新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
10 / 110
第四章その1 ~大ピンチ!?~ 無敵の魔王と堕ちた聖者編

時忘れの秘宝

しおりを挟む
 降り注ぐ豪雨と、湧き上がる赤い溶岩。

 ひび割れた大地は熱せられ、また雨に冷やされ、もうもうと色濃い蒸気を吹き上げている。

 そんな中、魔王ディアヌスの巨体はそそり立っていた。

 あたかもこの世の地獄のような光景だったが、魔王の目は、今は虚空を見上げていた。

 やがて暗雲の中から、2つの光の玉が降りてくる。直径は3メートル程だろうか。

 ゆっくりと、魔王の前後に降りてきたその光は、地上100メートル程の高さで静止した。

 光の中には、それぞれ女神が立っている。

 魔王の正面には、長い黒髪を伸ばし、切れ長の目が凛々しい長身の女神・岩凪姫いわなぎひめ

 そして魔王の後ろには、同じく黒髪を伸ばしたうるわしい女神。髪には桜の花枝を挿しており、富士山は浅間神社せんげんじんじゃの祭神・木花佐久夜姫このはなさくやひめである。

 普段は優しい表情の佐久夜姫も、今は厳しい顔で魔王の背中を見据えている。

「……大山積おおやまつみ姫神むすめどもか」

 魔王が咆えるような轟音で尋ねると、岩凪姫が答えた。

「いかにも、お初にお目にかかる。だが大蛇おろちよ、いささか蛮勇が過ぎるのではないか……?」

「何が言いたい」

 魔王が言うと、岩凪姫は語気に力を込める。

大人気おとなげないと言いたいのだ……! 私の可愛い弟子達を、随分可愛がってくれたではないか……!!!」

 岩凪姫は眉間にしわを寄せ、真っ向から魔王の目を見据えた。

仇討あだうちか、面白い」

 魔王は嘲笑うように言った。

「ならばかかって来い。霊体しか持たぬ貴様らが、創世そうせいの力で受肉した我を倒せるかどうか……!」

 刀を持つ魔王の腕が剛力できしみ、圧倒的な量の邪気が立ち昇り始める。

 だが岩凪姫は動じなかった。

高千穂たかちほ竜芽細胞ドラゴンセルか。確かにお主が受肉するには、あれでなくては駄目だったろうな。おかげでこちらも苦労する……」

 そこまで言うと、岩凪姫は胸の前で手を合わせた。

「……神代かみよに名高い暴虐ぼうぎゃくの龍よ。力では止まるまい」

 魔王の背後に浮かぶ佐久夜姫さくやひめも、姉神あねと同様に手を合わせて言った。

「……そう、力ではね。だからしばらくお眠りなさい」

「眠るだと……?」

 いぶかしげな魔王に、岩凪姫はなおも言う。

「……そうだ、喜べ。高天原たかまがはらの至高の神器で、貴様の時を遅らせる」

 やがて岩凪姫の周囲に、白い光が無数に浮かんだ。

 いや、彼女の付近だけではない。辺り一帯に、無数の光が飛び交っていたのだ。

 まるで夏の日の蛍火が、大挙して空に舞っているかのようだ。

 それらは魔王を球状に取り囲むと、まるでプラネタリウムのように、ゆっくりと回転し始める。

 女神達が意識を集中すると、光の玉の回転は、どんどん速くなっていった。

「くそっ、時忘れの秘宝か……!!!」

 気付いた魔王が大地を蹴立てた。

 凄まじい力で刀をもたげ、岩凪姫に振り下ろすが、その動作は途中から急激に遅くなっていった。

 白い光が無数に舞って、魔王の刀を、そして全身を、少しずつ覆い隠していく。

「おのれ貴様ら、いつもいつも卑怯な……手……を……!!」

 魔王は憤怒の目で女神を睨む。

 赤く酸漿ほおずきのように血走った双眸そうぼうだったが、その目も白い光に覆われていく。

 光はどんどん輝きを増し、合体して光の半球ドームとなった。

 魔王ごと、辺り一帯を覆いつくした光のドームは、その表面に複雑な文字を浮かび上がらせた。

 文字は帯のように長く連なり、縦にも横にも斜めにも、光の半球を縛るように覆っている。神代文字しんだいもじによる封印のである。

 閉じ込められた魔王が暴れているのか、白い半球は脈動するように明滅し、文字の環も時折大きく蛇行した。

「……何という馬鹿力だ。至高の神器をもってしても、完全には止められぬ」

 岩凪姫が言うと、佐久夜姫も頷いた。

「神器の力が凄い勢いで消耗してるわ。この邪気の中だし、もって1日ってとこかしら」

「……上出来だ。仕方があるまい」

 岩凪姫は頷いた。

「……四の五の言ってはおられぬ。時が許す限り、出来るだけ手を打たねば…………」

 しばし無言になる岩凪姫に、佐久夜姫が近づく。そっと姉の背に手を当て、黙って彼女を労わったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始
ファンタジー
「俺はただの経理なんだけどな」 ブラック企業の経理マンだった葛城隆司(45歳・独身)。 社内の不正会計を見抜きながらも誰にも評価されず、今日も淡々と帳簿を整理する日々。 そんな彼がある日、突然異世界に転生した。 ――しかし、そこは剣も魔法もない、金と権力がすべての世界だった。 目覚めた先は、王都のスラム街。 財布なし、金なし、スキルなし。 詰んだかと思った矢先、喋る黒猫・モルディと出会う。 「オッサン、ここの経済はめちゃくちゃだぞ?」 試しに商店の帳簿を整理したところ、たった数日で利益が倍増。 経理の力がこの世界では「未知の技術」であることに気づいた葛城は、財務管理サービスを売りに商会を設立し、王都の商人や貴族たちの経済を掌握していく。 しかし、貴族たちの不正を暴き、金の流れを制したことで、 王国を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。 「お前がいなきゃ、この国はもたねえぞ?」 国王に乞われ、王国財務顧問に就任。 貴族派との経済戦争、宰相マクシミリアンとの頭脳戦、 そして戦争すら経済で終結させる驚異の手腕。 ――剣も魔法もいらない。この世を支配するのは、数字だ。 異世界でただ一人、"経理"を武器にのし上がる男の物語が、今始まる!

処理中です...