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第四章その6 ~いざ勝負!~ VS闇の神人編
つるちゃんの挑戦状
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早朝、日本アルプスの南端。
白き雲海のその上に、闇の神人・鳳天音は浮かんでいた。
後方数十キロには、魔王ディアヌス……つまり、かつて八岐大蛇と呼ばれた肥河之大神が歩を進めている。
人型に転じた背丈は100メートルに及び、その力は全てを凌駕する。全ての者に等しく滅びをもたらす絶対的破壊神……そして嘘偽りない純粋なる殺意の化身。
(ああ、ディアヌス様……肥河之大神様。もうすぐあの偉大なる御方が大地を断ち割り、この憎き日の本を粉々にしてくださる……!)
天音はその光景を思い浮かべてうっとりした。
尊きお役目を担う大神様の前に立ち、歯向かう愚か者どもを露払いする……それが今の自分の役目だ。
(宿敵永津彦の襲撃に備え、大神様は出来るだけ注意を雑魚に割きたくない。そのために、私が矛となり盾となって災いを祓ってみせる……!)
(そう、そうなのだ。魔族どもではない、私にこそ大神様をお守り出来る……! 私はこのために生まれ変わったのだ……!)
次々に思索を巡らせ、最早恍惚としてくる天音だったが、ふいに前方に、小さな光の玉が浮かび上がった。
「何だ、あの光は……?」
警戒する天音をよそに、玉はゆるゆると近づいて来る。
やがて玉は一際強く輝いて、鎧姿の少女を映し出した。
長い黒髪を後頭部で結び、額には白いハチマキ。薄青色の着物に身を包み、腰には太刀を佩いている。
前より髪が伸びてはいるが、高天原の神々が選び、地上に遣わしたもう1人の神人・大祝鶴姫に間違いない。
彼女は片手を腰に当て、もう片方の手で天音を指差した。
「やっと来たわね、さあ勝負よ! 私は元々水軍だし、新型の空飛ぶ船を借りてきたわ。地の気が渦巻くこの山で、見つけられるものなら見つけてみなさい!」
つまり霊力によるメッセージ、果たし状だ。
いかにも考え無しな物言いであったが、映し出された巨大な船は、鬼達が見せてきた航空戦艦の図面にそっくりだった。
低空を移動し、通常の陸戦兵器とは比べ物にならない威力の大口径砲を発射する、人間どもの切り札の一つ。これを撃退しなくては、後から来るディアヌス様の妨げになるやもしれん。
だが少女はそこで更に腹立たしい事をした。懐から小さな鈴を取り出し、こちらに見せ付けたのだ。
「私もめちゃんこパワーアップしたし、もちろんナギっぺの守り鈴も一緒だから」
その鈴の音を耳にした途端、天音は一瞬で沸点に達した。
「ええい、鬱陶しいっ!!!」
天音が叫ぶと同時に、少女の姿は四散した。
だが怒りは消えず、ふつふつと心の底から沸きあがってくる。
(ただ歯向かうだけならともかく、あの女神の……あの法螺吹きの加護を求めるなどと……まさに万死に値する愚行……!)
すぐにでも八つ裂きにしてやりたかったが、目の前の白い雲海は、刻一刻と姿を変えていた。
「何だ……妙な気が流れ込んでくる……?」
天音は辺りを注視する。
地の底から青い気が満ちてきて、雲海を少しずつ染めていくのだ。その色合いから、あたかも雲の大海原であった。
「自ら地脈を開き、大地の気を溢れさせて隠れる……霊力では敵わぬと知って、私の不意を打つつもりか?」
天音は我知らず笑みを浮かべていた。
なんと未熟な、そして愚かな考えだろう。たかがこのような目くらましで、本当に隠れられると思っているのか。
独りでにくつくつと笑いが漏れた。
「……甘いぞ小娘、貴様とは術の練度が違う。こんなドブに入らなくても、ネズミ捕りは出来るのだ……!」
天音が胸の前で手を叩き合わせると、体の周囲を黒い邪気が覆った。
このまま周囲に広げればいつもの感知能力なのだが、今回はそんな生易しいものではない。
練り込まれた邪気はどろりとした粘り気を帯びると、天音の体からどんどん湧き出た。そのまま青い雲海へ、アメーバのように流れ込んでいくのだ。
邪気を集中する事で密度を高め、触手のように扱っているのである。
これならいくら周囲の気が騒がしかろうと、何かが触った時点で気付くはずだ。
邪気はどんどん広がりながら、まるで山肌を溶岩が舐めるように、地形に沿って広がっていく。
「…………見つけた!」
天音はそこで片手を頭上に掲げた。
するとたちまち邪気が渦巻き、巨大な黒い球を為す。
次の瞬間、そこから飛び出た幾筋もの気が、流星のように雲の下に殺到したのだ。
たったこれだけの攻撃だったが、付近の全ての生き物をたちどころに腐らせたはずだ。
「……違う。熊か、それとも猪だったか……?」
邪気の先端に、木々とは違う何かが触れたように感じたのだが、どうやら動物だったようだ。
天音は再び感覚を集中した。わずかな変化も感じ取れるよう、らんらんと輝く目で雲海を見下ろす。
「絶対に逃がさん。見つけ次第射抜いて、自慢の船を打ち砕いてやろう……!」
白き雲海のその上に、闇の神人・鳳天音は浮かんでいた。
後方数十キロには、魔王ディアヌス……つまり、かつて八岐大蛇と呼ばれた肥河之大神が歩を進めている。
人型に転じた背丈は100メートルに及び、その力は全てを凌駕する。全ての者に等しく滅びをもたらす絶対的破壊神……そして嘘偽りない純粋なる殺意の化身。
(ああ、ディアヌス様……肥河之大神様。もうすぐあの偉大なる御方が大地を断ち割り、この憎き日の本を粉々にしてくださる……!)
