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第四章その1 ~大ピンチ!?~ 無敵の魔王と堕ちた聖者編
異なる神に仕えた姉妹
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「さあ正体を現せ! 偽りの衣を剥ぎ取ってやろう!」
女の嘲笑うような叫びが、カノンの耳に木霊する。
心臓は早鐘のように胸を叩き、浅く激しい呼吸をする度、焼けるように肺が熱い。
悲鳴すらも出せないまま、カノンはぎゅっと目を閉じた。
勝てない……どうやっても抗えない……!
このまま術を破られれば、二度とあの人に会えなくなってしまうだろう。
こんなにも早く終わりの時が来るなんて、思ってもみなかった。
せめて最後に、今までの非礼を謝りたい。人の姿のままで、あの人に別れを告げたい。
だがカノンの目に涙があふれ、こらえきれずこぼれた時。
急激に圧迫感が消えたかと思うと、女はカノンを解放していた。
「…………っ!」
カノンは俯き、荒い呼吸を繰り返す。
ようやくきちんと吸えた酸素にひと心地ついたが、急激に不安になった。
今の自分は、どんな姿をしているだろう? まだ人の姿を保てているのか?
すぐにでも鏡を見たい衝動を押しとどめ、カノンは恐る恐る顔を上げた。
「…………???」
カノンが女の視線を追うと、そこには長い黒髪をうなじで縛った黒衣の女性が……つまり鳳が立っていた。
足元に魔法陣が輝いている事から、強力な転移の術でも使ったのだろうか。
「……あら飛鳥ちゃん。どうしてここに?」
女は先程とうって変わって、優しい顔でそう言った。
「日の本の一大事ですから。いつまでも呆けたままでいられません」
鳳は答え、虚空から長い刀を取り出した。刃に青い光を宿し、実の姉を真っ向から睨みつける。
「……魔道に堕ち、天に仇為す身内の不始末。鳳一族最後の1人、この鳳飛鳥がつけます……!」
「可愛そうに……飛鳥ちゃんも騙されているのね……?」
鳳の闘志を意にも介さず、女はゆっくりと地に降り立つ。そのまま無造作に妹に近寄った。
鳳は警戒して刀を構えるが、やがて覚悟を決めて前に走った。
凄まじい勢いで繰り出された鳳の連撃を、女は片手で掴み取る。
「くっ……!!」
鳳はなんとか刀を引こうとするが、力の差は歴然だった。
ぱきり、と容易く刀を握り潰すと、女は素早く鳳の右手を、そして顎を掴んだ。
そのまま引き寄せ、目に異様な光を宿らせる。何かの術をかけるつもりだろうか。
「……さあ、可愛い飛鳥ちゃん、あなたも一緒に行きましょう……?」
鳳は目を閉じ、必死に顔を背けるが、それしきであの化け物の術から逃れられるとは思えない。
カノンは必死にレバーを握り、機体を動かそうとするのだったが。
……その時、ふいに女に異変が起きた。
「ぐっ……!!?」
たった今まで圧倒的な暴力を振るっていた闇の神人が、頭に手をやり後ずさったのだ。
女は鳳を解放し、苦しげによろめいた。
「おお……大神様……御身に何が……!?」
それだけ言うと、女は光に包まれ、唐突にその姿を消したのだった。
「…………?」
しばし呆然とするカノンだったが、そこではっと我に返った。
「だっ、だいじょうぶ!? 鳳さん……!」
カノンが必死に声を絞り出すと、鳳も操縦席のこちらを見上げる。
「大丈夫です、望月さん……あっ……!」
鳳はそこで何かに気付いたのか、急いでカノンから目を逸らした。
「……私の事は構いません、少し息を整えて下さい。あなたの方が苦しいでしょう?」
カノンは彼女の言に従い、しばし呼吸を整えた。
(落ち着け、落ち着け……大丈夫、まだこの姿でいられるはず……!)
意識を集中すると、乱れていた鼓動も少しずつ安定してきた。
震える手で手鏡を出すと……何とか姿は保てていたのだ……!
カノンは人型重機を操ると、倒れた味方の様子を調べた。
誠の重機は変化なし。
難波の機体は胴を両断されているが、中の難波は無事だろう。
輸送班も大丈夫だが、問題はあの黒焦げになって転がる操縦席の……宮島と香川の2人である。
「とにかく、今のうちに避難いたしましょう」
だが鳳がそう言った時だった。
カノンの耳に、こちらに向かう幾多の地響きが聞こえたのだ。
さっきのやり取りのせいもあり、聴覚が昔のように鋭くなっていたのかも知れない。
鳳も遅れてそれに気づいたようだ。
「……餓霊どもの軍勢ですね」
鳳は難波を操縦席から助け出しながら、油断なく周囲を見回した。
「恐らく追撃戦の準備をしていたはずです。琵琶湖周辺で戦う事も、その残存兵力を追う事も、最初から想定していたのでしょう」
「……確かに手際が良すぎるわね」
敵のあまりの用意周到さに、カノンは思わず歯噛みした。
負傷者もいるし、輸送車は半壊状態。
隊長も、そして隊員達も負傷したこの状況で、どうすれば生き延びられるのか。
我知らず、ぎゅっと操作レバーを握り締める。
普段より強い力が出たのか、レバーはぎりぎりと軋んでいた。
もはや絶体絶命かと思われたが、そこでふと何かの音が聞こえた。
カノンが目をやると、横手の画面に通信ウィンドウが表示されている。
いつもは正面に表示される通信ウィンドウだったが、前面のパネルがまとめて剥ぎ取られたため、今は横手に表示されているのだ。
『……こちら……隊……聞こえますか?』
邪気のせいでノイズが強いが、間違いなく味方となる存在からの通信だった。
女の嘲笑うような叫びが、カノンの耳に木霊する。
心臓は早鐘のように胸を叩き、浅く激しい呼吸をする度、焼けるように肺が熱い。
悲鳴すらも出せないまま、カノンはぎゅっと目を閉じた。
勝てない……どうやっても抗えない……!
