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第五章その7 ~その柱待った!~ 魔族のスパイ撃退編
なんであんな事言っちゃったんでしょう
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鳳の背後で、強い光が輝いた。
黒鷹様が魔法陣に飛び込み、この場から立ち去られた証だ。
(良かった、ちゃんとあの方を守れた……)
ともすれば遠退きそうな意識で、鳳はようやく安堵した。
まだこの先にも試練はあるはず。けれどあの方なら、きっと何とかして下さるだろう。
しかしそんな安堵の一方、別方面の不安が芽生える。
黒鷹様がいなくなった事で、急に心の一部が冷静になったのだ。
(……でっ、でも私、一体何を口走ったんでしょう……??)
思い出すと、一気に顔が熱くなってくる。
『あなたに会えて、幸せでした』
『あなたのためなら、平気です』
これだけでも恥ずかしいのに、トドメに『愛しい方!』と叫んでしまった。
「~~~っっっ!!!」
思い出すだけで飛び上がりそうになり、鳳はぶんぶん首を振った。
修行と任務ばかりの日々で、恋愛経験など皆無だったから、感極まってとんでもない事を言ってしまったのだ。
(ひ、姫様とのお別れに苦しみっ、日の本のため奔走している黒鷹様に、あんな事を言うなんてっ……!!!)
分かっていた事だが、つくづく馬鹿な自分である。いくら厳しい修行をしても、根本的な所で何も変われていなかったのだ。
(やっぱり私だ……結局、最後まで駄目駄目でしたね……)
少しおかしくなって、鳳は独りでに笑みを浮かべた。
そんな挙動不審な鳳を警戒していたのだろうか。
懲罰方の比良坂が、たまりかねて口を開いた。
「……何を……狙っているかは知らんが、百面相で惑わせても無駄だ。この先にも配下がいるし、捨て身の策が通じるかどうか、貴様なら分かるはずだ」
彼の言と同時に、巡刃と千鏡もゆっくりと間を詰める。
(策なんてありません。元より差がある相手、私ごとき簡単に殺せるでしょう)
ただし、それでも逃げるつもりは毛頭ない。
「……そこをどけ。今なら命までは取らん」
比良坂はそう言って一歩足を進めるが、鳳は必死に太刀を構えた。
「行かせません!」
「……どけと言っている」
「なりませんっ! 黒鷹様の門出ですっ、命に代えても、この道だけは行かせませんっ!」
「……ならば死ね、出来損ないの姉妹の片割れ」
比良坂がそこまで言うのと、鳳の体に衝撃が走るのが同時だった。
目をやると、先程こちらの足を捕らえたのと同じ土の手が、鳳の首を掴んでいるのだ。
いや、首だけでなく、腕も足も髪も胴も。全身あらゆる場所に絡みつく無数の手は、凄まじい力で締め上げてくる。
瞬き程の刹那の出来事であり、反応すら出来なかった。まさかここまで差があるとは……!
(黒鷹……さま……)
薄れゆく意識で、鳳は彼の姿を思い浮かべた。
だが今にもその視界が闇に沈もうとした時。
唐突に、我が身を縛る力は消え失せたのだ。
「…………っ? ……っ、……っ!」
つんのめり、荒い呼吸で膝をつく鳳だったが、そこで聞き慣れた声が響いた。
「よく頑張ったな。いい根性だぜ飛鳥?」
「……っ!?」
はっとして振り返ると、そこに3人の姿があった。
1人はボサボサの短髪で、濃紺の作務衣をまとう中年男性。つまりは高山。
1人は鳩羽色の着物を着た、気の強そうな大人の女性。名は勝子。
最後の1人はやや小柄で、全身白い着物姿だ。
長く伸ばした白髪は幻想的で、ずっと微笑んでいるように目を細めている。彼女は因幡。
つまり鳳の所属する全神連の西国本部……その筆頭を務める3人だった。
「筆頭! お、お三方とも……!」
喉を押さえて呟く鳳を、因幡が優しく労わってくれる。頭をそっと撫でながら、
「ほんと、よく耐えたわね飛鳥ちゃん。後は私達に任せて頂戴」
勝子も腕組みしたまま進み出た。
「……で、懲罰方のあんたら。西国本部の可愛い飛鳥ちゃんに、何してくれてんのさ」
黒鷹様が魔法陣に飛び込み、この場から立ち去られた証だ。
(良かった、ちゃんとあの方を守れた……)
ともすれば遠退きそうな意識で、鳳はようやく安堵した。
まだこの先にも試練はあるはず。けれどあの方なら、きっと何とかして下さるだろう。
しかしそんな安堵の一方、別方面の不安が芽生える。
黒鷹様がいなくなった事で、急に心の一部が冷静になったのだ。
(……でっ、でも私、一体何を口走ったんでしょう……??)
