115 / 117
~エピローグ~ 終わる世界
女神様とさよなら
しおりを挟む
背を壁にもたせかけ、動けなくなった岩凪姫。
そんな女神に寄り添い、鶴はなんとか呟いた。
「な、ナギっぺ…………!」
こらえ切れず大粒の涙が溢れ、声は小刻みに震えている。
岩凪姫はうっすらと目を開け、弱々しく微笑んだ。
「鶴か……皆も、良く来てくれたな。こんなに人が詣でるのは……何千年ぶりだろう」
鶴はもうたまらなくなって、女神にしがみついて泣いた。
「ナギっぺ、遅くなってご免なさい……! ご免なさいっ……!」
鶴はそれ以上言葉が出ない。
……いや、鶴だけではない。
誠もコマも、難波もカノンも、宮島も香川も。皆がかける言葉を失っていた。
あの無敵に思えた女神の最後に、いつの日も支えてくれた母のような存在との別れに、どうしていいか分からないのだ。
「……気にしないでいいよ、お前のせいではないのだから。お前は、立派な神人だし…………私の自慢の娘だよ……?」
女神は鶴の頭を優しく撫でるが、そこで苦しげに身を震わせた。
「うっ……!」
全身に細波のように光が走り、終わりの時が近い事を示していた。
「そろそろ時間がない……これからの事を話すから、よくお聞き」
女神は鶴を、そしてその場の一同を順繰りに見渡す。
「これから日の本には、恐ろしい事が起こるだろう。幾多の邪神が蘇り、かつてない苦難が訪れる。それでも約束しておくれ。何があっても、決して望みを捨てないと。最後の最後まで生き延びて、きっと幸せを掴むのだ……」
「………………そのぐらい、分かってるわ……!」
鶴は涙声で答えた。
無理やりに笑顔を作り、女神の手をぎゅっと握る。
「……まったく、この鶴ちゃんを誰だと思ってるの……? 甘く見たら困るんだから……!」
「そうか……そうだったな」
鶴の一世一代の強がりに、岩凪姫は微笑んだ。
女神はそれから片手を上げ、鶴の胸にそっと当てた。
手には白い光が宿り、それは鶴の体を包み込んだ。
「な、ナギっぺ……?」
「私の残された霊力を……まだ使える部分を鶴に託す。それで少しは……戦えるだろう」
鶴は慌てて首を振る。
「だっ駄目よ、それじゃナギっぺが……!」
「……もう駄目だ。魂が……砕けるからな」
岩凪姫も首を振った。
「残りは……皆に分け与える。少しでも、お前達を守れるように……」
光の細波は、何度も女神の肌を駆け巡った。
段々早く、段々激しく。
それと同時に、女神の姿そのものも、少しずつ色を失っていった。
「ナギっぺ!!!!!」
鶴は再び女神にしがみつく。もう何も言えず、ただすがりついて泣くだけだった。
泣きじゃくる鶴の頬を、女神は最後に指でつついた。
「……ふふ、私の勝ちだ。とうとう、泣かせてやったな……」
微笑む女神は、白い光に姿を変えた。
光は大きく膨張し、やがて弾ける。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あたかも光の洪水であった。
無数の白い蛍火が、吹雪のように飛び交って、やがて天から降り注いでくる。
それは女神の魂の欠片である。
1つ1つはとても小さい。
けれど光は懸命に宙を舞い、人々の元に駆けつけた。
この災禍に怯えるどんな小さな命にも、光は寄り添い、彼らの体に吸い込まれていったのだ。
立ち尽くす誠達の周囲にも、幾つかの光が舞い踊る。
『泣くな。私はここにいるのだから』
そんなふうに言うかのようだ。
「……………………………………」
鶴は無言で座り込んでいた。
彼女の視線の先には、小さな肌守りが落ちていた。
鶴は震える手を伸ばし、そっとそれを手に取った。
もう離さぬように握り締め、胸に強く抱いたのだ。
そんな女神に寄り添い、鶴はなんとか呟いた。
「な、ナギっぺ…………!」
こらえ切れず大粒の涙が溢れ、声は小刻みに震えている。
岩凪姫はうっすらと目を開け、弱々しく微笑んだ。
「鶴か……皆も、良く来てくれたな。こんなに人が詣でるのは……何千年ぶりだろう」
鶴はもうたまらなくなって、女神にしがみついて泣いた。
「ナギっぺ、遅くなってご免なさい……! ご免なさいっ……!」
鶴はそれ以上言葉が出ない。
……いや、鶴だけではない。
誠もコマも、難波もカノンも、宮島も香川も。皆がかける言葉を失っていた。
あの無敵に思えた女神の最後に、いつの日も支えてくれた母のような存在との別れに、どうしていいか分からないのだ。
「……気にしないでいいよ、お前のせいではないのだから。お前は、立派な神人だし…………私の自慢の娘だよ……?」
女神は鶴の頭を優しく撫でるが、そこで苦しげに身を震わせた。
「うっ……!」
全身に細波のように光が走り、終わりの時が近い事を示していた。
「そろそろ時間がない……これからの事を話すから、よくお聞き」
女神は鶴を、そしてその場の一同を順繰りに見渡す。
「これから日の本には、恐ろしい事が起こるだろう。幾多の邪神が蘇り、かつてない苦難が訪れる。それでも約束しておくれ。何があっても、決して望みを捨てないと。最後の最後まで生き延びて、きっと幸せを掴むのだ……」
「………………そのぐらい、分かってるわ……!」
鶴は涙声で答えた。
無理やりに笑顔を作り、女神の手をぎゅっと握る。
「……まったく、この鶴ちゃんを誰だと思ってるの……? 甘く見たら困るんだから……!」
「そうか……そうだったな」
鶴の一世一代の強がりに、岩凪姫は微笑んだ。
女神はそれから片手を上げ、鶴の胸にそっと当てた。
手には白い光が宿り、それは鶴の体を包み込んだ。
「な、ナギっぺ……?」
「私の残された霊力を……まだ使える部分を鶴に託す。それで少しは……戦えるだろう」
鶴は慌てて首を振る。
「だっ駄目よ、それじゃナギっぺが……!」
「……もう駄目だ。魂が……砕けるからな」
岩凪姫も首を振った。
「残りは……皆に分け与える。少しでも、お前達を守れるように……」
光の細波は、何度も女神の肌を駆け巡った。
段々早く、段々激しく。
それと同時に、女神の姿そのものも、少しずつ色を失っていった。
「ナギっぺ!!!!!」
鶴は再び女神にしがみつく。もう何も言えず、ただすがりついて泣くだけだった。
泣きじゃくる鶴の頬を、女神は最後に指でつついた。
「……ふふ、私の勝ちだ。とうとう、泣かせてやったな……」
微笑む女神は、白い光に姿を変えた。
光は大きく膨張し、やがて弾ける。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あたかも光の洪水であった。
無数の白い蛍火が、吹雪のように飛び交って、やがて天から降り注いでくる。
それは女神の魂の欠片である。
1つ1つはとても小さい。
けれど光は懸命に宙を舞い、人々の元に駆けつけた。
この災禍に怯えるどんな小さな命にも、光は寄り添い、彼らの体に吸い込まれていったのだ。
立ち尽くす誠達の周囲にも、幾つかの光が舞い踊る。
『泣くな。私はここにいるのだから』
そんなふうに言うかのようだ。
「……………………………………」
鶴は無言で座り込んでいた。
彼女の視線の先には、小さな肌守りが落ちていた。
鶴は震える手を伸ばし、そっとそれを手に取った。
もう離さぬように握り締め、胸に強く抱いたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる