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第五章その8 ~邪神が出ちゃう!~ 大地の封印防衛編

神雷・発射準備

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「最早……ここまでですな」

 霊力で柱を抑え続けていた永津彦は、厳しい表情で呟いた。

 勘のいい佐久夜姫は、その態度から並々ならぬ覚悟を感じ取る。

「永津彦殿? まさかそれは……」

 永津彦は真っ直ぐに佐久夜姫を見て答える。

「お察しの通り。神雷を……天津穂之光矢あまつほのひかりやを放ちます。他に手はありますまい」

「……相手は黄泉の軍勢。仕方がありませんね」

「それでは」

 永津彦は頷くと、虚空に映像を映し出した。

 そこに現れたうてなに、彼は素早く指示を送る。

「聞こえたか台、光矢ひかりやの用意だ。黄泉の骸を撃ち滅ぼせ……!」

「りょっ、了解いたしました!! 皆、神雷に備えよ!!!」

 台は一礼すると、配下達に指示を伝えた。



 本部はにわかに騒がしくなった。

 数千年に渡り力を蓄えてきた神雷が、とうとう発射準備に入ったのだ。

 生まれては消える無数の龍のような雷は、襲いかかる相手を求めて牙を剥き出している。

 その輝きは雷の御業わざ。日本最強の武神たる鹿島かしま大明神こと、建御雷神タケミカヅチノカミの加護である。

 その牙は至高のつるぎ。剣神であり、建御雷タケミカヅチと並び称される武神、香取かとり大明神こと経津主神フツヌシノカミの加護だ。

 日本が誇る2大武神の力に加え、龍神の特性まで併せ持つ神雷に攻撃されれば、いかな黄泉の軍勢と言えど壊滅的な被害を受けるだろう。

 神雷の周囲には、数十人の選び抜かれた霊能力者が円形に座り、目を閉じて意識を集中させていた。

 彼らが唱える祝詞のりとが木霊し、神雷はますますその輝きを強めていく。



 一方その頃、土蜘蛛達の隠れ里。

 拝殿奥に座したまま、夜祖大神は呟いた。

「……ふふ、手に取るように分かるぞ。そろそろ神雷を動かすのであろう?」

 夜祖は爛々らんらんと燃えるような目を見開いて笑みを浮かべた。

 口元には牙が覗き、夜祖には珍しく興奮した様子である。

「長い雌伏の時間ときであったが……これで終わりだ。愚かな神とその信徒どもは、自らの希望の杖で砕かれるのだ……!」

「大神様のおっしゃる通りでございます」

 夜祖の前に座す土蜘蛛達……その先頭の笹鐘は、そう言ってうやうやしく頭を下げる。

 夜祖は引き裂くように顔を歪め、くつくつと笑った。人と言うより、獣に近い巨大な口だ。

 あの涼やかな青年然とした雰囲気は影を潜め、邪神そのものの狂気がそこにあった。

 残虐無比な破壊神、狂気と激情の権化。これこそが本来の夜祖であろう。

 そうした全ての感情を抑え、目標達成のために冷静を装ってきたのである。千年もの長きに渡り、ただ一族が悲願のためにだ。

 夜祖は上機嫌で笹鐘に言った。

「全て思い通りだが、出来れば『あれ』もぜひ欲しい。可愛い子孫達おまえたちのため、手駒こまは多い方がいいからな」

「ありがとうございます。纏葉まとは達が仕上げに向かっており、もうじき魔道に堕ちるはずです」

「ぐ、ぐはは、ぐはははははははっっっ!!!!!」

 笹鐘の言葉に、夜祖は社が割れんばかりの声で笑う。

 そんな夜祖をよそに、土蜘蛛の隠れ里は光を帯びていった。

 あちこちにそびえる柱が輝きを増し、大地に光の模様が現れる。

 人間達は知るよしも無かったが、この里全体が、巨大な電磁アンテナの役目を果たすのだ。
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