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第五章その7 ~その柱待った!~ 魔族のスパイ撃退編
感知できない敵がいたら…?
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「凄いな。まさに鉄壁の守りですね」
呟いて、誠はしばし考えた。
(自分ならどうする? どこを狙う?)
(そもそもこんな柱、いくら夜祖でも攻略出来ないんじゃないか? どんどん組成が変化するんじゃ、正攻法だと絶対無理だ)
(かといって柱の架け替えも狙えない。これだけ警備が厳しけりゃ、どんな魔族も侵入出来ないし……)
ひたすら自問自答するのだが、そこで何かが引っかかった。
(侵入……魔族が侵入?)
妙にそこだけ気にかかる。喉から何かが出そうで出ない。
ひらめきが起こる前段階であり、深層心理では分かりかけているのに、表面の思考が追いついていないのだ。
父はよくこの状態になり、「あ、たぶんもう少しで分かる……うわああ……」などと悶えていた。
やがて数瞬の後、誠はある事に思い当たった。
「お、鳳さん……お願いが。さっきの見取り図、もっかい見せて貰えますか?」
「お待ち下さい」
誠は再度映像の見取り図を確認した。
そして理解する。最初にこれを見た時の違和感をだ。
あまりにも複雑かつ膨大な矢印の動きに気を取られがちだが、それらは柱を作る場所の周囲までは行っても、中に入っていかないのだ。
「あの、この柱を作ってるエリア……御柱方の管轄は、どうしてチェックしないんですか? 監視の循環から外されてるんですが」
「えっ……?」
鳳は珍しく、キョトンとした顔で誠を見た。
「そっ、それは……柱の傍に他の者を立ち入らせないためです。最重要事項のため、外部との接触を徹底的に遮断して……」
鳳は戸惑いながらも、自らを納得させるように説明を続ける。
「そ、そもそも彼らは、千年以上前に全神連に入った古参で、前回の柱の架け替えも補助しております。配偶者も全神連が選びますが、子が出来れば壁の内部に引き取られ、そこでお役目を果たします。お役目を終えた後も指導にあたり、壁の中で一生を終えるのです。遺体も術で滅却し、まさに命の全てを捧げていると言ってよく、全神連でも尊敬を……」
誠はそこでたまらず遮った。
「そ、それは立派ですけど、でもチェックされてないんですね?」
「しては……おりませんが……」
鳳は困ったように目線を泳がせる。
「し、しかし……彼らは魔ではないのです。寿命も人と同じですし、邪気も一切ありません。そもそも千年外に出ていないのですから」
「千年以上生きて狙ってる魔族がいるのに? 数千年前の神と魔の戦いが続いてるのに、たった千年前の約束事が、一族の悲願として残っててもおかしくないんじゃないでしょうか」
「………………」
鳳はとうとう黙ってしまった。
口元に握り拳を当て、しばし考え込んでいたが、やがて恐る恐る口を開いた。
「そう言えば……1つ気になる事が。最近、御柱方によく似た男が外の世界にいたのです。御柱方の中心人物、有待家の当主に似ており……しかし何もおかしな気配が無く。連絡したところ、当主もきちんと『中』におりました。単なる空似だと放置されたのですが……」
「それはいつ頃ですか」
「丁度第5船団がクーデターを受けた日です。発見されたのは、高縄半島の避難区で……黒鷹様の守っていた基地の近くですが」
「……変な気配が無いって事でしたよね? だったら、ヒメ子も気付かない……?」
「えっ……?」
「当時ヒメ子が、突然変な敵に襲われたんです。その後さらわれたんですけど、何の邪気も感じなかったって言ってました。あの時ヒメ子は俺のせいで落ち込んでたんで、そのせいかとは思ったんですけど……」
言葉にすると、誠の中で急激に思考が繋がってきた。
以前から感じていた微かな違和感が、今になって確信に近いものへ変わってきたのだ。
