新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
74 / 110
第四章その7 ~急転直下!~ 始まりの高千穂研究所編

あの日助けてくれた若武者

しおりを挟む
『里抜け』

 人の忍び里でも聞く言葉らしいが、その言葉の持つ意味は重い。

 集団の掟が厳しいものであればあるほど、外に逃げ道があると成り立たなくなるからだ。

 1人を許せば連鎖的に組織が瓦解がかいするため、当然ながらカノンにも追っ手が差し向けられた。

 ただし、通常の鬼はカノンに歯向かえない。邪神・双角天の血を色濃く引いた本家筋のカノンには、本能的に遠慮してしまうからである。

 この血に弓引けるのは、あの歳経としへた憎き古鬼ども、そして奴らが使う暗殺用の『黒人形』のみであった。

 だが、なんとか『それ』を振り切ったかと思うと、今度は全神連に見つかった。

 こっちの方が厄介だった。どれだけ逃げても隠れても、どこまでもどこまでも追いかけてくる。

 邪気の少ないこの時代、強い鬼の気を追うのは容易たやすかっただろう。

 少しでも追いにくいかと思い、海に飛び込み逃げた。

 逃げて逃げて、何個目かの島に泳ぎ着き、力尽きて浜に横たわった。

 そこで彼と出会ったのだ。

 よく日に焼けた凛々しい若者は、緊張した面持ちでこちらを見据えている。

 彼は手にしたおけを置き、腰にく太刀に手をかけた。

 そうこうするうちに、追っ手どもの気配が迫ってくるのを感じた。

(……もうだめだ…………ここまでか……)

 ともすれば遠退とおのきそうになる意識で、カノンはぼんやり男を見つめていた。

 さんざん苦しめてくれた追っ手より、今この若者に首をねられた方が楽な気がした。

 彼は太刀に手をかけたまま、一歩カノンに近づいた。もう一歩。もう一歩。

 カノンはそれを他人事のように眺めていたが、いつまで経っても刃は飛んで来ない。

 彼はしばしカノンを見下ろしていたが、そこできびすを返した。先ほど置いた手桶を持ち、そのまま歩き去っていく。

「…………?」

 カノンは不思議そうに見送ったが、浜辺の道は曲がりくねっており、すぐに後ろ姿が見えなくなる。

 そして追っ手どもの声が聞こえた。

「ここに鬼神族のおさが来ているはずだ!」

(……長ではないわ、阿呆ども……)

 カノンは内心毒づいたが、そこでふと気が付いた。

(そうか。あの男、後始末を任せる気か。面倒な鬼退治などして、呪いをもらってもつまらんからな)

 兜首かぶとくびにもならぬ相手だし、だったら全神連の追っ手どもに任せてしまおうというわけか。

 だが次の瞬間、彼が一喝いっかつする声が聞こえた。

「そのような物の怪もののけ、私は知らぬ!」

「し、しかし現にここに……」

「知らぬものは知らぬ! さあ答えよ、大祝家おおほうりけにお仕えし、三島大明神様をお守りする我がげんが、信に値せぬと言うか!」

 追っ手どもは動揺したようだった。

 後で聞くと、三島大明神は国家総鎮守こっかそうちんじゅと名高い神であり、大祝家はその祭祀さいしをつかさどる、霊的に恐ろしく身分の高い家系。

 その名が出た以上、追っ手どもは無碍むげには出来なかったのだろう。

 しばし後、若者は戻ってきた。なぜか無表情だった。

 彼は無言でしゃがみこみ、腰を降ろして項垂うなだれた。

「やってしまった……」

 確かにそう呟いた。

 後で聞いたら、甘い自分に嫌気がさしていたのだという。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...