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第四章その3 ~ようこそ関東へ!~ くせ者だらけの最強船団編
横須賀の奇跡2
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やがて敵の大将は……『逗子王』と仮称された怪物は、どんどん港に迫って来た。
かつて人々が暮らした家を踏み潰し、笑いあった飲食店を切り裂き。頭部に備わる大口を開いて、喰い殺そうと押し寄せて来たのだ。
『……まだ早い。まだ焦らないでくれ』
池谷は、経験の浅い兵に指示を出している。
敵がまき散らす特殊な霧で無線が効きにくいため、ケーブル式の有線通信車を先行させて情報を得ていた。
『後退開始。応戦しつつ、予定地点まで引き寄せろ』
誠達は送られてくる映像を見守った。
敵の巨体は大通りに達し、まっすぐに突進してくる。通りに備わる最後のバリケードを目指し、踏み破ろうとしているのだ。
『距離300、予定通り全守備隊が逃走開始。敗走に見せかけろ』
味方は作戦を見破られないよう、適度に応戦しながら踵を返し、退却・逃亡するふりを見せた。
『攻撃地点まであと200……150、100、』
敗走する人間達を見て、勝利を確信したのだろうか。逗子王は更に加速した。雄叫びを上げ、アスファルトを巻き上げながら突進してくる。
恐らく幾多の避難区で、ヤツがしてきたお決まりの勝ちパターンだ。人間の防御壁を踏み破り、配下の餓霊が突入するお膳立てをするつもりなのだ。
だが逗子王が、今にもバリケードを踏み破ろうとした時。バリケードは一瞬強く輝いた。敵の足元の地面もだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
やがて激しい爆発が、周囲の建屋やビルを揺らした。
その身を覆う強固な電磁バリアに守られたものの、逗子王は混乱して体をくねらせ、悲鳴を上げた。
次の瞬間、
『足止め完了、放水開始!! 頭部に集中して視界を奪え!!』
池谷の合図と共に、一斉に海水が噴射された。
停泊中のあらゆる船から、そして港のそこかしこから。
記念艦の『戦艦三笠』からも、水柱が伸びていたように思う。
属性添加され、超高圧の白線と化した海水は、一斉に逗子王に降り注いだ。
逗子王の身を覆う赤い電磁バリアは、妖しく強い光を帯びて、まるで怒り狂っているようだった。
………………そして逗子王は絶叫した。
兜のような頭部から、いや体全体から、激しい蒸気を吹き上げた。
硬い外皮が白くただれ、まるで強い酸をかけられたようだ。
逗子王は体をひるがえし、内陸へと逃げようとする。それは配下の餓霊も同じであった。
化け物どもの大将が逃げれば、部下も逃げる。初めての事態である。
人間達は必死に追撃した。
混乱した敵の電磁バリアは乱れ、普段より攻撃が通りやすい事も初めて知った。
残念ながら逗子王を討ち果たすには至らなかったが、その後も誠達は奮戦し、神武勲章隊の雪菜達が戻ってくるまで、横須賀の避難区を守り抜いたのだ。
ニュースは電撃的に日本中を駆け巡った。
合計数千体に及ぶ餓霊どもの軍勢を、三浦半島の……言い方は悪いが、ちっぽけな落ちこぼれの避難区が押し返したからだ。
たまたま居合わせた伊能氏が、武器を融通したためか?
……いや、最早そんなレベルの話ではない。
ミサイルすら通用しない敵軍の大将に痛手を負わせ、わずかな戦力で守り切ったのだ。
そんな事があるのかと、真偽の問い合わせが殺到した。
やがてこの戦いは…………日本で初めて、餓霊の軍勢に人が勝利した激戦は、『横須賀の奇跡』の名で、日本中に語り継がれたのだ。
後に地元被災者への配慮と、この勝利を正確に語り継ぐ必要性との板ばさみから、敵の名は地名を含む『逗子王』から、読みそのままに漢字を替えた『厨子王』となったのだ。
そして驚くべき事に、これ以降、海辺の避難区には敵の大将は近づかなくなった。
押し寄せるのは決まって下っ端、それも知能の低い、恐怖心の鈍い餓霊ばかりである。
敵の電磁バリアや耐性も時と共に進化し、瞬間的な放水程度では溶解しなくなったが、それでも敵による海浜部への攻撃は、格段に慎重になったのだ。
人々はその間に、知恵と力を蓄積させていったのである。
…………ふと気付けば、誠の傍に髪の長い青年が立っていた。
神武勲章隊に所属し、日本で最高の人型重機パイロットだった明日馬である。
彼は笑顔を見せていた。
雪菜も笑っていた。
まだ髪の短かった天草も、輪太郎もちひろも。
巨体の船渡も、その横に立つ、やはり長身の嵐山も。
赤いバンダナがトレードマークのつかさも、前髪を真っ直ぐに切ったおもしろお姉さんのヒカリも。
かつての神武勲章隊の面々が、生き残った誠に笑いかけてくれていた。
「キミ凄いね、ボクの弟子になりなよ!」
喜びのあまり、ヒカリは誠の手を取ってパワフルに振り回し、つかさが慌てて止めようとしている。
「それやめろって言ってるだろ、子供見たらいつもやってるけど! そのうち腰壊すぞ!」
文字通り目が回りながらも、誠は懐かしい彼らの姿を見つめた。
日本を守り、ズタボロになって日々を過ごしていた彼らは、それでも毎日笑っていたのだ。
きっといつか、平和で幸せな世界を取り戻せると信じ、彼らは己の命を盾にして、人々を守り抜いてきたのだ。
(この人達みたいになりたい……!)
誠は心底そう願った。
彼らみたいに強くなって、そしてこの日本を元に戻すんだ、と幼い誠は決意したのだ。
(そうだ、何度でもやればいいだろ……!)
ずっとそうしてきたじゃないか、と誠は思った。
(あがいても無駄? それでも他の生き方なんて知らないんだ……!)
馬鹿にされても蹴飛ばされても、立ち上がってもがいてやる。
助けてくれた沢山の人達がいて、そして今の仲間がいる。
最近では、すっとんきょうな鎧姿のお姫様が来て、お目付け役の女神様まで居て。
何が何だか分からないけれど、前よりずっと、希望の灯があるのだから……!
かつて人々が暮らした家を踏み潰し、笑いあった飲食店を切り裂き。頭部に備わる大口を開いて、喰い殺そうと押し寄せて来たのだ。
『……まだ早い。まだ焦らないでくれ』
池谷は、経験の浅い兵に指示を出している。
敵がまき散らす特殊な霧で無線が効きにくいため、ケーブル式の有線通信車を先行させて情報を得ていた。
『後退開始。応戦しつつ、予定地点まで引き寄せろ』
誠達は送られてくる映像を見守った。
敵の巨体は大通りに達し、まっすぐに突進してくる。通りに備わる最後のバリケードを目指し、踏み破ろうとしているのだ。
『距離300、予定通り全守備隊が逃走開始。敗走に見せかけろ』
味方は作戦を見破られないよう、適度に応戦しながら踵を返し、退却・逃亡するふりを見せた。
『攻撃地点まであと200……150、100、』
敗走する人間達を見て、勝利を確信したのだろうか。逗子王は更に加速した。雄叫びを上げ、アスファルトを巻き上げながら突進してくる。
恐らく幾多の避難区で、ヤツがしてきたお決まりの勝ちパターンだ。人間の防御壁を踏み破り、配下の餓霊が突入するお膳立てをするつもりなのだ。
だが逗子王が、今にもバリケードを踏み破ろうとした時。バリケードは一瞬強く輝いた。敵の足元の地面もだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
やがて激しい爆発が、周囲の建屋やビルを揺らした。