「もしヒメ子ですら気付かない……全神連の誰も感じ取れない魔族がいたら、どこでも入り込めますよね。邪気を発しない、寿命すら人と同じ一族を作り出してたとしたら。全神連と接触して実験しながら、感知されにくい者だけを選りすぐって結婚させて、その性質を高めていったら、誰も見分けられなくなります」
「じ、人工的にそうした者を作り出したというのですか? それではどれだけの犠牲が発生するか……何人が全神連に倒されてきたか」
「そのぐらいの執念がある相手だと思います。特に、あの土蜘蛛と夜祖大神とやらは」
誠は自信をもって答えた。
あの夜祖の配下であれば、それぐらいの事は平気でやる。
能登半島でさんざんに振り回され、大敗した経験から、誠はそう確信したのだ。
「それにカノンの記憶とリンクした時、鬼が人と子を為した事例があるみたいでした。だったら時々人と血を混ぜれば、もっと分かりにくくなりますよね。全神連でも見分けられない……心だけが魔族の存在が生まれるかも」
「心だけが……魔族」
「千年間、1度たりとも邪神と連絡を取らず、怪しい行動も一切しない。千年後に約束が果たされると信じて、夜祖への忠義を貫いてきた。第5船団で発見されたのは、その一族を作る途中で生まれた、分家筋みたいな存在じゃないでしょうか。だから顔が似てたんだ」
「そ、そんな……そのような事が」
鳳の声は震えていたが、誠は尚も言葉を続ける。
「もしかしたら、敵は最初から割り切ってたんじゃないでしょうか。強固な封印の網や、変化し続ける柱を壊すのは不可能。だったらそれを作る側に回ってしまえと。前回は補助に徹して構造を学び、自分達がメインの作り手になる番を待っていたのでは。そして今は絶好のチャンスですよね。あの手この手で敗北を演じて、こっちが勝ったと思い込んでるわけですから」
「…………っ!!!」
事の重大さに気付き、鳳は青ざめていた。
今にも泣きそうな目で誠を見つめ、何か言いたげに、何度も口を動かしている。
「い、いや、まだ想像ですよ? そうと決まったわけじゃないんで」
「確かめましょう、こちらへ!」
鳳は身を翻すと、風のように駆け出した。
呟いて、誠はしばし考えた。
(自分ならどうする? どこを狙う?)
(そもそもこんな柱、いくら夜祖でも攻略出来ないんじゃないか? どんどん組成が変化するんじゃ、正攻法だと絶対無理だ)
(かといって柱の架け替えも狙えない。これだけ警備が厳しけりゃ、どんな魔族も侵入出来ないし……)
ひたすら自問自答するのだが、そこで何かが引っかかった。
(侵入……魔族が侵入?)
妙にそこだけ気にかかる。喉から何かが出そうで出ない。
ひらめきが起こる前段階であり、深層心理では分かりかけているのに、表面の思考が追いついていないのだ。
父はよくこの状態になり、「あ、たぶんもう少しで分かる……うわああ……」などと悶えていた。
やがて数瞬の後、誠はある事に思い当たった。
「お、鳳さん……お願いが。さっきの見取り図、もっかい見せて貰えますか?」
「お待ち下さい」
誠は再度映像の見取り図を確認した。
そして理解する。最初にこれを見た時の違和感をだ。
あまりにも複雑かつ膨大な矢印の動きに気を取られがちだが、それらは柱を作る場所の周囲までは行っても、中に入っていかないのだ。
「あの、この柱を作ってるエリア……御柱方の管轄は、どうしてチェックしないんですか? 監視の循環から外されてるんですが」
「えっ……?」
鳳は珍しく、キョトンとした顔で誠を見た。
「そっ、それは……柱の傍に他の者を立ち入らせないためです。最重要事項のため、外部との接触を徹底的に遮断して……」
鳳は戸惑いながらも、自らを納得させるように説明を続ける。
「そ、そもそも彼らは、千年以上前に全神連に入った古参で、前回の柱の架け替えも補助しております。配偶者も全神連が選びますが、子が出来れば壁の内部に引き取られ、そこでお役目を果たします。お役目を終えた後も指導にあたり、壁の中で一生を終えるのです。遺体も術で滅却し、まさに命の全てを捧げていると言ってよく、全神連でも尊敬を……」
