのよ……?」
「知ってるよ……!」
誠はぎゅっと膝頭を握り締めた。
「ヒメ子は凄いよ。俺なんかよりずっと……ずっと……!!!」
なんとかそれだけ搾り出したが、それ以上、言葉が喉を通ってくれない。
何を言えばいいのか、そもそも何を考えればいいのか。
唇が痙攣し、頭の中が真っ白になって……
そこで助け舟を出すかのように、鶴が再び口を開いた。
「じゃあ黒鷹、未来の人に、私の伝説を残しましょうよ。この鶴ちゃんの活躍を、ネオ鶴姫伝説を…………今なら少しぐらい盛ったって、ナギっぺも怒らないわ」
「ああ、うんと盛ろうぜ……!」
誠も無理をして笑顔を作る。
「女神様がびっくりするぐらい、派手に盛っても構やしないさ」
「しめしめ、鶴ちゃんの思うつぼね……」
鶴は弱々しく笑った。
「どのぐらい盛るか………………ちょっとゆっくり考えるわ……」
「……うん。しっかり休んでくれ」
再び目を閉じた鶴に、誠は何とかそれだけ伝えた。
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