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第四章その1 ~大ピンチ!?~ 無敵の魔王と堕ちた聖者編
時忘れの秘宝
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降り注ぐ豪雨と、湧き上がる赤い溶岩。
ひび割れた大地は熱せられ、また雨に冷やされ、もうもうと色濃い蒸気を吹き上げている。
そんな中、魔王ディアヌスの巨体はそそり立っていた。
あたかもこの世の地獄のような光景だったが、魔王の目は、今は虚空を見上げていた。
やがて暗雲の中から、2つの光の玉が降りてくる。直径は3メートル程だろうか。
ゆっくりと、魔王の前後に降りてきたその光は、地上100メートル程の高さで静止した。
光の中には、それぞれ女神が立っている。
魔王の正面には、長い黒髪を伸ばし、切れ長の目が凛々しい長身の女神・岩凪姫。
そして魔王の後ろには、同じく黒髪を伸ばした麗しい女神。髪には桜の花枝を挿しており、富士山は浅間神社の祭神・木花佐久夜姫である。
普段は優しい表情の佐久夜姫も、今は厳しい顔で魔王の背中を見据えている。
「……大山積の姫神どもか」
魔王が咆えるような轟音で尋ねると、岩凪姫が答えた。
「いかにも、お初にお目にかかる。だが大蛇よ、いささか蛮勇が過ぎるのではないか……?」
「何が言いたい」
魔王が言うと、岩凪姫は語気に力を込める。
「大人気ないと言いたいのだ……! 私の可愛い弟子達を、随分可愛がってくれたではないか……!!!」
岩凪姫は眉間にしわを寄せ、真っ向から魔王の目を見据えた。
「仇討ちか、面白い」
魔王は嘲笑うように言った。
「ならばかかって来い。霊体しか持たぬ貴様らが、創世の力で受肉した我を倒せるかどうか……!」
刀を持つ魔王の腕が剛力できしみ、圧倒的な量の邪気が立ち昇り始める。
だが岩凪姫は動じなかった。
「高千穂の竜芽細胞か。確かにお主が受肉するには、あれでなくては駄目だったろうな。おかげでこちらも苦労する……」
そこまで言うと、岩凪姫は胸の前で手を合わせた。
「……神代に名高い暴虐の龍よ。力では止まるまい」
魔王の背後に浮かぶ佐久夜姫も、姉神と同様に手を合わせて言った。
「……そう、力ではね。だからしばらくお眠りなさい」
「眠るだと……?」
訝しげな魔王に、岩凪姫はなおも言う。
「……そうだ、喜べ。高天原の至高の神器で、貴様の時を遅らせる」
やがて岩凪姫の周囲に、白い光が無数に浮かんだ。
いや、彼女の付近だけではない。辺り一帯に、無数の光が飛び交っていたのだ。
まるで夏の日の蛍火が、大挙して空に舞っているかのようだ。
それらは魔王を球状に取り囲むと、まるでプラネタリウムのように、ゆっくりと回転し始める。
女神達が意識を集中すると、光の玉の回転は、どんどん速くなっていった。
「くそっ、時忘れの秘宝か……!!!」
気付いた魔王が大地を蹴立てた。
凄まじい力で刀をもたげ、岩凪姫に振り下ろすが、その動作は途中から急激に遅くなっていった。
白い光が無数に舞って、魔王の刀を、そして全身を、少しずつ覆い隠していく。
「おのれ貴様ら、いつもいつも卑怯な……手……を……!!」
魔王は憤怒の目で女神を睨む。
赤く酸漿のように血走った双眸だったが、その目も白い光に覆われていく。
光はどんどん輝きを増し、合体して光の半球となった。
魔王ごと、辺り一帯を覆いつくした光のドームは、その表面に複雑な文字を浮かび上がらせた。
文字は帯のように長く連なり、縦にも横にも斜めにも、光の半球を縛るように覆っている。神代文字による封印の環である。
閉じ込められた魔王が暴れているのか、白い半球は脈動するように明滅し、文字の環も時折大きく蛇行した。
「……何という馬鹿力だ。至高の神器をもってしても、完全には止められぬ」
岩凪姫が言うと、佐久夜姫も頷いた。
「神器の力が凄い勢いで消耗してるわ。この邪気の中だし、もって1日ってとこかしら」
「……上出来だ。仕方があるまい」
岩凪姫は頷いた。
「……四の五の言ってはおられぬ。時が許す限り、出来るだけ手を打たねば…………」