誠はそこでたまらず遮った。
「そ、それは立派ですけど、でもチェックされてないんですね?」
「しては……おりませんが……」
鳳は困ったように目線を泳がせる。
「し、しかし……彼らは魔ではないのです。寿命も人と同じですし、邪気も一切ありません。そもそも千年外に出ていないのですから」
「千年以上生きて狙ってる魔族がいるのに? 数千年前の神と魔の戦いが続いてるのに、たった千年前の約束事が、一族の悲願として残っててもおかしくないんじゃないでしょうか」
「………………」
鳳はとうとう黙ってしまった。
口元に握り拳を当て、しばし考え込んでいたが、やがて恐る恐る口を開いた。
「そう言えば……1つ気になる事が。最近、御柱方によく似た男が外の世界にいたのです。御柱方の中心人物、有待家の当主に似ており……しかし何もおかしな気配が無く。連絡したところ、当主もきちんと『中』におりました。単なる空似だと放置されたのですが……」
「それはいつ頃ですか」
「丁度第5船団がクーデターを受けた日です。発見されたのは、高縄半島の避難区で……黒鷹様の守っていた基地の近くですが」
「……変な気配が無いって事でしたよね? だったら、ヒメ子も気付かない……?」
「えっ……?」
「当時ヒメ子が、突然変な敵に襲われたんです。その後さらわれたんですけど、何の邪気も感じなかったって言ってました。あの時ヒメ子は俺のせいで落ち込んでたんで、そのせいかとは思ったんですけど……」
言葉にすると、誠の中で急激に思考が繋がってきた。
以前から感じていた微かな違和感が、今になって確信に近いものへ変わってきたのだ。
「もしヒメ子ですら気付かない……全神連の誰も感じ取れない魔族がいたら、どこでも入り込めますよね。邪気を発しない、寿命すら人と同じ一族を作り出してたとしたら。全神連と接触して実験しながら、感知されにくい者だけを選りすぐって結婚させて、その性質を高めていったら、誰も見分けられなくなります」
「じ、人工的にそうした者を作り出したというのですか? それではどれだけの犠牲が発生するか……何人が全神連に倒されてきたか」
「そのぐらいの執念がある相手だと思います。特に、あの土蜘蛛と夜祖大神とやらは」
誠は自信をもって答えた。
あの夜祖の配下であれば、それぐらいの事は平気でやる。
能登半島でさんざんに振り回され、大敗した経験から、誠はそう確信したのだ。
「それにカノンの記憶とリンクした時、鬼が人と子を為した事例があるみたいでした。だったら時々人と血を混ぜれば、もっと分かりにくくなりますよね。全神連でも見分けられない……心だけが魔族の存在が生まれるかも」
「心だけが……魔族」
「千年間、1度たりとも邪神と連絡を取らず、怪しい行動も一切しない。千年後に約束が果たされると信じて、夜祖への忠義を貫いてきた。第5船団で発見されたのは、その一族を作る途中で生まれた、分家筋みたいな存在じゃないでしょうか。だから顔が似てたんだ」
「そ、そんな……そのような事が」
鳳の声は震えていたが、誠は尚も言葉を続ける。
「もしかしたら、敵は最初から割り切ってたんじゃないでしょうか。強固な封印の網や、変化し続ける柱を壊すのは不可能。だったらそれを作る側に回ってしまえと。前回は補助に徹して構造を学び、自分達がメインの作り手になる番を待っていたのでは。そして今は絶好のチャンスですよね。あの手この手で敗北を演じて、こっちが勝ったと思い込んでるわけですから」
「…………っ!!!」
事の重大さに気付き、鳳は青ざめていた。
今にも泣きそうな目で誠を見つめ、何か言いたげに、何度も口を動かしている。
「い、いや、まだ想像ですよ? そうと決まったわけじゃないんで」
「確かめましょう、こちらへ!」
鳳は身を翻すと、風のように駆け出した。
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