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第四章その10 ~最終決戦!?~ 富士の裾野の大勝負編
みんなのエール1
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誠は正気を取り戻せずにいた。倒れた機体を起こす事も忘れ、ただ虚空を見上げるのみだ。
みじめな誠を囃し立てるように、餓霊どもの叫びは続いている。
だがそこで筑波が叫んだ。
「今だっ、修正当てろぉおおっ!!!」
「……っ!?」
誠ははっとしてモニターを見やった。そこには船の戦闘制御室が映されている。大勢の技術者達が、実戦で発覚した震天の動作不具合に、必死で修正を試みているのだ。
筑波は作業を指揮しながら、誠に向かい声をかけた。
「損傷軽微……よーしよしよし、よく生きてた、上出来だ!」
「上出来……?」
夢現のように言う誠に、筑波は頷く。
「魔王相手にまだ生きてるんだ、上出来から上だろ?」
「…………」
誠は答えられなかったが、筑波は安心させるように続ける。
「大丈夫だ、お前1人に押し付けるつもりはない。俺達も一緒だからな……!」
額は汗びっしょりだったが、無理に笑顔をこちらに見せる。やせ我慢の典型のような表情であり、誠はその顔に見覚えがあった。
遠い昔、横須賀の避難区にいた誠達は、昼夜を問わず鳴る警報に怯えていた。今にも人喰いの化け物どもが押し寄せる……そんな恐怖に震える孤児達の頭を、筑波は黙って撫でていた。
例え強がってでも子供達を守ろうとした、本物の大人の顔だったし、その時と同じ顔を彼はしていたのだ。
そこで画面には、いきなり鎧姿の少女が映った。
「黒鷹、船から何かを送ってるんでしょ? 邪気で乱れてるみたいだから、私が間に入るわね!」
愛鷹山から駆け下りた鶴が、コマに乗って走りながら、こちらの通信に割り込んで来たのだ。
鶴が胸の前で祈るように手を合わせると、こちらの機体が白い光に包まれる。すると通信環境が改善され、修正プログラムの導入速度がケタ違いに跳ね上がった。
誠は今までの快進撃を思い出す。ここまで日本を取り戻せたのは、本当にこの子のおかげだった。
邪気による通信障害で、連携すら取れず敗走を繰り返していた人々は、彼女の登場によって反撃の狼煙を上げたのだ。
どんな絶望の霧の中でも、彼女がいれば言葉は伝わる。思いだって届く。
それを証明するかのように、鶴は誠にウインクした。
「黒鷹、なんだかいっぱい応援が来てるわ。かたぱしから映すから、ちゃんと見てあげてね……!」
そこで画面には、横須賀の難波達が映っていた。
戦いの一部始終を見守る難波は声を失っていたが、そこで後ろのドアが吹っ飛び、宮島と香川が現れた。
「あ、あんたら、ほんまに起きてええんか?」
「んな事ぁどうでもいいだろ、なんで声出さねえんだよっ!」
「そうだ、念仏唱えるより、まずは応援だろうっ!」
少年達はずかずか踏み込むと、画面の前にかじりついた。
「おっ、隊長の顔映ってるじゃん! これ通じてるんだろ? 隊長、しっかりしろよ! 俺らがついてるからな!」
「先にお陀仏なんかしたら、葬式にあの写真集飾るぞ!」
共に死線を潜り抜けてきた仲間達は、そう言って画面を叩いている。
「鳴っち、うちもおるで!」
難波も元気を取り戻したのか、宮島達を突き飛ばしながらモニターに映った。
「結果なんか気にせんでええ、もしもの時はうちも一緒や! 思いっきりいって、うちらの根性見せつけたりや!」
普段はふざけてばかりの難波は、目に涙を浮かべていた。
画面には、次々他の人々が映し出されていく。
「何やってんだこらぁっ、あんたはそんなもんじゃないだろっ!」
日に焼けて気の強そうなポニーテールの少女は、あちこち包帯を巻いている。先日まで一緒に戦っていた東北のエースパイロット・凛子である。
「そうだ、お前ならきっと出来る!」
「おら達が保証するべ!」
孝二やしぐれも叫ぶが、派手なスタジャンを着た恭介が喋ろうとすると、興奮した凛子が彼の頭を掴んで揺さぶる。
「むぐっ、凛子隊長、俺も喋りたいのに……!」
さらに続々と応援が届いていた。
雪菜は金の髪をなびかせ、机をバンバン叩いている。
「鳴瀬くんっ、ファイトよっ! 竜馬師匠もついてるわ!」
同じ神武勲章隊だった九州の天草や、北陸の嵐山・船渡夫妻も映っていた。
天草はアマビエのキーホルダーを手に乗せ、こちらに熱く訴えかける。
「誠くん、呼んでくれたら飛んでくわ! こう見えて羽があるんだからっ!」
嵐山と船渡は、同じ部屋にいるようだ。2人とも机に手を置いて画面に身を乗り出しているが、その薬指には指輪があった。
「ちょっと君っ、あたし達だけ幸せにして、勝手に不幸にならないでよ!?」
