新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第四章その4 ~守り切れ!~ 三浦半島防衛編

500年ぶんの「大好き」

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 手早くその場の餓霊を倒し、誠は再び呼びかける。

「無事か、カノン!!」

「…………………………………………」

 カノンはこちらを見上げていた。

 見た事もない柔らかな表情……嬉しそうでもあるけれど、どこか寂しげで。涙が確かに頬に光って、彼女はぺたんと座り込んでいた。

(まずい、腰が抜けてるのか……!?)

 誠は一瞬焦ったが、それを敵に悟られないよう、機体を魔族へと向けた。

「あああ~っ、てめえ、あの時の!」

 巨体の鬼・剛角がこちらを指差し、張り切って腕をぶんぶん回した。

鎮西ちんぜいじゃよくもすっぽかしてくれたな! ここで逢ったが百年目、さあ決着じゃあ!」

 だが張り切る剛角を、後ろから別の鬼達が引き止めている。

「駄目っすよ剛角さん、俺らのよろいは持って来てないでしょ!」

「かーっしまった! こんな事なら……!」

 頭を抱える剛角を、横から女の鬼が蹴飛ばす。

「全部喋るんじゃないわ、アホウどもっ! 無くても持ってるフリぐらいしろっ!」

「す、すまん姫さん!」

 彼らが揉めている隙に、誠は機体をしゃがませる。そのままコクピットハッチを開き、身を乗り出してカノンに言った。

「カノン、今のうちに早く! 立てるか?」

 カノンは黙ってふらふらと身を起こす。

 頭を強く打ったのか、その顔は夢でも見ているかのようだ。

 潤んだ目、何か言いたげな唇。髪はいつもより赤っぽく見えたし、顔立ちも体つきも、少し……いや、かなり大人びて見える。

 そのせいなのか何なのか、普段からカノンを見慣れている誠でも、ドキリとするような感覚を覚えた。

 カノンは操縦席にのぼると、ぎゅっとこちらに抱きついた。

「えっ!? ちょっと、カ、カノン……!?」

 カノンは何も言わなかった。

 濡れ髪から漂う、石鹸のような、シャンプーのような甘い香り。

 しなやかで柔らかい……そして豊かな体の感触。

 色んなものがいっぺんに襲ってきて、頭がくらくらする誠だったが、なんとか首を振って理性を取り戻した。

「カノンごめん、ちょっと後ろに座っててくれ……力っ、強いなほんと……!」

 誠は何とか腕をほどき、カノンを補助席に座らせると、急いでコクピットハッチを閉じる。

 そのまま機体を立ち上がらせ、こちらに迫る更に数体の餓霊を瞬殺した。

「よしっ、これで付近の奴らは倒したはずだ……うっ!?」

 誠は少しだけ安堵あんどするが、そこで後部座席のカノンが、身を乗り出して誠の体にしなだれかかった。

 恋人が後ろから抱きつくような……いや、おんぶされた女性がぎゅっとしがみつく体勢にも似ていたが、カノンはそのまま、誠を上に引き上げた。不意をつかれ、誠は座席から腰を浮かせてしまう。

 カノンはそっと頬を寄せ、大好き、と呟いた。

「ちょ、ちょっとカノンっ!? 何で俺に……彼氏か何かと間違えてるのか?」

 カノンは何も答えなかったが、すぐ傍にある彼女の顔は、嫌々をするように横に振られた。

 こんなカノンは初めてであるし、誠は理性が吹っ飛びそうになった。

(頭を打って混乱してる!? これじゃまともに戦えないし……ハッタリで乗り切るしかないか……!)

 立ったままでは操作レバーに手が届かないし、例え引き離したとしても、いつカノンがこうなるか分からないなら、戦いどころの騒ぎじゃない。

 誠は呼吸を整え、外部拡声器スピーカーで眼下の鬼に呼びかけた。

「と、とにかくここまでだ! 既に周囲の餓霊は倒した、大人しく退散しろ!」

「ふざけるな、誰が退くか! ここで退いたら一族の再興が台無しだ!」

 恐らく指揮官であろう女の鬼は、誠の機体を見上げて叫んだ。

「元より後に引けぬ戦い、どうやっても勝ってみせる。この刹鬼姫を甘く見るなよ!」

 女は、いや刹鬼姫はそう言って、己の胸元に手をやった。

「こうなったらもう一度殲滅呪詛せんめつじゅそだ。お前らの切り札もろとも、何もかも焼き尽くしてやる!」

 殲滅呪詛。以前も見たが、全身を怨嗟えんさの炎で包み、その力で敵を焼く強力な術である。

 完璧に術が完成すれば、使用者に確実な死をもたらすその技を、彼女は躊躇ちゅうちょ無く使おうとしていた。並々ならぬ執念、そして戦いへの誇り高さだった。

(駄目だ、ハッタリ通じないか……!)

 誠の焦りをよそに、刹鬼姫は手で印を組む。そのまま何事か唱えると、彼女の周囲に無数の文字のような紋様が浮かんだ。

 ……だが次の瞬間、強烈な光が刹鬼姫を包むと、文字は薄れて消えていった。

 彼女が放った光ではない。何か他の力が彼女の術を打ち消したのだ。

「……なっ……!? 術が発動しないだと……?」

 刹鬼姫は混乱しているが、そこで無数の雷が降り注いだ。

 敵にも味方にも当たらぬように留意した、牽制のための見せ技である。
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