思い出すと、一気に顔が熱くなってくる。
『あなたに会えて、幸せでした』
『あなたのためなら、平気です』
これだけでも恥ずかしいのに、トドメに『愛しい方!』と叫んでしまった。
「~~~っっっ!!!」
思い出すだけで飛び上がりそうになり、鳳はぶんぶん首を振った。
修行と任務ばかりの日々で、恋愛経験など皆無だったから、感極まってとんでもない事を言ってしまったのだ。
(ひ、姫様とのお別れに苦しみっ、日の本のため奔走している黒鷹様に、あんな事を言うなんてっ……!!!)
分かっていた事だが、つくづく馬鹿な自分である。いくら厳しい修行をしても、根本的な所で何も変われていなかったのだ。
(やっぱり私だ……結局、最後まで駄目駄目でしたね……)
少しおかしくなって、鳳は独りでに笑みを浮かべた。
そんな挙動不審な鳳を警戒していたのだろうか。
懲罰方の比良坂が、たまりかねて口を開いた。
「……何を……狙っているかは知らんが、百面相で惑わせても無駄だ。この先にも配下がいるし、捨て身の策が通じるかどうか、貴様なら分かるはずだ」
彼の言と同時に、巡刃と千鏡もゆっくりと間を詰める。
(策なんてありません。元より差がある相手、私ごとき簡単に殺せるでしょう)
ただし、それでも逃げるつもりは毛頭ない。
「……そこをどけ。今なら命までは取らん」
比良坂はそう言って一歩足を進めるが、鳳は必死に太刀を構えた。
「行かせません!」
「……どけと言っている」
「なりませんっ! 黒鷹様の門出ですっ、命に代えても、この道だけは行かせませんっ!」
「……ならば死ね、出来損ないの姉妹の片割れ」
比良坂がそこまで言うのと、鳳の体に衝撃が走るのが同時だった。
目をやると、先程こちらの足を捕らえたのと同じ土の手が、鳳の首を掴んでいるのだ。
いや、首だけでなく、腕も足も髪も胴も。全身あらゆる場所に絡みつく無数の手は、凄まじい力で締め上げてくる。
瞬き程の刹那の出来事であり、反応すら出来なかった。まさかここまで差があるとは……!
(黒鷹……さま……)
薄れゆく意識で、鳳は彼の姿を思い浮かべた。
だが今にもその視界が闇に沈もうとした時。
唐突に、我が身を縛る力は消え失せたのだ。
「…………っ? ……っ、……っ!」
つんのめり、荒い呼吸で膝をつく鳳だったが、そこで聞き慣れた声が響いた。
「よく頑張ったな。いい根性だぜ飛鳥?」
「……っ!?」
はっとして振り返ると、そこに3人の姿があった。
1人はボサボサの短髪で、濃紺の作務衣をまとう中年男性。つまりは高山。
1人は鳩羽色の着物を着た、気の強そうな大人の女性。名は勝子。
最後の1人はやや小柄で、全身白い着物姿だ。
長く伸ばした白髪は幻想的で、ずっと微笑んでいるように目を細めている。彼女は因幡。
つまり鳳の所属する全神連の西国本部……その筆頭を務める3人だった。
「筆頭! お、お三方とも……!」
喉を押さえて呟く鳳を、因幡が優しく労わってくれる。頭をそっと撫でながら、
「ほんと、よく耐えたわね飛鳥ちゃん。後は私達に任せて頂戴」
勝子も腕組みしたまま進み出た。
「……で、懲罰方のあんたら。西国本部の可愛い飛鳥ちゃんに、何してくれてんのさ」
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