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第四章その3 ~ようこそ関東へ!~ くせ者だらけの最強船団編
マッドサイエンティスト・筑波
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程なくしてカノン達の輸送機は、関東へと到着した。
格納庫の外に広がるのは、日本最強と名高い第3船団の、しかも日本で最初の勝利を掴んだ横須賀の避難区である。
港には、洋上にいたはずの旗艦『武蔵』の巨体も見えたし、隣には『小笠原第6管区』と記された船が接岸しており、こちらも武蔵に負けぬ大きさだった。
「……ね、ねえあの船、筑波のおっちゃん着いてるじゃん……小笠原の試験区のやつ」
航空機から降りた途端、ひかるは若干引き気味に埠頭の巨大船を指差した。
「筑波のおっちゃんって誰や?」
難波は遠慮なく尋ねるが、第3船団のパイロット達は、「う~ん」と微妙な表情で押し黙った。
全員が目で押し付け合いをしているので、こういう時だけ隊長の弥太郎が口火を切る。
「……あ、いや、別に嫌な人じゃないんだけどさ。ちょっとというか、だいぶ変わってるというか、要するに変な人……いや、ド変態……存在自体が犯罪者……」
至極丁寧に失礼を重ねる弥太郎だったが、隊員達は腕組みして納得している。
……だがその時、カッと眩い光が照射され、一同を襲った。
「何よこれ……何が始まるの!?」
カノンは思わず手で光を防いだが、次の瞬間、男の怪しい声が投げかけられる。
「ぬわーっはっは! 帰ったな栄光の春日部隊っ、我が可愛いモルモッ……いや、精鋭部隊よ!」
「今、しれっと怖い事言いかけたでしょ!」
海老名が珍しく大きな声で言い返すと、ライトは消え、今度は輸送機の上に光が集まる。
いつの間に機上に登ったのだろう、そこには一人の中年男性が仁王立ちしていた。
やや長身で、上半身は長い白衣、下半身は細身のジーンズ。
ひょろりとした体型だったが、声にも動作にもエネルギーが満ち溢れ、いかにも暑苦しい熱血オヤジという印象である。
彼は全身でスポットライトを浴びつつ、何度もポーズを変えた。ポーズを変える度、どこからかジャーン、ジャジャンと効果音が鳴り響いている。
「よくぞ戻った可愛い教え子! とは言え私もたった今、小笠原から帰った所だがなあ! ぬわーっはっはっは!」
彼は腰に手を当てて高笑いする。
良く見ると、腰には変身ヒーローのようなベルトがあり、彼は指で中央のボタンを押した。するとたちまちベルトが輝き、男は少しずつ浮上していったのだ。
「嘘……あんな小型の添加機で……?」
カノンは思わず呟いた。
ベルトのバックルサイズの属性添加機で人を飛ばしているのだろうが、サイズの割に信じられない出力である。
だがカノンの感動をよそに、男は突如姿勢を崩し、空中でギュルギュル回転を始めた。
「あ、あらっ? おおおおっ、あ~れ~~っ!!?」
男は回転しながら明後日の方に飛んでいき、格納庫の内壁に激突した。
そのまま小規模な爆発があり、整備班が懸命の消化を試みている。
「丁度いいや、見なかった事にしような」
学ラン姿の翔馬が言うと、他のパイロット連中も頷いている。
「どうぞ気にしないで。皆さんこちらへ」
だが海老名がカノン達を案内し始めると、消化剤の煙を破って、先の男が走って来る。
「こらーっ貴様らっ、私を無視するんじゃあないっ!」
冷却消化剤を浴び、氷と霜まみれで震えながら、彼は一同の行く手を遮った。
「……ちっ、生きてやがったか」
翔馬の舌打ちをよそに、海老名が諦めて男を紹介してくれた。
「……残念だけど紹介するわ。悲しい事に、この第3船団の全ての技術的頂点に君臨する総責任者、筑波淳さんよ。見て分かる通り、極めて残念な人だから、出来るだけ関わらない方がいいわ。これで説明はおしまい」
大変辛辣な紹介であったが、筑波氏は気にせず腰に手を当てた。
「がっはっは、これは手厳しいなあ龍恋くん!」
「海老名でお願いします! それと龍恋です! あとこの間の改修武装っ、動作中に納豆のCM流すのはやめて下さいっ! 射撃で全部片付けるつもりが、思わずコケそうだったんですからっ!」
「龍恋くん、遊び心は大事だよ。かの大日本史を編纂し、学問を広く勧めた水戸藩だって、人生は一張一弛と言ってるぞ。張り詰めるだけじゃ折れてしまうからな」
「あなたは弛んでばかりでしょうが!」
段々ヒートアップする海老名をよそに、筑波はカノン達に目をやった。
「そんで君らが第5船団のパイロットか。ようこそ第3船団へ! そしてようこそっ、知恵と勇気の楽園へっ!」