天音はその光景を思い浮かべてうっとりした。
尊きお役目を担う大神様の前に立ち、歯向かう愚か者どもを露払いする……それが今の自分の役目だ。
(宿敵永津彦の襲撃に備え、大神様は出来るだけ注意を雑魚に割きたくない。そのために、私が矛となり盾となって災いを祓ってみせる……!)
(そう、そうなのだ。魔族どもではない、私にこそ大神様をお守り出来る……! 私はこのために生まれ変わったのだ……!)
次々に思索を巡らせ、最早恍惚としてくる天音だったが、ふいに前方に、小さな光の玉が浮かび上がった。
「何だ、あの光は……?」
警戒する天音をよそに、玉はゆるゆると近づいて来る。
やがて玉は一際強く輝いて、鎧姿の少女を映し出した。
長い黒髪を後頭部で結び、額には白いハチマキ。薄青色の着物に身を包み、腰には太刀を佩いている。
前より髪が伸びてはいるが、高天原の神々が選び、地上に遣わしたもう1人の神人・大祝鶴姫に間違いない。
彼女は片手を腰に当て、もう片方の手で天音を指差した。
「やっと来たわね、さあ勝負よ! 私は元々水軍だし、新型の空飛ぶ船を借りてきたわ。地の気が渦巻くこの山で、見つけられるものなら見つけてみなさい!」
つまり霊力によるメッセージ、果たし状だ。
いかにも考え無しな物言いであったが、映し出された巨大な船は、鬼達が見せてきた航空戦艦の図面にそっくりだった。
低空を移動し、通常の陸戦兵器とは比べ物にならない威力の大口径砲を発射する、人間どもの切り札の一つ。これを撃退しなくては、後から来るディアヌス様の妨げになるやもしれん。
だが少女はそこで更に腹立たしい事をした。懐から小さな鈴を取り出し、こちらに見せ付けたのだ。
「私もめちゃんこパワーアップしたし、もちろんナギっぺの守り鈴も一緒だから」
その鈴の音を耳にした途端、天音は一瞬で沸点に達した。
「ええい、鬱陶しいっ!!!」
天音が叫ぶと同時に、少女の姿は四散した。
だが怒りは消えず、ふつふつと心の底から沸きあがってくる。
(ただ歯向かうだけならともかく、あの女神の……あの法螺吹きの加護を求めるなどと……まさに万死に値する愚行……!)
すぐにでも八つ裂きにしてやりたかったが、目の前の白い雲海は、刻一刻と姿を変えていた。
「何だ……妙な気が流れ込んでくる……?」
天音は辺りを注視する。
地の底から青い気が満ちてきて、雲海を少しずつ染めていくのだ。その色合いから、あたかも雲の大海原であった。
「自ら地脈を開き、大地の気を溢れさせて隠れる……霊力では敵わぬと知って、私の不意を打つつもりか?」
天音は我知らず笑みを浮かべていた。
なんと未熟な、そして愚かな考えだろう。たかがこのような目くらましで、本当に隠れられると思っているのか。
独りでにくつくつと笑いが漏れた。
「……甘いぞ小娘、貴様とは術の練度が違う。こんなドブに入らなくても、ネズミ捕りは出来るのだ……!」
天音が胸の前で手を叩き合わせると、体の周囲を黒い邪気が覆った。
このまま周囲に広げればいつもの感知能力なのだが、今回はそんな生易しいものではない。
練り込まれた邪気はどろりとした粘り気を帯びると、天音の体からどんどん湧き出た。そのまま青い雲海へ、アメーバのように流れ込んでいくのだ。
邪気を集中する事で密度を高め、触手のように扱っているのである。
これならいくら周囲の気が騒がしかろうと、何かが触った時点で気付くはずだ。
邪気はどんどん広がりながら、まるで山肌を溶岩が舐めるように、地形に沿って広がっていく。
「…………見つけた!」
天音はそこで片手を頭上に掲げた。
するとたちまち邪気が渦巻き、巨大な黒い球を為す。
次の瞬間、そこから飛び出た幾筋もの気が、流星のように雲の下に殺到したのだ。
たったこれだけの攻撃だったが、付近の全ての生き物をたちどころに腐らせたはずだ。
「……違う。熊か、それとも猪だったか……?」
邪気の先端に、木々とは違う何かが触れたように感じたのだが、どうやら動物だったようだ。
天音は再び感覚を集中した。わずかな変化も感じ取れるよう、らんらんと輝く目で雲海を見下ろす。
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