新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
45 / 110
第四章その4 ~守り切れ!~ 三浦半島防衛編

すんごいお仕置き。内容が気になる

しおりを挟む
「ただいまみんな、私よ!」

 ボロボロの格納庫に、少女の明るい声が響く。

 やがて照明をさえぎり、宙に巨大なものが飛んだ。たてがみと尾をなびかせた、象ほどもある巨大な獅子……いや狛犬だ。

 狛犬は着地し、とどろくような大声で咆えた。鬼達は迫力に押され、たじろいで後ずさっていく。

 その狛犬の背に立つのは、あの鎧姿の姫君である。八百万の神々に選ばれ、地上を魔の軍勢から奪い返すべく差し向けられた、大祝鶴姫おおほうりつるひめその人だった。

 鶴は誠の機体を見つけると、元気良く手を振った。

「黒鷹、おかえりなさい!」

「そっちこそ、ヒメ子!」

 誠が答えると、ようやくカノンの腕が誠から離れた。これで動きやすくなったし、これなら負ける要素はない。

「ど、どうしてあたしの殲滅呪詛が……」

 刹鬼姫が混乱しているので、鶴はびしっと彼女を指差して言った。

「どうもこうもないわ、私がやったの! 霊力で禁じたから、害のある術は使えないわよ!」

 出された攻撃に対処するのではなく、魔法の発動を禁じる。最初から術を編み込めないよう押さえ込む。

 余程の実力差が無ければ無理だろうし、刹鬼姫もそれは分かっているようだった。

高天原たかまがはらの神人め……くそっ、あの天音あまねにやられたはずでは……!」

 悔しげに鶴を見上げる刹鬼姫だったが、そこで格納庫に残りの鬼が駆け込んできた。倒れた仲間を分担してかつぎ、先頭には小柄な紫蓮が見える。

「こりゃいかん、反魂の魔法陣が消えたぞ! 人の鎧がどんどんやってくる!」

 焦る紫蓮達の後ろから、長い黒髪をうなじで縛った長身の女性、つまり鳳が姿を見せた。

 そして地響きを上げて格納庫に踏み込むのは、いかにも個性的な武装が目立つ、関東のエースパイロット専用機だった。

「個性の塊・春日部隊、到着~! いやあ、割と余裕だったよ?」

 ド派手なカラーリングの機体が言うと、紺色の機体がゲンコツを頭に落とした。

「バカ言わないのよひかる、いつもそうやって……ちょっと!?」

 彼女はなおも小言を言おうとしたが、外部拡声器スピーカーから「納豆最高~♪」と歌声が聞こえてきたので、慌てて拡声器を切ったようだ。

 代わりに金色に塗られた機体が、誠の方に語りかけてくる。

「その機体、てことは不死身の誠か!? 俺だよ、ダルマの翔馬だよ!」

「不死身かどうか知らないけど、一応合ってる」

 誠が答えると、モニターにいっぺんに皆の顔が表示された。

龍恋たつこ、ひかるに翔馬…………弥太郎っ、みんなも生きてたのか」

 誠が言うと、彼らは一気に言い返してくる。

「言ってらあこいつ!」

「あなたが倒れてたんでしょうがっ!」

「何ださっきの間は!」

 一斉に文句を言うが、みんなとても嬉しそうだ。

「うんうん、すんばらしいわ。楽しそうで何よりね」

 賑やかな雰囲気が嬉しいのか、鶴は調子にのって再び刹鬼姫を指差す。

「つまるところあなたの負けよ。大人しく鶴ちゃんのお縄につきなさい。降伏したら割とすんごいお仕置きはするけど、命までは取らないわ」

「くそっ、くそっ……! 何でいつもこんな事に……あいつのせいだ! あいつが全て原因なのだ!」

 刹鬼姫は最早悔し涙を浮かべていた。

「言い残す事はそれだけね。それじゃ早速捕まえるわよ。術で滅茶苦茶に縛って、巻き寿司セットにしてくれるわ」

 鶴がコマの背から飛び降り、鬼達に歩み寄っていく。だがそこで、刹鬼姫は不敵に笑った。

「……確かにあたしらの負けだ。負けだが……貴様等の世話にはならん……!」

 刹鬼姫は身をかがめると、大きく跳んで鶴から距離をとった。他の鬼達も彼女の傍に着地する。

(……何か最後の悪あがきでもするのか?)

