新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第四章その2 ~大活躍!~ 関東からの助っ人編

つるちゃんの冒険。こっそりと闇の聖者の魂の中で

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 どこまでも広がる、ほの暗い夢幻の世界。

 闇の神人の魂を歩きながら、鶴は無意味に気合を入れた。

「大丈夫、黒鷹ならきっと平気だわ! すぐ会えるから、頑張るのよ鶴!」

 あまりにも辺りが暗いので、自分を励ましてみたのである。

 言ってみると素晴らしいもので、どんどん気分が晴れ晴れとしてくる。

 霊気も心なしか勢いを増して、力がみなぎってくるようだ。

「これはいいわ。気分もいいし、もっと自分を褒めてみましょう。そうよ鶴、私なら出来るわ! この鶴ちゃんが頑張れば、上手くいく事間違いなし! ああ勝った、もう勝ちました。結果が見えてるからやらなくてもいいぐらいよ」

「いや、そこは実際にやろうよ」

 鶴の足元を歩くコマが、たまらずツッコミを入れてくる。

「好きな事を好きな時に、好きなだけ言ってるけどさ。どうやってここから出るか考えてるの?」

「そこは分担しましょうコマ。私は浮かれる方で、コマは考える方。文句無いわね?」

 コマはたまらず鶴の肩に飛び乗ってきた。

「あるよ、売りに行く程あふれてるよ! 大体君は……」

「まあまあ、コマもちょっと休みなさい」

 コマはなおも文句を言うが、鶴は肩からコマを降ろし、抱っこしたまま歩いていく。

 今は子犬ぐらいの大きさなので、小動物を可愛がっているような形になるも、これは鶴の策略だった。

 耳元で文句を言われるより、抱っこして動きを封じ、前を向かせた方がうるさくないからである。

 それを悟らせないよう時折片手でコマを撫でると、コマは段々大人しくなった。

「ふうむ、ここから出る方法ねえ……」

 鶴は困って辺りを見回した。

「迷っちゃうし、せめて地図が使えないかしらね」

道和多志みちわたし大鏡おおかがみかい?」

 コマは言いかけ、そこで気が付いて手足を伸ばした。

「そうか、それだ、道和多志の大鏡だ! あの神器は、鶴の魂に直接組み込まれてるだろ。だから異物とみなされて、同化せずに済んだんじゃないかな」

「確かに、びわに毛虫がくっついてたら食べないものね」

 びわ好きの鶴は適当な理解で納得したが、その時。

 いきなり周囲に、沢山の光の玉が現れたのだ。

 光は大きさも様々で、中には何か記憶映像のようなものが入っている。

「まあ、これはあれだわ。船渡さんと嵐山さんの思い出を見た時と似てるわね」

 鶴はそう思い出したが、コマは懸命に前足を伸ばし、目の前の光の玉に触れた。

 光の玉は触れると大きくなり、中の映像が見えやすくなった。

「すごいぞ鶴、これを見てみなよ」

 鶴が見入ると、映像はあの女を映し出していた。

 目を閉じ、闇の中に浮かぶ女の周囲に、無数の白い光が集まってくる。その全てが聖者の魂であり、彼女の体に入っていくのだ。

「こうしてみると凄い数ね。一体何人分の聖者かしら」

「でも対等に合体してるわけじゃないんだよね」

 コマは鋭い感想を述べた。

「どれだけ沢山宿っても、メインの魂はやっぱりあの女なんだ。他の魂は、それを補助して支えてる。だから時間をかけて、全部の魂で練り込んだ技は強いけど、瞬間的な力はそうでもないんだね」

 コマはもっと色々な光の玉に触れていく。

「感知範囲もすごいな……邪気が濃い場所だと、たぶん範囲は鶴より長いよ。近づけば先に見つかって、遠くから必殺の呪詛を撃ち込んでくるんだ」

「うーん……隙なんて無さそうね。そもそも1対1じゃないんだもの。どうやって倒せばいいのかしら」

「それをこれから探すんだよ」

 コマはどんどん玉に触っていく。

「こっちも凄いぞ。やっぱりあいつ、ディアヌスのエネルギーをもらってるんだ。だとすると、ディアヌスとは霊的に一心同体……一定距離以上離れられないはずさ」

 コマの言う通り、映像は神人が死から復活した場面を映している。

 横たわる神人にディアヌスからエネルギーが送られ、起き上がった彼女は、手の指を組み合わせて崇敬すうけいの念を抱いている。

 映像は更に移り変わり、神人がディアヌスの先に立ち、人の軍勢を薙ぎ払う未来予想図となった。

 彼女は燃え上がる避難区を見下ろして笑い、後から来る巨大な魔王をうやうやしく迎え入れている。

「……こりゃ凄い信仰心だ。ディアヌスの事は滅茶苦茶あがめてるから、魔王にとって危険な相手を排除するつもりなんだね」

「凄いわコマ、いい情報よ」

 鶴は満足して何度も頷いた。

「もっと調べて黒鷹に言えば、きっといい知恵を絞ってくれるわ」

「君も一緒に絞るんだよ。いつもの敵とは違うんだから」

 コマのツッコミをよそに、鶴は上機嫌で辺りを見回した。

 どれも重要そうな情報であったが、漂う光の玉の中に、小さく弱々しいものが見えた。今にも消えそうで、中の映像も琥珀こはく色に色せている。

「あら、この弱そうな玉は何かしら」

「うーん……それも思い出みたいだね」

 だが、鶴が手を伸ばして触ろうとした時だった。

『貴様ら、そこで何をしている……!!!』

 不意にとどろくような声が響いた。

 やがて闇の中から、例の女の姿が浮かび上がってくる。

 長い白銀の髪。巫女装束を染め上げたような黒い衣。

 全身を激しい邪気に包み、狂気と怒りに満ちたその瞳で、鶴とコマをにらみ付けている。

「貴様ら……確かに喰ったはずだぞ……!」

 女が言うと、鶴はすかさず文句を言った。

「もちろん私達もそのつもりだったわ! 話が違うじゃないの!」

「誰目線の文句なんだよっ」

 鶴とコマが揉めていると、女はその目を大きく見開いた。

「そうか、鏡……そして守り鈴……! そんなものが私の中に……腹立たしいっ!!!」

 どうやら鶴が持っていた、女神がくれた鈴の事だろう。

 女が喉を掻きむしると、次の瞬間、鶴とコマは虚空に放り出されていたのだ。

 既に日は暮れかけていたが、眼下に黒々と茂る森を見下ろし、鶴はすかさずガッツポーズをする。

「やったわコマ、全部鶴ちゃんの狙い通りよ!」

「ほんとかなあ」

 辺りを見回すと、彼方には見た事もない白い光の半球ドームが輝き、何かの文字が呪詛となって光を締め付けている。

「時忘れの秘宝だ。中の邪気からして、多分ディアヌスが閉じ込められてるね。と言っても、もうすぐ出てきそうだけど……」

 光の半球のその傍には、あの闇の神人が浮かんでいた。

 彼女の苛立ちを示すかのように、周囲には凄まじい邪気が渦巻いて、時折雷が彼女の四方に発せられていた。

「チャンスだよ鶴。あの調子なら、多分追って来れないよ」

「そうねコマ、今のうちに、ニンジャモードでおさらばしましょう」

 鶴とコマは地上に降り立つと、以前使ったほっかむりを被った。

 それからそそくさとその場を離れる。

「さあ、みんなのところに行かなくちゃ!」
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