新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
78 / 117
第五章その7 ~その柱待った!~ 魔族のスパイ撃退編

なんであんな事言っちゃったんでしょう

しおりを挟む
 鳳の背後で、強い光が輝いた。

 黒鷹様が魔法陣に飛び込み、この場から立ち去られた証だ。

(良かった、ちゃんとあの方を守れた……)

 ともすれば遠退きそうな意識で、鳳はようやく安堵した。

 まだこの先にも試練はあるはず。けれどあの方なら、きっと何とかして下さるだろう。

 しかしそんな安堵の一方、別方面の不安が芽生える。

 黒鷹様がいなくなった事で、急に心の一部が冷静になったのだ。

(……でっ、でも私、一体何を口走ったんでしょう……??)

 思い出すと、一気に顔が熱くなってくる。

『あなたに会えて、幸せでした』

『あなたのためなら、平気です』

 これだけでも恥ずかしいのに、トドメに『愛しい方!』と叫んでしまった。

「~~~っっっ!!!」

 思い出すだけで飛び上がりそうになり、鳳はぶんぶん首を振った。

 修行と任務ばかりの日々で、恋愛経験など皆無だったから、感極まってとんでもない事を言ってしまったのだ。

(ひ、姫様とのお別れに苦しみっ、日の本のため奔走している黒鷹様に、あんな事を言うなんてっ……!!!)

 分かっていた事だが、つくづく馬鹿な自分である。いくら厳しい修行をしても、根本的な所で何も変われていなかったのだ。

(やっぱり私だ……結局、最後まで駄目駄目でしたね……)

 少しおかしくなって、鳳は独りでに笑みを浮かべた。

 そんな挙動不審な鳳を警戒していたのだろうか。

 懲罰方の比良坂ひらさかが、たまりかねて口を開いた。

「……何を……狙っているかは知らんが、百面相で惑わせても無駄だ。この先にも配下がいるし、捨て身の策が通じるかどうか、貴様なら分かるはずだ」

 彼の言と同時に、巡刃めぐりば千鏡ちかがみもゆっくりと間を詰める。

(策なんてありません。元より差がある相手、私ごとき簡単に殺せるでしょう)

 ただし、それでも逃げるつもりは毛頭ない。

「……そこをどけ。今なら命までは取らん」

 比良坂ひらさかはそう言って一歩足を進めるが、鳳は必死に太刀を構えた。

「行かせません!」

「……どけと言っている」

「なりませんっ! 黒鷹様の門出ですっ、命に代えても、この道だけは行かせませんっ!」

「……ならば死ね、出来損ないの姉妹の片割れ」

 比良坂ひらさかがそこまで言うのと、鳳の体に衝撃が走るのが同時だった。

 目をやると、先程こちらの足を捕らえたのと同じ土の手が、鳳の首を掴んでいるのだ。

 いや、首だけでなく、腕も足も髪も胴も。全身あらゆる場所に絡みつく無数の手は、凄まじい力で締め上げてくる。

 瞬き程の刹那の出来事であり、反応すら出来なかった。まさかここまで差があるとは……!

(黒鷹……さま……)

 薄れゆく意識で、鳳は彼の姿を思い浮かべた。

 だが今にもその視界が闇に沈もうとした時。

 唐突に、我が身を縛る力は消え失せたのだ。

「…………っ? ……っ、……っ!」

 つんのめり、荒い呼吸で膝をつく鳳だったが、そこで聞き慣れた声が響いた。

「よく頑張ったな。いい根性だぜ飛鳥?」

「……っ!?」

 はっとして振り返ると、そこに3人の姿があった。

 1人はボサボサの短髪で、濃紺の作務衣さむえをまとう中年男性。つまりは高山たかやま

 1人は鳩羽色はとばいろの着物を着た、気の強そうな大人の女性。名は勝子かつこ

 最後の1人はやや小柄で、全身白い着物姿だ。

 長く伸ばした白髪は幻想的で、ずっと微笑んでいるように目を細めている。彼女は因幡いなば

 つまり鳳の所属する全神連の西国本部……その筆頭を務める3人だった。

「筆頭! お、お三方とも……!」

 喉を押さえて呟く鳳を、因幡が優しく労わってくれる。頭をそっと撫でながら、

「ほんと、よく耐えたわね飛鳥ちゃん。後は私達に任せて頂戴」

 勝子も腕組みしたまま進み出た。

「……で、懲罰方のあんたら。西国本部うちの可愛い飛鳥ちゃんに、何してくれてんのさ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...