 誠が警戒していると、刹鬼姫は左手を前に差し出した。手首には腕輪らしきものが付いており、見る間に光を帯びていく。

「無駄よ、さっきも言ったじゃない。危ない術は使えないわよ?」

 鶴が言うと、刹鬼姫は牙を剥き出して笑った。

「バカめ、これは転移の腕輪……定めた場所に戻る秘宝だ。貴重な呪法具じゅほうぐだが、ここで使わせてもらう」

 刹鬼姫は、そして他の鬼達は、一斉に光に包まれた。

「さらばだ、高天原の神人よ! そして人間ども、この借りは必ず返すぞ!」

 それだけ言い残すと、鬼達は唐突にその場から消えたのだ。

 まんまと逃げられたわけだが、鶴はすぐに機嫌を直した。

「逃げたのは残念だけど、流石は私だわ。戻ってすぐに大勝利ね」

「また君はすぐ調子に乗るなあ」

 子犬ぐらいに縮んだコマが、鶴の肩に飛び乗りつつツッコミを入れるが、鶴はそこで不思議そうに呟いた。

「……でもあれ、本当に逃げるための道具かしらね?」

「どういう事だ?」

 誠が機体から降りながら尋ねると、鶴は首をかしげて答える。

「それが黒鷹、確かに転移したんだけど、別の術もくっついてたみたいなの。そっちは発動しなかったけど……」

「ま、まあ発動しなかったんならいいのかな……?」

 誠はその言葉の意味が気になったが、そこでふと我に返った。

「……って、なごんでる場合じゃない! 今日は何日の何時だ!? ディアヌスはどうなった!?」

 口々に説明する一同の話を要約すると、まだ誠が倒れてからそれほど時は経っていないし、ディアヌスも動き出していないらしい。これならなんとか対策の時間はあるはずだ。

 誠は皆を見渡して言った。

「みんな、ちょっと聞いて欲しい。ディアヌス戦の対策会議をしたいんだ」



 誠の後を追い、カノンもそっと機体から降り立つ。

 騒がしくも楽しげな人々のやり取りを……そして目の前の愛しい人を眺めながら、カノンは思った。

(ほんとにバカ……何百年経っても変わらない。あれだけ酷い呪いを受けて、あんな大変な目に遭っても……目覚めてすぐにこれなんだから)

 無器用で、一生懸命で……だからこそ愛おしかった。

 けれど間もなく別れの時が訪れる。

 じんと胸に焼きつくような痛みが走ったが、カノンは何とかそれをこらえた。

(もうすぐお別れ……でも我慢しなきゃ。最初から分かってたんだから……!)

 そこであの鎧姿の姫君・鶴と目が合った。彼女は記憶を制限されているが、恐らくこちらの変化に、カノンの正体に気付いたはず。

 ……それなのに、彼女はにこっと微笑んでくれた。

(なんでみんな、こんなに優しいんだろう……!)

 また泣きそうになるカノンだったが、そこで誰かが肩を叩いた。

 振り返ると、栗色の髪をショートカットにした少女……つまり難波が立っていた。

 難波は両手を大きく広げ、カモン、と呟く。

「…………」

 カノンは少し迷ったが、恐る恐る身を寄せる。

 難波はぎゅっとカノンを包み込んだ。こちらの背を、そして髪を撫でながら彼女は言う。

「……よう頑張ったな、偉かったでカノっち」

 初めて人間界で出来た親友は、優しくそう言ってくれたのだ。

「…………っ」

 今度は本当に涙が出て、カノンは無言で頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...