このまま術を破られれば、二度とあの人に会えなくなってしまうだろう。
こんなにも早く終わりの時が来るなんて、思ってもみなかった。
せめて最後に、今までの非礼を謝りたい。人の姿のままで、あの人に別れを告げたい。
だがカノンの目に涙があふれ、こらえきれずこぼれた時。
急激に圧迫感が消えたかと思うと、女はカノンを解放していた。
「…………っ!」
カノンは俯き、荒い呼吸を繰り返す。
ようやくきちんと吸えた酸素にひと心地ついたが、急激に不安になった。
今の自分は、どんな姿をしているだろう? まだ人の姿を保てているのか?
すぐにでも鏡を見たい衝動を押しとどめ、カノンは恐る恐る顔を上げた。
「…………???」
カノンが女の視線を追うと、そこには長い黒髪をうなじで縛った黒衣の女性が……つまり鳳が立っていた。
足元に魔法陣が輝いている事から、強力な転移の術でも使ったのだろうか。
「……あら飛鳥ちゃん。どうしてここに?」
女は先程とうって変わって、優しい顔でそう言った。
「日の本の一大事ですから。いつまでも呆けたままでいられません」
鳳は答え、虚空から長い刀を取り出した。刃に青い光を宿し、実の姉を真っ向から睨みつける。
「……魔道に堕ち、天に仇為す身内の不始末。鳳一族最後の1人、この鳳飛鳥がつけます……!」
「可愛そうに……飛鳥ちゃんも騙されているのね……?」
鳳の闘志を意にも介さず、女はゆっくりと地に降り立つ。そのまま無造作に妹に近寄った。
鳳は警戒して刀を構えるが、やがて覚悟を決めて前に走った。
凄まじい勢いで繰り出された鳳の連撃を、女は片手で掴み取る。
「くっ……!!」
鳳はなんとか刀を引こうとするが、力の差は歴然だった。
ぱきり、と容易く刀を握り潰すと、女は素早く鳳の右手を、そして顎を掴んだ。
そのまま引き寄せ、目に異様な光を宿らせる。何かの術をかけるつもりだろうか。
「……さあ、可愛い飛鳥ちゃん、あなたも一緒に行きましょう……?」
鳳は目を閉じ、必死に顔を背けるが、それしきであの化け物の術から逃れられるとは思えない。
カノンは必死にレバーを握り、機体を動かそうとするのだったが。
……その時、ふいに女に異変が起きた。
「ぐっ……!!?」
たった今まで圧倒的な暴力を振るっていた闇の神人が、頭に手をやり後ずさったのだ。
女は鳳を解放し、苦しげによろめいた。
「おお……大神様……御身に何が……!?」
それだけ言うと、女は光に包まれ、唐突にその姿を消したのだった。
「…………?」
しばし呆然とするカノンだったが、そこではっと我に返った。
「だっ、だいじょうぶ!? 鳳さん……!」
カノンが必死に声を絞り出すと、鳳も操縦席のこちらを見上げる。
「大丈夫です、望月さん……あっ……!」
鳳はそこで何かに気付いたのか、急いでカノンから目を逸らした。
「……私の事は構いません、少し息を整えて下さい。あなたの方が苦しいでしょう?」
カノンは彼女の言に従い、しばし呼吸を整えた。
(落ち着け、落ち着け……大丈夫、まだこの姿でいられるはず……!)
意識を集中すると、乱れていた鼓動も少しずつ安定してきた。
震える手で手鏡を出すと……何とか姿は保てていたのだ……!
カノンは人型重機を操ると、倒れた味方の様子を調べた。
誠の重機は変化なし。
難波の機体は胴を両断されているが、中の難波は無事だろう。
輸送班も大丈夫だが、問題はあの黒焦げになって転がる操縦席の……宮島と香川の2人である。
「とにかく、今のうちに避難いたしましょう」
だが鳳がそう言った時だった。
カノンの耳に、こちらに向かう幾多の地響きが聞こえたのだ。
さっきのやり取りのせいもあり、聴覚が昔のように鋭くなっていたのかも知れない。
鳳も遅れてそれに気づいたようだ。
「……餓霊どもの軍勢ですね」
鳳は難波を操縦席から助け出しながら、油断なく周囲を見回した。
「恐らく追撃戦の準備をしていたはずです。琵琶湖周辺で戦う事も、その残存兵力を追う事も、最初から想定していたのでしょう」
「……確かに手際が良すぎるわね」
敵のあまりの用意周到さに、カノンは思わず歯噛みした。
負傷者もいるし、輸送車は半壊状態。
隊長も、そして隊員達も負傷したこの状況で、どうすれば生き延びられるのか。
我知らず、ぎゅっと操作レバーを握り締める。
普段より強い力が出たのか、レバーはぎりぎりと軋んでいた。
もはや絶体絶命かと思われたが、そこでふと何かの音が聞こえた。
カノンが目をやると、横手の画面に通信ウィンドウが表示されている。
いつもは正面に表示される通信ウィンドウだったが、前面のパネルがまとめて剥ぎ取られたため、今は横手に表示されているのだ。
『……こちら……隊……聞こえますか?』
邪気のせいでノイズが強いが、間違いなく味方となる存在からの通信だった。
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