58 / 110
第四章その5 ~さあ反撃だ!~ やる気満々、決戦準備編
キスの人間マシンガン
しおりを挟む
「興奮して眠れない……」
ヒカリ達が部屋について10分後。
さっきの舌の根も乾かぬうちに、雪菜は弱音を吐いていた。
艦内の仮眠室……しかし本来は来賓用に設計されたその部屋は、良質のベッドが並び、寝心地もなかなかのものである。
しかしいかに寝心地が良かろうと、気持ちが高ぶっていてはどうしようもない。
雪菜はしばらくベッドの傍を歩き回った。後ろに手を組み、まるで推理中の名探偵ホームズのようだ。
それからベッドに乗って腹筋したり、体をねじったり。ヨガらしき変な事もしているが、多分詳しいポーズは知らないんだろう。
思いつきであれこれ奇妙な体操をしたあげく、急に目を閉じて瞑想を始めた。
片手を胸の前で拝むようにし、もう片方の手は膝の上に柔らかく置いて。瞑想というよりどこかの仏像のようだが、数分後、雪菜はベッドの上で体育座りした。どうやら寝るのを諦めたらしい。
(昔からそうだけど、観察してると飽きないねえ……)
ヒカリは素直にそう思った。
歳は確か24、ヒカリより2つ歳下であるが、しっかりしてるのか抜けているのか、今でもよく分からない仲間である。
……それでもたった一つ分かるのは、この子がとびきり優しいという事だ。
この絶望の世界で、生き残るのは彼女のような子がいい。意地っ張りな自分より、きっとその方が正解だろう。ヒカリは常々そう思っていた。
「……ね、何か話さない?」
眠れなかった手前、雪菜は照れ臭そうに言った。
「昔の……パイロット時代みたいに。戦いの後、こうしてみんなでお喋りしたよね?」
「したねえ。つかさに言うと怒られるけど、何回も徹夜したねえ」
ヒカリが言うと、雪菜はとびきり嬉しそうに頷いた。
「そうそう、ほんとに楽しかった! いつ死ぬか分からないから、生きてるうちに全部話したかったのかな?」
雪菜は10代の少女に戻ったように目をきらきらさせているが、そこでふと尋ねてきた。
「そう言えば、2人はどうして第3船団に来たんだっけ?」
もっともな疑問である。ヒカリの出身は旧新潟県、つかさは兵庫。怪訝に思うのも無理無いだろう。
「それは……明日馬っちが江戸っ子だったからね。ボクもつかさも随分助けられたし……明日馬っちが居なくなった今、ボク達が取り返さなきゃって。北陸には他にも神武勲章隊のメンバーがいるし、何も心配してないから」
「ヒカリがそう言う時は、心配でしょうがないって時でしょ?」
雪菜は割と鋭い事を言うが、そこで彼女は感慨深そうに宙を見上げた。
「明日馬くん、か……」
懐かしむような、愛おしむような不思議な横顔である。
「……そうよね、関東の人だものね。平和になったら、神田明神さんのお祭りに出たいって、いつも言ってたわ。子供の頃から楽しみにしてたから、なんとしてももう一度って……」
雪菜はしばし沈黙する。
(しまった、ついしんみりさせちゃったか……)
ヒカリは内心反省した。
雪菜は明日馬と恋人だったため、その死を今でも受け止められていないのだろう。
どうしていいか分からなかったが、こういう時、ヒカリの引き出しにはふざける以外の選択肢が無いのだ。
「……言っとくけど、ボクは明日馬っちにラブい気持ちを持ってたわけじゃないよ? 君と明日馬っちがラブのラブラブ、もうとんでもない事だったのは知ってるわけだし」
「いやいや、全く何にも、とんでもなくないわ。いつ出撃か分からなかったから、デートだって出来ないし。キスぐらいしか……した事ないもの」
素直な雪菜は、手をブブブブン、と振りながら赤くなっている。こうなればもう一押しだ。
「そうだった。人目もはばからず、チュッチュ、チュッチュとやってたよね。まさに人間マシンガン、愛の治外法権。夢の公然猥褻カップルさ」
「誰がいつそんな事をっ!? 1回だけっ、ノーマシンガン! ワンタイム! ワンモア!」
「そうかい? でも今はあの弟子と、愛を紡いでる事も調査済みだよ」
「つっつつつ、紡いでないっ!! どこ情報よそれは!!」
雪菜は顔から蒸気が出そうな勢いで叫んだ。それから少しボリュームを抑えて言う。
「……い、いえ……紡ぐつもりが無いわけじゃないんだけど……まだ、紡げていないのでありまして……」
「前も駄目、今回も駄目駄目。チミは一体、いつになったら動くんだね?」
「……あい、申し訳ありません」
雪菜は体育座りのまま、赤い顔で俯いたが、ヒカリはそこで謝罪した。
「なーんてね、偉そうに言ってゴメン。お詫びにひとつお見せしようか」
ヒカリはそこでベッドから立ち上がり、背筋を伸ばしてついと進み出る。
昔習っていた日本舞踊を……そしてテレビで見た鎌倉祭りを思い出し、ヒカリは舞った。
