新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
37 / 110
第四章その4 ~守り切れ!~ 三浦半島防衛編

鬼神族のメンツにかけて

しおりを挟む
 三浦半島の守りは鉄壁だった。

 幾重にも張り巡らされた防御壁と、強力な電磁バリア。常に展開・監視を続ける多数の人型重機。

 強化された短距離レーダーシステムに加え、振動や音声、温度感知サーモなどの複合センサーが睨みを効かせ、餓霊が近づけばたちどころに撃ち倒されるだろう。

 例え人間サイズの魔族であっても、重機が高速散弾ショットシェルで対処すれば、間違いなく蜂の巣となる。

 ……しかし、である。

 さしもの鉄壁の防御網にも、想定外の事態イレギュラーは積み重なる。

 丁度兵員の入れ替え時間だったため、普段より注意散漫さんまんだった。

 更に魔王との決戦を控え、少なからず動揺していた。

 そして何より、警備に関わる重要な者が敵側に寝返っていた。トラブルに見せかけたごく局地的な停電で、一時的に全てのセンサー類を止めたのだ。

 すぐに予備経路から電力が復旧したが、時既に遅し。

 あらゆる『不運』が重なって、日本最強の第3船団、その象徴たる横須賀に、魔の一族が入り込んだのだ。



「……それじゃお前達、始めるぞ」

 刹鬼姫が目配めくばせすると、鬼の1人が木箱を取り出し、地面に置いた。かなり手の込んだ呪法具じゅほうぐであり、見るもおぞましい『呪遺物じゅいぶつ』が多数詰まっているらしい。

 数百年も前に生贄いけにえにされた者の首だったり、口減らしに殺された子の髪であったり。無実の罪で憤死した男の目玉であったり。

 触れる者全てに害を為し、亡者を呼び寄せる災厄の詰め合わせだ。

 五老鬼にとっても虎の子の切り札であろうが、それを使わせるという事は、今がよほどの勝負どころなのだろう。

 箱はやがて赤い光を帯びると、中から話し声が聞こえてきた。息を潜め、ささやくような大勢の会話だ。

 数瞬ののち、箱の周囲に魔法陣が浮かび上がると、ゆっくりと、巨大な亡者どもが湧き上がってきた。魔界の怨霊を受肉させ、この世に呼び出す反魂はんごんの術である。

 自らも多少は術の心得のある刹鬼姫は、忌々いまいましげにつぶやいた。

「ちっ……龍穴りゅうけつじゃないから、箱の力を大量に喰う。あのバケモノ女、これを自力でやりやがったのか……!」

 本来反魂の術は、しかるべき地脈エネルギーの噴出点、つまり龍穴で行うものだ。地面から大量のエネルギーが得られるので、術の元となる祭壇さいだんなどをきずき、しろとなる細胞を置けば、後は勝手に邪霊どもが呼び出され、細胞が増殖して餓霊の肉体からだになっていく。

 しかしこの三浦半島には龍穴がないため、術者本人が膨大なエネルギーを消費し、無理やり魔界の扉を開くしかない。

 道具無しで出来るとすれば、まずあの闇の神人・鳳天音おおとりあまねただ1人。

 もちろん鬼には無理であって、だからこそ貴重で高度な呪法具じゅほうぐを使わざるを得ないわけだ。

 反魂の術が効いている時間は恐らくわずか、それが終われば餓霊どもは消えてしまう。

 しかしそれでも、人の備えを混乱させるには十分だろう。その隙に潜入し、新兵器とやらを破壊するのだ。

 やがて魔法陣から這い出た餓霊は、次々に前進を始めた。歯をむき出し、盛んに邪気を吐き出して、生者しょうじゃの肉を求めているのだ。

 刹鬼姫は腰の太刀を抜くと、配下の鬼に言い放つ。

「さあお前達、ここが正念場だ。あの聖者がおらぬ今が好機、なんとしても人間どもの切り札を潰すのだ……!」

 鬼達はうなるように答えると、一斉に闇を蹴立てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...