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第五章その10 ~何としても私が!~ 岩凪姫の死闘編

そこをどけ、不是!

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「お前っ、そこをどけって言ってるだろうがっ!!!」

 機体を操り、誠は不是に斬りかかる。

 だが不是は易々と攻撃それさばいた。

「どいて欲しけりゃ本気で来いよ! それともそれが全力か!?」

「くそっ……!!!」

 誠は歯噛みした。

 体力は本調子には程遠い。

 それでも並のパイロットには引けを取らないだろうが、目の前の不是には一太刀も浴びせる事が出来ないのだ。

「あんた達っ、いい加減どきなさいよっ!!!」

 画面上でカノンが叫んだ。

 先の戦いで圧倒された不是の配下が相手だったが、カノン達は善戦している。

「前とは違うぜ! こっちの機体も、添加機ガン積みしてんだかんなっ!」

 宮島の言葉通り、機体の各部には増設された属性添加機が見えた。

 突貫工事の追加装備であり、その分バランスの悪くなった機体を、歴戦の隊員達は巧みに操っていた。

 皆の心は1つである。この場を切り抜け、一刻も早く女神の元に行きたいのだ。

 だがそんな誠達をあざ笑うように、不是達の機体は行く手を阻むのだ。

 焦りが最高潮に達する誠達だったが、そこで事態は急変した。

「……何だ、笹鐘か?」

 不意に不是の機体が周囲を見渡した。

 前回同様、開きっぱなしの外部拡声器スピーカーから、敵方の会話が聞こえてくる。

『……戻れ不是よ。いつまでも興じるな』

 北陸で聞いたのと同じ、あの魔族の男の声である。

『闇の神人・鳳天音が撤退した。貴様も戻れ』

「ちっ、今いいとこなのによ……!」

 不是は忌々しげに答える。

「そう言うお前は、随分機嫌良さそうじゃねえか」

『既に事は達成した。ようやく千年の悲願が叶う。我々の完全勝利だ……!』

 男はそれだけ言うと、通信を終えたようだ。

 不是は機体をこちらに向けると、外部拡声器スピーカーで語りかける。

「そう言うわけだ、出来損ない。てめえをブッ殺すのは、またの機会にとっといてやるぜ」

 次の瞬間、不是の機体は黒いオーラに包まれると、猛烈な勢いで飛び去った。

 配下の機体もその後を追う。

 誠達は一瞬あっけに取られていたが、迷っている時間はない。

 機体を加速させ、全力で女神の元へ駆けつけたのだ。
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