ヒカリ達が部屋について10分後。
さっきの舌の根も乾かぬうちに、雪菜は弱音を吐いていた。
艦内の仮眠室……しかし本来は来賓用に設計されたその部屋は、良質のベッドが並び、寝心地もなかなかのものである。
しかしいかに寝心地が良かろうと、気持ちが高ぶっていてはどうしようもない。
雪菜はしばらくベッドの傍を歩き回った。後ろに手を組み、まるで推理中の名探偵ホームズのようだ。
それからベッドに乗って腹筋したり、体をねじったり。ヨガらしき変な事もしているが、多分詳しいポーズは知らないんだろう。
思いつきであれこれ奇妙な体操をしたあげく、急に目を閉じて瞑想を始めた。
片手を胸の前で拝むようにし、もう片方の手は膝の上に柔らかく置いて。瞑想というよりどこかの仏像のようだが、数分後、雪菜はベッドの上で体育座りした。どうやら寝るのを諦めたらしい。
(昔からそうだけど、観察してると飽きないねえ……)
ヒカリは素直にそう思った。
歳は確か24、ヒカリより2つ歳下であるが、しっかりしてるのか抜けているのか、今でもよく分からない仲間である。
……それでもたった一つ分かるのは、この子がとびきり優しいという事だ。
この絶望の世界で、生き残るのは彼女のような子がいい。意地っ張りな自分より、きっとその方が正解だろう。ヒカリは常々そう思っていた。
「……ね、何か話さない?」
眠れなかった手前、雪菜は照れ臭そうに言った。
「昔の……パイロット時代みたいに。戦いの後、こうしてみんなでお喋りしたよね?」
「したねえ。つかさに言うと怒られるけど、何回も徹夜したねえ」
ヒカリが言うと、雪菜はとびきり嬉しそうに頷いた。
「そうそう、ほんとに楽しかった! いつ死ぬか分からないから、生きてるうちに全部話したかったのかな?」
雪菜は10代の少女に戻ったように目をきらきらさせているが、そこでふと尋ねてきた。
「そう言えば、2人はどうして第3船団に来たんだっけ?」
もっともな疑問である。ヒカリの出身は旧新潟県、つかさは兵庫。怪訝に思うのも無理無いだろう。
「それは……明日馬っちが江戸っ子だったからね。ボクもつかさも随分助けられたし……明日馬っちが居なくなった今、ボク達が取り返さなきゃって。北陸には他にも神武勲章隊のメンバーがいるし、何も心配してないから」
「ヒカリがそう言う時は、心配でしょうがないって時でしょ?」
雪菜は割と鋭い事を言うが、そこで彼女は感慨深そうに宙を見上げた。
「明日馬くん、か……」
懐かしむような、愛おしむような不思議な横顔である。
「……そうよね、関東の人だものね。平和になったら、神田明神さんのお祭りに出たいって、いつも言ってたわ。子供の頃から楽しみにしてたから、なんとしてももう一度って……」
雪菜はしばし沈黙する。
(しまった、ついしんみりさせちゃったか……)
ヒカリは内心反省した。
雪菜は明日馬と恋人だったため、その死を今でも受け止められていないのだろう。
どうしていいか分からなかったが、こういう時、ヒカリの引き出しにはふざける以外の選択肢が無いのだ。
「……言っとくけど、ボクは明日馬っちにラブい気持ちを持ってたわけじゃないよ? 君と明日馬っちがラブのラブラブ、もうとんでもない事だったのは知ってるわけだし」
「いやいや、全く何にも、とんでもなくないわ。いつ出撃か分からなかったから、デートだって出来ないし。キスぐらいしか……した事ないもの」
素直な雪菜は、手をブブブブン、と振りながら赤くなっている。こうなればもう一押しだ。
「そうだった。人目もはばからず、チュッチュ、チュッチュとやってたよね。まさに人間マシンガン、愛の治外法権。夢の公然猥褻カップルさ」
「誰がいつそんな事をっ!? 1回だけっ、ノーマシンガン! ワンタイム! ワンモア!」
「そうかい? でも今はあの弟子と、愛を紡いでる事も調査済みだよ」
「つっつつつ、紡いでないっ!! どこ情報よそれは!!」
雪菜は顔から蒸気が出そうな勢いで叫んだ。それから少しボリュームを抑えて言う。
「……い、いえ……紡ぐつもりが無いわけじゃないんだけど……まだ、紡げていないのでありまして……」
「前も駄目、今回も駄目駄目。チミは一体、いつになったら動くんだね?」
「……あい、申し訳ありません」
雪菜は体育座りのまま、赤い顔で俯いたが、ヒカリはそこで謝罪した。
「なーんてね、偉そうに言ってゴメン。お詫びにひとつお見せしようか」
ヒカリはそこでベッドから立ち上がり、背筋を伸ばしてついと進み出る。
昔習っていた日本舞踊を……そしてテレビで見た鎌倉祭りを思い出し、ヒカリは舞った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる