新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
33 / 110
第四章その3 ~ようこそ関東へ!~ くせ者だらけの最強船団編

横須賀の幼き日々

しおりを挟む
 誠は子供の頃の夢を見ていた。

 あの混乱が起きてから、流れ流れて関東の避難所にたどり着いた。旧神奈川県の東部に位置する、三浦半島の避難区である。

 ……だがそれからは、毎日が地獄だった。人々は恐れおののき、誠もただ怯えて暮らした。

 無理も無い。いきなり巨大な活動死体ゾンビどもが現れて、人口の9割が喰い殺されて。住み慣れた土地も家族も奪われ、失意のどん底に追い込まれたのだ。

 それでも恐怖は終わらず、今日はどこそこの避難区が襲われた、今日はどこそこの人々が喰い殺された……そんなショッキングな情報ニュースが、当たり前のように舞い込んでくる。

 何をどうすればこのわざわいが終わるのか、どうすれば生き延びられるのか。政府も一般の人々も、誰もが全く分からなかったのだ。



 体育館には明かりも乏しく、皆が膝を抱えて項垂れている。

 そのくせ微かな音にも反応し、すぐに悲鳴を上げる始末だ。

 夜の眠りは浅く、すすり泣く声があちこちから聞こえてくる。

 誠が居るすぐ傍には、白衣を着た痩せたおじさんが座っていた。

 一度話した事があったが、つくば市の研究施設に勤めた人らしい。

 父も研究者だった誠は、何となく彼が印象に残っていたが、そのおじさんも全ての気力を失っていた。

「……何やっても無駄なんだよ。あんな化け物に勝てるわけがない」

 彼はよく抜け殻のように呟いた。



 避難所には誠と同年代の子供もいたが、その大抵が親を亡くしていた。

 なぜか小さなダルマを前におき、俯いている少年。ボロボロに破れ、裏地に血が染みた学ランを抱きかかえている。家族か誰かの形見なのだろうか?

 少年の隣は、暗い顔をした小柄な少女だ。食べ物屋か何かの娘だったのだろうか、家族と店の前で撮った写真を、いつまでもいつまでも眺めていた。

 歳の割に大人びた顔の女の子は、髪も体も薄汚れていた。心がここに無いかのように、呆然と宙を見つめている。

 そして彼らの傍に座る、あまり特徴の無い少年。かなり芯の強い子なのか、こんな状況なのに、周囲の子をよく気遣っていた。


 
 ……避難所の治安は最悪だったが、意外にも大人のほとんどは野蛮ではなかった。ごく一部の粗暴な大人が徒党を組んで暴れただけだ。

 彼らは誠達のぶんの食料を奪う事も多かったし、だから子供はいつも飢えていた。

 時折あの白衣のおじさんが、自分の分の食べ物を分けてくれるが、それは優しさでもあり、緩やかな自棄行為でもあっただろう。

 ともすればかすむ目で、誠は体育館の入り口を眺める。

 どんよりと灰色に染まった空。粉塵ふんじんでけむる辺りの景色。

 壊れた家や送電柱が倒れ、世界は終末の様相をきたしている。

(……そうだ、何をやっても無駄だったんだ……)

 そんな考えが重く心にのしかかり、誠は小さく丸まった。

『これはお前の親父のせいだ!』

『お前の親父が、妙な研究をしていたせいだ!』

 ふと激しい罵倒が耳に響いて、誠は強く耳をふさいだ。もう何も見たくないし、もう何も聞きたくはなかった。

 ……………………だが、その時である。

 不意に左手に、温かい何かが触れたような気がした。まるで誰かが手を握ってくれているようだ。

 闇の中で目を凝らすと、手は微かに光を帯びて、女性の声が聞こえてきた。

『……大丈夫よ鳴瀬くん。あなたなら、絶対大丈夫だから……!』

 誠は懸命に考えた。

(誰だろう……とても大事な人だったような気がする)

 外の世界は怖いけど、どうしても思い出したい。この人の顔を見たい。

 誠がそう思った時、今度は手の中に、硬い何かが現れた。

「……?」

 よく見ると、それは不恰好なレバーである。

 人型重機のシュミレーター……その操作レバーであるが、いかにも手作りの溶接感が感じられるつくりだ。

(そうだ……思い出した。これ、親方が作ってくれたんだ……!)

 そこからは、記憶がどんどん繋がった。

 雪菜に食べ物をもらって命を永らえ、まるで女神様のように思えた事。

 本を読み、整備を覚えて働いた事。

 そして戦う力を欲し、シュミレーターにかじりついた事。

 毎日必死だったけど、少しずつ出来る事が増えていった。

 誠は己に問いかける。

(無駄じゃなかったんじゃないか……?)

(毎日泣いてたあの頃と違って、出来る事は増えてるんじゃないか……?)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始
ファンタジー
「俺はただの経理なんだけどな」 ブラック企業の経理マンだった葛城隆司(45歳・独身)。 社内の不正会計を見抜きながらも誰にも評価されず、今日も淡々と帳簿を整理する日々。 そんな彼がある日、突然異世界に転生した。 ――しかし、そこは剣も魔法もない、金と権力がすべての世界だった。 目覚めた先は、王都のスラム街。 財布なし、金なし、スキルなし。 詰んだかと思った矢先、喋る黒猫・モルディと出会う。 「オッサン、ここの経済はめちゃくちゃだぞ?」 試しに商店の帳簿を整理したところ、たった数日で利益が倍増。 経理の力がこの世界では「未知の技術」であることに気づいた葛城は、財務管理サービスを売りに商会を設立し、王都の商人や貴族たちの経済を掌握していく。 しかし、貴族たちの不正を暴き、金の流れを制したことで、 王国を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。 「お前がいなきゃ、この国はもたねえぞ?」 国王に乞われ、王国財務顧問に就任。 貴族派との経済戦争、宰相マクシミリアンとの頭脳戦、 そして戦争すら経済で終結させる驚異の手腕。 ――剣も魔法もいらない。この世を支配するのは、数字だ。 異世界でただ一人、"経理"を武器にのし上がる男の物語が、今始まる!

処理中です...