ガキャン、と良く分からない効果音に後押しされながら、筑波はまたもポーズをとった。
どうやらこの効果音は、彼の腰のベルトから鳴っているらしい。
格納庫の外に広がるのは、日本最強と名高い第3船団の、しかも日本で最初の勝利を掴んだ横須賀の避難区である。
港には、洋上にいたはずの旗艦『武蔵』の巨体も見えたし、隣には『小笠原第6管区』と記された船が接岸しており、こちらも武蔵に負けぬ大きさだった。
「……ね、ねえあの船、筑波のおっちゃん着いてるじゃん……小笠原の試験区のやつ」
航空機から降りた途端、ひかるは若干引き気味に埠頭の巨大船を指差した。
「筑波のおっちゃんって誰や?」
難波は遠慮なく尋ねるが、第3船団のパイロット達は、「う~ん」と微妙な表情で押し黙った。
全員が目で押し付け合いをしているので、こういう時だけ隊長の弥太郎が口火を切る。
「……あ、いや、別に嫌な人じゃないんだけどさ。ちょっとというか、だいぶ変わってるというか、要するに変な人……いや、ド変態……存在自体が犯罪者……」
至極丁寧に失礼を重ねる弥太郎だったが、隊員達は腕組みして納得している。
……だがその時、カッと眩い光が照射され、一同を襲った。
「何よこれ……何が始まるの!?」
カノンは思わず手で光を防いだが、次の瞬間、男の怪しい声が投げかけられる。
「ぬわーっはっは! 帰ったな栄光の春日部隊っ、我が可愛いモルモッ……いや、精鋭部隊よ!」
「今、しれっと怖い事言いかけたでしょ!」
海老名が珍しく大きな声で言い返すと、ライトは消え、今度は輸送機の上に光が集まる。
いつの間に機上に登ったのだろう、そこには一人の中年男性が仁王立ちしていた。
やや長身で、上半身は長い白衣、下半身は細身のジーンズ。
ひょろりとした体型だったが、声にも動作にもエネルギーが満ち溢れ、いかにも暑苦しい熱血オヤジという印象である。
彼は全身でスポットライトを浴びつつ、何度もポーズを変えた。ポーズを変える度、どこからかジャーン、ジャジャンと効果音が鳴り響いている。
「よくぞ戻った可愛い教え子! とは言え私もたった今、小笠原から帰った所だがなあ! ぬわーっはっはっは!」
彼は腰に手を当てて高笑いする。
良く見ると、腰には変身ヒーローのようなベルトがあり、彼は指で中央のボタンを押した。するとたちまちベルトが輝き、男は少しずつ浮上していったのだ。
「嘘……あんな小型の添加機で……?」
カノンは思わず呟いた。
ベルトのバックルサイズの属性添加機で人を飛ばしているのだろうが、サイズの割に信じられない出力である。
だがカノンの感動をよそに、男は突如姿勢を崩し、空中でギュルギュル回転を始めた。
「あ、あらっ? おおおおっ、あ~れ~~っ!!?」
男は回転しながら明後日の方に飛んでいき、格納庫の内壁に激突した。
そのまま小規模な爆発があり、整備班が懸命の消化を試みている。
「丁度いいや、見なかった事にしような」
学ラン姿の翔馬が言うと、他のパイロット連中も頷いている。
「どうぞ気にしないで。皆さんこちらへ」
だが海老名がカノン達を案内し始めると、消化剤の煙を破って、先の男が走って来る。
「こらーっ貴様らっ、私を無視するんじゃあないっ!」
冷却消化剤を浴び、氷と霜まみれで震えながら、彼は一同の行く手を遮った。
「……ちっ、生きてやがったか」
翔馬の舌打ちをよそに、海老名が諦めて男を紹介してくれた。
「……残念だけど紹介するわ。悲しい事に、この第3船団の全ての技術的頂点に君臨する総責任者、筑波淳さんよ。見て分かる通り、極めて残念な人だから、出来るだけ関わらない方がいいわ。これで説明はおしまい」
大変辛辣な紹介であったが、筑波氏は気にせず腰に手を当てた。
「がっはっは、これは手厳しいなあ龍恋くん!」
「海老名でお願いします! それと龍恋です! あとこの間の改修武装っ、動作中に納豆のCM流すのはやめて下さいっ! 射撃で全部片付けるつもりが、思わずコケそうだったんですからっ!」
「龍恋くん、遊び心は大事だよ。かの大日本史を編纂し、学問を広く勧めた水戸藩だって、人生は一張一弛と言ってるぞ。張り詰めるだけじゃ折れてしまうからな」
「あなたは弛んでばかりでしょうが!」
段々ヒートアップする海老名をよそに、筑波はカノン達に目をやった。
「そんで君らが第5船団のパイロットか。ようこそ第3船団へ! そしてようこそっ、知恵と勇気の楽園へっ!」
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どうやらこの効果音は、彼の腰のベルトから鳴っているらしい。
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