その身を覆う強固な電磁バリアに守られたものの、逗子王は混乱して体をくねらせ、悲鳴を上げた。
次の瞬間、
『足止め完了、放水開始!! 頭部に集中して視界を奪え!!』
池谷の合図と共に、一斉に海水が噴射された。
停泊中のあらゆる船から、そして港のそこかしこから。
記念艦の『戦艦三笠』からも、水柱が伸びていたように思う。
属性添加され、超高圧の白線と化した海水は、一斉に逗子王に降り注いだ。
逗子王の身を覆う赤い電磁バリアは、妖しく強い光を帯びて、まるで怒り狂っているようだった。
………………そして逗子王は絶叫した。
兜のような頭部から、いや体全体から、激しい蒸気を吹き上げた。
硬い外皮が白くただれ、まるで強い酸をかけられたようだ。
逗子王は体をひるがえし、内陸へと逃げようとする。それは配下の餓霊も同じであった。
化け物どもの大将が逃げれば、部下も逃げる。初めての事態である。
人間達は必死に追撃した。
混乱した敵の電磁バリアは乱れ、普段より攻撃が通りやすい事も初めて知った。
残念ながら逗子王を討ち果たすには至らなかったが、その後も誠達は奮戦し、神武勲章隊の雪菜達が戻ってくるまで、横須賀の避難区を守り抜いたのだ。
ニュースは電撃的に日本中を駆け巡った。
合計数千体に及ぶ餓霊どもの軍勢を、三浦半島の……言い方は悪いが、ちっぽけな落ちこぼれの避難区が押し返したからだ。
たまたま居合わせた伊能氏が、武器を融通したためか?
……いや、最早そんなレベルの話ではない。
ミサイルすら通用しない敵軍の大将に痛手を負わせ、わずかな戦力で守り切ったのだ。
そんな事があるのかと、真偽の問い合わせが殺到した。
やがてこの戦いは…………日本で初めて、餓霊の軍勢に人が勝利した激戦は、『横須賀の奇跡』の名で、日本中に語り継がれたのだ。
後に地元被災者への配慮と、この勝利を正確に語り継ぐ必要性との板ばさみから、敵の名は地名を含む『逗子王』から、読みそのままに漢字を替えた『厨子王』となったのだ。
そして驚くべき事に、これ以降、海辺の避難区には敵の大将は近づかなくなった。
押し寄せるのは決まって下っ端、それも知能の低い、恐怖心の鈍い餓霊ばかりである。
敵の電磁バリアや耐性も時と共に進化し、瞬間的な放水程度では溶解しなくなったが、それでも敵による海浜部への攻撃は、格段に慎重になったのだ。
人々はその間に、知恵と力を蓄積させていったのである。
…………ふと気付けば、誠の傍に髪の長い青年が立っていた。
神武勲章隊に所属し、日本で最高の人型重機パイロットだった明日馬である。
彼は笑顔を見せていた。
雪菜も笑っていた。
まだ髪の短かった天草も、輪太郎もちひろも。
巨体の船渡も、その横に立つ、やはり長身の嵐山も。
赤いバンダナがトレードマークのつかさも、前髪を真っ直ぐに切ったおもしろお姉さんのヒカリも。
かつての神武勲章隊の面々が、生き残った誠に笑いかけてくれていた。
「キミ凄いね、ボクの弟子になりなよ!」
喜びのあまり、ヒカリは誠の手を取ってパワフルに振り回し、つかさが慌てて止めようとしている。
「それやめろって言ってるだろ、子供見たらいつもやってるけど! そのうち腰壊すぞ!」
文字通り目が回りながらも、誠は懐かしい彼らの姿を見つめた。
日本を守り、ズタボロになって日々を過ごしていた彼らは、それでも毎日笑っていたのだ。
きっといつか、平和で幸せな世界を取り戻せると信じ、彼らは己の命を盾にして、人々を守り抜いてきたのだ。
(この人達みたいになりたい……!)
誠は心底そう願った。
彼らみたいに強くなって、そしてこの日本を元に戻すんだ、と幼い誠は決意したのだ。
(そうだ、何度でもやればいいだろ……!)
ずっとそうしてきたじゃないか、と誠は思った。
(あがいても無駄? それでも他の生き方なんて知らないんだ……!)
馬鹿にされても蹴飛ばされても、立ち上がってもがいてやる。
助けてくれた沢山の人達がいて、そして今の仲間がいる。
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