「後輩が幸せじゃなきゃ、こっちもやりづらいからな!」
船渡は顔を真っ赤にしながら、それでも男らしく言ったのだ。
みじめな誠を囃し立てるように、餓霊どもの叫びは続いている。
だがそこで筑波が叫んだ。
「今だっ、修正当てろぉおおっ!!!」
「……っ!?」
誠ははっとしてモニターを見やった。そこには船の戦闘制御室が映されている。大勢の技術者達が、実戦で発覚した震天の動作不具合に、必死で修正を試みているのだ。
筑波は作業を指揮しながら、誠に向かい声をかけた。
「損傷軽微……よーしよしよし、よく生きてた、上出来だ!」
「上出来……?」
夢現のように言う誠に、筑波は頷く。
「魔王相手にまだ生きてるんだ、上出来から上だろ?」
「…………」
誠は答えられなかったが、筑波は安心させるように続ける。
「大丈夫だ、お前1人に押し付けるつもりはない。俺達も一緒だからな……!」
額は汗びっしょりだったが、無理に笑顔をこちらに見せる。やせ我慢の典型のような表情であり、誠はその顔に見覚えがあった。
遠い昔、横須賀の避難区にいた誠達は、昼夜を問わず鳴る警報に怯えていた。今にも人喰いの化け物どもが押し寄せる……そんな恐怖に震える孤児達の頭を、筑波は黙って撫でていた。
例え強がってでも子供達を守ろうとした、本物の大人の顔だったし、その時と同じ顔を彼はしていたのだ。
そこで画面には、いきなり鎧姿の少女が映った。
「黒鷹、船から何かを送ってるんでしょ? 邪気で乱れてるみたいだから、私が間に入るわね!」
愛鷹山から駆け下りた鶴が、コマに乗って走りながら、こちらの通信に割り込んで来たのだ。
鶴が胸の前で祈るように手を合わせると、こちらの機体が白い光に包まれる。すると通信環境が改善され、修正プログラムの導入速度がケタ違いに跳ね上がった。
誠は今までの快進撃を思い出す。ここまで日本を取り戻せたのは、本当にこの子のおかげだった。
邪気による通信障害で、連携すら取れず敗走を繰り返していた人々は、彼女の登場によって反撃の狼煙を上げたのだ。
どんな絶望の霧の中でも、彼女がいれば言葉は伝わる。思いだって届く。
それを証明するかのように、鶴は誠にウインクした。
「黒鷹、なんだかいっぱい応援が来てるわ。かたぱしから映すから、ちゃんと見てあげてね……!」
そこで画面には、横須賀の難波達が映っていた。
戦いの一部始終を見守る難波は声を失っていたが、そこで後ろのドアが吹っ飛び、宮島と香川が現れた。
「あ、あんたら、ほんまに起きてええんか?」
「んな事ぁどうでもいいだろ、なんで声出さねえんだよっ!」
「そうだ、念仏唱えるより、まずは応援だろうっ!」
少年達はずかずか踏み込むと、画面の前にかじりついた。
「おっ、隊長の顔映ってるじゃん! これ通じてるんだろ? 隊長、しっかりしろよ! 俺らがついてるからな!」
「先にお陀仏なんかしたら、葬式にあの写真集飾るぞ!」
共に死線を潜り抜けてきた仲間達は、そう言って画面を叩いている。
「鳴っち、うちもおるで!」
難波も元気を取り戻したのか、宮島達を突き飛ばしながらモニターに映った。
「結果なんか気にせんでええ、もしもの時はうちも一緒や! 思いっきりいって、うちらの根性見せつけたりや!」
普段はふざけてばかりの難波は、目に涙を浮かべていた。
画面には、次々他の人々が映し出されていく。
「何やってんだこらぁっ、あんたはそんなもんじゃないだろっ!」
日に焼けて気の強そうなポニーテールの少女は、あちこち包帯を巻いている。先日まで一緒に戦っていた東北のエースパイロット・凛子である。
「そうだ、お前ならきっと出来る!」
「おら達が保証するべ!」
孝二やしぐれも叫ぶが、派手なスタジャンを着た恭介が喋ろうとすると、興奮した凛子が彼の頭を掴んで揺さぶる。
「むぐっ、凛子隊長、俺も喋りたいのに……!」
さらに続々と応援が届いていた。
雪菜は金の髪をなびかせ、机をバンバン叩いている。
「鳴瀬くんっ、ファイトよっ! 竜馬師匠もついてるわ!」
同じ神武勲章隊だった九州の天草や、北陸の嵐山・船渡夫妻も映っていた。
天草はアマビエのキーホルダーを手に乗せ、こちらに熱く訴えかける。
「誠くん、呼んでくれたら飛んでくわ! こう見えて羽があるんだからっ!」
嵐山と船渡は、同じ部屋にいるようだ。2人とも机に手を置いて画面に身を乗り出しているが、その薬指には指輪があった。
「ちょっと君っ、あたし達だけ幸せにして、勝手に不幸にならないでよ!?」
「後輩が幸せじゃなきゃ、こっちもやりづらいからな!」
船渡は顔を真っ赤にしながら、それでも男らしく言ったのだ。
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