しばし無言になる岩凪姫に、佐久夜姫が近づく。そっと姉の背に手を当て、黙って彼女を労わったのだ。
ひび割れた大地は熱せられ、また雨に冷やされ、もうもうと色濃い蒸気を吹き上げている。
そんな中、魔王ディアヌスの巨体はそそり立っていた。
あたかもこの世の地獄のような光景だったが、魔王の目は、今は虚空を見上げていた。
やがて暗雲の中から、2つの光の玉が降りてくる。直径は3メートル程だろうか。
ゆっくりと、魔王の前後に降りてきたその光は、地上100メートル程の高さで静止した。
光の中には、それぞれ女神が立っている。
魔王の正面には、長い黒髪を伸ばし、切れ長の目が凛々しい長身の女神・岩凪姫。
そして魔王の後ろには、同じく黒髪を伸ばした麗しい女神。髪には桜の花枝を挿しており、富士山は浅間神社の祭神・木花佐久夜姫である。
普段は優しい表情の佐久夜姫も、今は厳しい顔で魔王の背中を見据えている。
「……大山積の姫神どもか」
魔王が咆えるような轟音で尋ねると、岩凪姫が答えた。
「いかにも、お初にお目にかかる。だが大蛇よ、いささか蛮勇が過ぎるのではないか……?」
「何が言いたい」
魔王が言うと、岩凪姫は語気に力を込める。
「大人気ないと言いたいのだ……! 私の可愛い弟子達を、随分可愛がってくれたではないか……!!!」
岩凪姫は眉間にしわを寄せ、真っ向から魔王の目を見据えた。
「仇討ちか、面白い」
魔王は嘲笑うように言った。
「ならばかかって来い。霊体しか持たぬ貴様らが、創世の力で受肉した我を倒せるかどうか……!」
刀を持つ魔王の腕が剛力できしみ、圧倒的な量の邪気が立ち昇り始める。
だが岩凪姫は動じなかった。
「高千穂の竜芽細胞か。確かにお主が受肉するには、あれでなくては駄目だったろうな。おかげでこちらも苦労する……」
そこまで言うと、岩凪姫は胸の前で手を合わせた。
「……神代に名高い暴虐の龍よ。力では止まるまい」
魔王の背後に浮かぶ佐久夜姫も、姉神と同様に手を合わせて言った。
「……そう、力ではね。だからしばらくお眠りなさい」
「眠るだと……?」
訝しげな魔王に、岩凪姫はなおも言う。
「……そうだ、喜べ。高天原の至高の神器で、貴様の時を遅らせる」
やがて岩凪姫の周囲に、白い光が無数に浮かんだ。
いや、彼女の付近だけではない。辺り一帯に、無数の光が飛び交っていたのだ。
まるで夏の日の蛍火が、大挙して空に舞っているかのようだ。
それらは魔王を球状に取り囲むと、まるでプラネタリウムのように、ゆっくりと回転し始める。
女神達が意識を集中すると、光の玉の回転は、どんどん速くなっていった。
「くそっ、時忘れの秘宝か……!!!」
気付いた魔王が大地を蹴立てた。
凄まじい力で刀をもたげ、岩凪姫に振り下ろすが、その動作は途中から急激に遅くなっていった。
白い光が無数に舞って、魔王の刀を、そして全身を、少しずつ覆い隠していく。
「おのれ貴様ら、いつもいつも卑怯な……手……を……!!」
魔王は憤怒の目で女神を睨む。
赤く酸漿のように血走った双眸だったが、その目も白い光に覆われていく。
光はどんどん輝きを増し、合体して光の半球となった。
魔王ごと、辺り一帯を覆いつくした光のドームは、その表面に複雑な文字を浮かび上がらせた。
文字は帯のように長く連なり、縦にも横にも斜めにも、光の半球を縛るように覆っている。神代文字による封印の環である。
閉じ込められた魔王が暴れているのか、白い半球は脈動するように明滅し、文字の環も時折大きく蛇行した。
「……何という馬鹿力だ。至高の神器をもってしても、完全には止められぬ」
岩凪姫が言うと、佐久夜姫も頷いた。
「神器の力が凄い勢いで消耗してるわ。この邪気の中だし、もって1日ってとこかしら」
「……上出来だ。仕方があるまい」
岩凪姫は頷いた。
「……四の五の言ってはおられぬ。時が許す限り、出来るだけ手を打たねば…………」
しばし無言になる岩凪姫に、佐久夜姫が近づく。そっと姉の背に手を当て、黙って彼女を労わったのだ。
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